「学力を高める『朝の読書』」(山崎博敏編著 メディアパル)は、80ページで1100円の本ですが、密度の濃い、事実に基づいた調査結果が載っています。学校関係者には、必読の書だと思います。
「朝の10分間読書」は、1998年、千葉県の高校の先生によって始められました。その後、日本では任意団体の運動として「朝の読書」の運動が進められ、現在多くの小中学校が「朝の読書」に取り組んでいます。
韓国では、この日本の運動をヒントに更に徹底した取組が行われ、その読書教育の成果によって、韓国は、2007年のOECD学習到達度調査の読解力分野で、フィンランドを抜いて世界第1位になりました。
日本では、「朝の読書」は、自主的な運動として行われているため、県によって取組状況に違いがあります。県別のグラフを見ると、「朝の読書」の実施率と全国学力調査の成績には、高い相関があることがわかります。
実際、「朝の読書」運動を進めている小学校は、国語の成績だけでなく算数の成績も高いという結果が出ています。中学校でも、「朝の読書」と成績の相関はありますが、小学校よりも影響は少なくなっています。そのかわり、中学生は、学校での「朝の読書」よりも、家庭でよく本を読む子が、国語、数学の成績が高いという結果が出ています。
「朝の読書」を進めることによって、学力がつくだけでなく、先生と生徒の人間関係が良好になっています。また、生徒が自主的になり、授業が活発になるという効果があるようです。これは、家庭での読書でも同様で、家でよく本を読んでいる子は、親子の人間関係がよいという結果が出ています。
ところが、学校での「朝の読書」と、家庭での読書習慣は、不思議なことに結びつきがほとんどありません。学校で本を読む読まないに関わらず、家庭で読む子は読んでいるし、読まない子は読んでいないということです。ということは、家庭は家庭で独自に読書環境を整えないと、本を読む子にはならないということです。
では、家庭で読書をさせるためには、どうしたらよいのでしょうか。調査結果は、意外なことを教えてくれています。「親が本をたくさん買ってくれた」「子供時代に本をよく読んでくれた」ということは、子供の読書とあまり結びついていません。最も結びつきの強いのが、「親もよく本を読んでいる」「家に本がたくさんある」ということです。
学校での「朝の10分間読書」は、先生も一緒に10分間、本を読むという形で行われました。家庭での、夕方の読書も、親が一緒に本を読むという形で進める必要があると思います。
言葉の森でこれまで家庭での読書として提案していたのは、「夕方の勉強が終わったら、50ページ以上の読書をして、あとは寝るまで何をしてもよい」というやり方でした。
しかし、50ページ以上というのは、子供によっては負担が大きいようです。また、習い事に行っているので家庭での勉強をしていないという子もいるようです。
そこで、だれにも取り組みやすい方法として、今後、夕食後の10ページ付箋読書を提案したいと思います。学校の一斉授業では、10分間という時間の区切りがわかりやすいと思いますが、家庭では時間で計るよりも、ページ数で数えた方が取り組みやすくなります。また、読んだところに付箋を貼っておけば、あとですぐに続きを読むことができます。
そして、この10ページ読書で大事なことは、親もそのときはテレビをいったん消して、食後の片付けなどもいったん休んで、一緒に本を読むということです。小学校時代に、この夕方の10ページ読書の習慣がつけば、その後、子供が中学生になっても自分で本をよく読む子に育っていくと思います。