人間の知的な能力を三角形の面積と考えると、底辺が知識の量で、高さが思考力になると考えられます。
思考力は、人間にはもともと備わっている能力なので、身長や体重の差がそれほど大きくないように、どの人もあまり変わらないと思います。
未来の社会は、だれもが同じような知的能力を持ち、だれもがそれぞれの持ち場で創造的な仕事をする社会になるでしょう。
しかし、そのときに問題になるのは、思考力よりもむしろ知識の量です。
知識の量は、正しい情報と理解力によって決まります。正しい情報は、外の環境に依存するものですから、問題は理解力です。
大量の知識を高速に理解する能力を育てることが、未来の教育の最初の課題になります。
さて、動物には適応力があります。環境の一時的な変化に対する適応が、より長期間の永続的な変化に対応するようになったものが進化です。
カンブリア期の進化の大爆発の原因は、光と眼の登場によるものだとの説があります。環境が変化した以上に、生物が、その環境の変化を眼で認識できるようになったことが、爆発的な進化の原因だったのです。
人間は、この環境の変化を人為的に作り出すことができます。自分が作り出した環境の変化に適応すること、これが練習とか訓練とかいうものです。
反復によって小さい環境の変化を作り出し、それをまた反復によって適応するという形で、人間は自分を成長させることができます。これが、練習をする人間と、練習をしない動物との違いです。
こう考えると、練習のポイントがわかってきます。
一つは、なるべく小さい時期から練習することです。湯川秀樹は5、6歳のころから論語の素読をしましたが、この時期は練習がすぐに環境となる時期なので、それだけ効果も高かったのです。
もう一つは、反復することです。反復のためには、今日も、明日も、明後日も、毎日続けることが大切です。毎日続けることによって、その練習が環境となるのです。
また、毎日の反復だけでなく、1日のうちでも反復する仕組みを作ればなお効果があります。長い文章を1回だけ音読するよりも、短い文章を何十回も暗唱する方が、練習が環境になりやすいのです。
動物の進化は、小さいものを大きくする、既にあるものを別の用途に使う、という形で進みました。
小さいものを大きくする例としては、馬の蹄(ひづめ)があります。馬の蹄は、中指が大きくなったものです。
既にあるものを別の用途に使う例としては、クジラのヒレがあります。クジラのヒレは、もちろん手足が変化したものです。
同じようなことが人間の理解力にも言えると思います。
ここからは、仮説です。
まず、小さいものを大きくするということで考えてみます。
理解力の重要な要素を記憶力と考えると、短期記憶の単位を大きくするという形で記憶力が大きくすることができそうです。すると、数十字の文章を一つの単語のように覚えることができるのではないかと思います。
次に、既にあるものを別の用途に使うということで考えてみると、手続き記憶を短期記憶に使うということができそうです。記憶術は、本来ばらばらにある物事をイメージ化してストーリーにあてはめて覚える技術です。これを技術としてではなく能力として身につけることができるのではないかと思います。
日本の子供は、小学校低学年のときに九九を苦労して覚えますが、桃太郎のあらすじを苦労して覚えることはありません。しかし、物語のあらすじは、覚えるつもりがなくても自然に覚えています。
同様に、英語の単語は、個々ばらばらの単語として覚えるよりも、文章の中で覚えた方が覚えやすいと言われています。これを更に発展させて、単語帳の1ページを丸ごと物語のあらすじのように覚えることもできるのではないかと思います。
現在は、記憶力や理解力の差が学力の大きな差となって表れています。
しかし、未来の社会では、だれもが同じように優れた記憶力、理解力を持つようになると思います。
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