社会に出てから使える能力は、単純にその人がもともと持っている能力の総和ではありません。
その人が既に持っている能力を前提として、それらをそのときどきの目標に向けて、創造的に組み合わせる能力こそが社会で生かせる能力です。
通常、学校ではそのような能力の教育はなされません。学校の目的は、能力を伸ばすことですから、そのためには自由に選択できる手段を制限して、限られた細い水路の中で、特定の能力だけを伸ばす訓練をする必要があるからです。例えば、社会に跳び箱のような障害物があった場合、それをうまく跳び越す人ももちろんいるでしょうが、中には迂回したり、跳び箱そのものを片付けたり、はしごをかけて跳び越えたりする人もいます。それらすべてその人にとっての創造的な解決策なのです。
では、この創造的な能力はどこで身につくのでしょうか。それは、主に遊びの中でです。遊びには、目標はあっても手段の制限はありません。この遊びの中で子供たちは、自分の持っている能力を最大限に生かすための創造性を学んでいくのです。
この遊びによる創造性と同じ役割を果たす勉強が作文です。
作文の中で身につく能力は確かにあります。それは、一定の時間に目標とする字数を正確にわかりやすく書く力です。しかし、作文の本当の目標はその先にあります。それは、自分が今持っている材料(実例、語彙、思考力)を有効に組み合わせてよりよい文章を書くという能力です。
作文を書く面白さは、実はここにあります。書くことによって、新しいものの見方、新しい表現の仕方、個性、感動、共感、ユーモアなどを美的に創造するというのが作文の目的です。
現在の作文教育は、正しくわかりやすく書くという初歩的な段階の指導と、作文小論文入試に合格するために書くという受験対策的な指導とに分化しています。しかし、作文教育の本道は、創造性を育てる作文という第三の道にあるのです。
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