未来の社会では、子供が学校で勉強するのと同じように、大人もみんな熱心に勉強や習い事をしています。会社が終わると、ほぼ毎日必ず何かの習い事をしてから家に帰ってきます。
未来の社会では、人間が学校を卒業して就職するようになると、すぐにそのような習い事をいくつも始め、そこからだんだん自分の好きな習い事に絞っていき、これと決めたものはそれから10年も20年も続けます。
すると、40歳ぐらいになると、自分がその習い事を教える仕事もできるようになってきます。そこで、みんなそれぞれに工夫して、自分がこれまで身につけたものを組み合わせて教えるので、そこで、新しい習い事の創始者になる人も多いようです。
そうして、勤めていた会社を定年でやめるころになると、もう自分ですっかり新しい仕事を教える準備ができているそうです。
K君のお父さんは、そう教えてくれました。
僕は、昔、中学の社会科の授業で、「日本の経済発展にはこれから内需が必要だ」ということを習いましたが、日本人どうしがお互いに習い事を教えるというのが、未来の新しい内需になっているようでした。
しかも、こういう習い事は、何十年も続けてきているものなので、中には普通の人の及びもつかないような高度な技能を持つ人もいます。そういう人は、人間国宝のような称号が与えられて、4年に1回開かれる文化オリンピックで表彰されるそうです。
僕がいた過去の日本の社会でも、碁や将棋の名人、包丁一本の料理職人、作詞家や作曲家など、自分の持っている技術で生きている人がいましたが、未来の社会では、それがいろいろな分野に広がっています。
中には剣玉名人のような、一見簡単にできそうなものもありますが、それを何十年もきわめている人がいるので、今では高度な芸術的スポーツのようになっているということでした。
昔の日本の社会では、みんなが「欲しい」と思うものは主に「物」でしたから、「物」を買って豊かな生活を送っても、収入は別のところで働いて稼いでこなければなりませんでした。すると、働けなくなると収入がなくなってしまいます。
「物」の社会では、買えば買うほどお金が減ってくるので、みんなはなるべくお金を使わないようにしていました。
しかし、未来の日本の社会では、みんなが「欲しい」と思うものは、「物」よりも自分の「修行」になっています。自分の「修行」は買っているうちに、自分の能力になってきます。すると、今度は、その能力を売ることができるようになります。
このようにして、「修行」の社会では、お金を使えば使うほど自分の能力が増えてくるので、みんながなるべくお金を使うようになっています。貯めておいても自分の能力は増えないからです。
こうして、「物」の消費社会から、「修行」の自己投資社会に世界で最も早く移行した日本の社会は、今では世界一豊かな国になっているということでした。
日本が、世界で初めてこういう修行の社会になったのは、日本人が勉強好きだということが大きな理由のようでした。(つづく)
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