今年になって初めて、オオイヌノフグリを見かけました。青く小さなその花は、私のいちばん好きな花です。この花が咲いているのを見ると、心浮き立つ春の訪れを感じるのです。
8年前の2月、当時臨月を迎えた私は産休に入りました。毎日散歩をすると安産につながるという話を耳にし、1日に2時間程度の散歩をすることにしたのです。当時暮らしていた街は散歩コースには事欠きませんでした。住宅街を抜けるとのどかな田園風景が広がっています。とりわけ川沿いの田んぼの中の畦道を歩くコースが私のいちばんのお気に入りでした。金色に輝くベールを纏ったような春先の淡い光を浴びながら、一歩一歩大地の温もりを確かめるように歩いたものです。まだまだ真冬の寒さが厳しい時期ですが、それでも、じっと春を待つ生命の息吹がそこかしこから感じられました。長男の誕生が自然の営みとぴったり重なるような気がして、たったそれだけのことなのに、この宇宙すべてに祝福されているように感じたものです。今思えばなんて能天気だったのだろうと笑ってしまいますが。
「早く出ておいで。ママが守ってあげるから。全然怖くないよ。早く会いたいよ。」
おなかの中の長男にそう心の中で声をかけながら歩く畦道の道端は、満開のオオイヌノフグリで彩られていました。
早いものであれから8年。長男は元気過ぎるほどやんちゃ坊主に成長しました。あれこれと問題を起こし私の心配の種は尽きません。気がつけばため息ばかり、途方に暮れることもしばしばです。つい先日も担任の先生から苦情の電話をいただき、またかと落ち込んでいたところでした。
オオイヌノフグリが咲きはじめると思い出します。
「早く出ておいで。ママが守ってあげるから。」
そう語りかけながら歩いたあの道を。ただ無事に誕生してくれることだけを祈ったあのころを。迷ったときは原点に戻るのがいちばん。青く小さな花は、そう励ましてくれているような気がしました。
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