江戸時代の寺子屋の教育は、一斉指導でも個別指導でもありませんでした。それは、子供たちの自学自習をもとにして成立していました。
勉強の方法は、先生が何かを教えるという面は少なく、子供たちがある手本を真似することによって自ら学ぶという形でした。
真似をする学習というものは、その真似がすっかり自分のものになるまではあまり面白い勉強とは言えません。しかし、完璧に真似ができるようになると、その真似を表現することが楽しくなってきます。
徹底した真似は、初歩的な個性発揮よりもはるかに程度の高いものです。
欧米が個性と才能と天才の文化だったとすれば、日本の文化は、模倣と技能と熟練の文化だったと言ってもよいでしょう。
この模倣という方法を学校での作文の勉強にも生かすことができます。
日本の学校教育における作文指導は、二つの問題点を持っているように思います。
ひとつは、小学校低学年で作文指導をしすぎるという問題です。読む力がまだ不十分で、作文の書き方(表記)の基礎を身につけていないのに、自由に作文を書かせて間違いを直すというようなところに力が入れられすぎています。小学校低学年のころは、よい文章を繰り返し読んで、読む力をつけることによって書く力の土台を作ることが大事で、書くことをそのものを追求するのは、多くの子供にとって先取りしすぎた指導になっています。
問題点の第二は、小学校低学年での作文指導のしすぎとは反対に、小学校高学年から中学生高校生にかけての作文指導の不足です。この原因は、作文という生徒の個性を発揮する学習に対して、先生の評価や講評が追いつかないという理由によるものです。この場合も、生徒が模範となる文章を模倣して書き写すという練習を中心にしていけば、文章を書く機会は今よりももっと飛躍的に増やすことができます。
この手本の模倣というのが、江戸時代の寺子屋教育の中心で、この方法によって日本では当時の世界最高の識字率と手紙普及率が育っていったのです。(つづく)
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