この本の第7章は、「MOOCと限界費用ゼロ教育」です。
教育においても、限界費用ゼロが成り立ちつつあるということで、MOOC(Massive Open Online Course)の例が取り上げられています。
MOOCは、大学の優れた授業をオンラインで世界中の誰もが利用できるようにすることによって、大学教育の限界費用ゼロ化を実現しています。
費用がゼロなのではなく限界費用がゼロだということは、初期投資はそれなりにかかるが、その仕組が動き出してしまえば、新しい参加者が1人増える場合のコストは限りなくゼロに近づいているという意味です。
MOOCによって教育の形も大きく変化します。
これまでの工業社会に適応した教育は、教師がトップダウン式に生徒に講義を教える形の授業が中心でした
しかし、これからの教育は、教師は世話役という背景に退き、生徒が自ら学び、そしてその学んだことを生徒どうしのコミュニティで共有する形になっていきます。
ところが、このような教育への移行は、実はそれほど簡単ではありません。それは、限界費用がゼロに近づくということは、利益も限りなくゼロに近づくということだからです。
では、なぜ大学がMOOCのような教育を始めたかというと、それは、できる条件が整っているのにやらなければ、ほかのところが先にやるからです。
しかし、それが資本主義的なビジネスモデルになるかというとそういうことはありません。MOOCでいくら多数の学生が世界中から集まったとしても、それは企業的な意味での利益になりません。
それにも関わらず、このMOOCの教育は、既存の教育ビジネスを破壊する影響力を持っています。
将来、人間の社会は、今のような企業中心の社会ではなく、コモンズ(共有地)のような社会になるでしょう。そこでは、あらゆるものが限界費用ゼロに近づき、誰でもが社会の生産力をほぼ無償で享受できるようになります。そこに当然、教育を受けることも含まれます。
しかも、その無償の教育は、国の補助によって成り立つような無償ではなく、教科書も、先生も、教室もすべてが限界費用がゼロになることによって成り立つ無償ですから、人間が太陽の恩恵を受けるような意味での自然な無償です。
だから逆に、MOOCのような教育は、現在の収益と費用の差を動因にして動いている社会での教育との連続性がないのです。
このMOOCの持っている弱点を克服し、未来の無償の教育への移行をスムーズにすることが、これからのオンライン教育の課題になると思います。