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暗唱で言葉を身体化することによって読書力がつく  2010年7月25日  No.973
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 長い文章を暗唱をしていると、途中から眠くなります。特に眠くなるのは、だんだん暗唱ができるようになってきたときです。暗唱のし始めや、暗唱がすっかりできるようになったあとは眠くはなりませんが、暗唱がもう少しでできるようになるというころが、いちばん頭脳に負荷がかかるようです。

 脳の研究によると、音読は脳を活性化させるそうです。また、すっかり覚えた文章を音読しているときは、逆に脳はリラックスするそうです。ここから考えると、暗唱ができるようになる直前は、脳が、活性化でもリラックスでもない一種独特な状態になるときのようです。


 その独特な状態とは、文章が身体化する過程という状態です。50字程度の短い文章は、文節でいうと7文節以内であることが多いので、短期記憶で処理できます。しかし、300字から900字の長い文章は、身体の外部にあるもので、それを内部に取り入れるためには、普通は、文章を部分的に理解していくしか方法がありません。暗唱は、この長い文章を部分的に理解して消化する方法ではなく、長い文章のまま丸ごと自分の内部に取り入れようとする方法です。

 言葉は普通、道具として使われているので、言うときは言っておしまい、聞くときは聞いておしまい、という使われ方をします。例えば、犬がいることを相手に伝えようすれば、「犬がいる」といえばそれで済みます。また、相手から、「犬がいる」という言葉を聞いて理解できればそれで言葉の役割は終了します。長い文章の場合も、この小さい単位の部分的な理解を次々と連続させていくだけです。

 しかし、暗唱は、このような道具的な使い方ではなく、言い続ける、聞き続けるという行為を反復することですから、この反復を繰り返す中で言葉が道具以外のものに変化します。言い続けることで言葉が身体化し、聞き続けることで言葉が世界化すると言ってもいいでしょう。


 視覚や聴覚は、生まれつき身体化しています。これに対して、視覚や聴覚を補う眼鏡や補聴器は道具ですから、必要に応じて簡単に取り外すことができます。言葉は、眼鏡や補聴器ほど簡単につけたり取り外したりすることはできませんが、視覚や聴覚ほど身体化していない道具です。

 視覚や聴覚は、身体の一部になっているので情動と直接的に結びついています。しかし、言葉と情動の結びつき方は間接的です。だから、映像や音楽は、だれにとっても同じように感情的な影響を与えますが、言葉は受け取る人の言葉の身体化の度合いによって感情への影響度が異なります。


 この言葉を身体化する過程が、暗唱です。言葉が単なる道具ではなく、身体の一部になるにつれて、言葉の感受性や吸収力が増していきます。これは、あらゆる道具に共通する性質で、道具が反復によって身体の一部になると、その道具による表現力が増すだけでなく、その道具の対象となる世界に対する感受力も増してくるからです。

 絵筆が体の一部になっている人は、世界を見るときも、その絵筆の表現力に応じて世界をより絵画的に見ることができます。音楽でも詩でもスポーツでも同じです。表現力が高まり、道具が身体化する度合いに応じて、表現の対象に対する感受性が増してきます。

 言葉の吸収力が増すと、本を読んだ場合でも、その本の内容がより早く深く自分の内部に消化されるようになります。暗唱は、単独でも効果がありますが、毎日の読書と結びつくことによって更に大きな効果が発揮できるようになるのです。

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