現代の日本の社会における子供たちの学力低下は、次のような流れで起こっていると考えられます。
まず、家庭教育の機能が低下していることです。そのため、子供たちの勉強力格差が拡大しました。その結果、学校教育の一斉授業が効果的に行われないようになり、学力の格差が更に拡大しました。そこで、低学年からの私立学校化志向が生まれました。そのため、勉強の内容が、学力をつけるための勉強から、受験に勝つための勉強に変わっていき、その傾向が低年齢化していきました。勉強が受験という目標に絞られた結果、学ぶ喜びを感じられない勉強をする子が増え、そういう子供たちがそのまま成長するという仕組みになっているのです。
高校生のころになると、だれでも、勉強の中で自分が向上するという喜びに目ざめるようになります。ところが、低学年から勝ち負けの勉強に適応していると、高校生になってもその延長で勉強というものを考えてしまいます。勉強は苦しいけど、やらないと競争に負けるからやむを得ずやるという考えです。
楽しいから勉強するという子と、苦しくても我慢して勉強するという子とどちらが伸びるかといえば、楽しみながら勉強できる子の方です。今の日本の社会は、楽しいから勉強するという子が減り、苦しいけど勉強するという子が増えているのです。
こう考えると、いちばんの土台となる家庭教育の足場をしっかりさせることが、学力を回復させる鍵になります。
学力テスト上位県の特徴は、学校で宿題を出すことが当然のようになっており、家庭学習がその宿題に対応して行われていることです。つまり、家庭で毎日何を勉強するかということがはっきりしているので、親が迷わずに子供に家庭学習をさせることができます。
これ対して、学力テスト下位の主に都会の県では、親が家庭学習とし子供に何をさせるのかというよりどころがありません。そこで、通信教育の教材や通学の塾などに頼るようになります。ところが、これらの教材や塾は、学力をつけることよりも、子供たちが取り組みやすいこと、点数という結果が出やすいことに力点が置かれがちです。
そのような勉強で子供たちに意欲を持たせようとすれば、競争や褒美に力を入れるということにならざるを得ません。こうして、勉強はますます学ぶ喜びから遠ざかったものになっているのです。
家庭教育は、市販の教材や塾に頼らずに、真に学力のつく教育として取り組むことが大事です。それが何かということをひとことで言えば、豊かな日本語の力を育てるということです。それは、学力の本質が日本語力だからです。
例えば、近代日本を切り開いた勝海舟、福沢諭吉、西郷隆盛、坂本竜馬などは、今の小中学校にあたる年齢のときに、今で言う英語や数学などの勉強はしていませんでした。勝海舟や福沢諭吉が外国語を勉強したのは成人してからです。この時代の日本人全体の学力の基盤は、日本語の読み書き以外にはありませんでした。その日本語の読み書きの力をしっかりつけることで、その後の新しい勉強の土台ができたのです。
では、豊かな日本語力はどのようにしてつくののでしょうか。
日本語の学習は、質、量、密度の三つの点から考えられます。日本語の質と量は、生活の中で自然に身につくものです。例えば、毎日の読書や対話を、少し難しく、しかし楽しく、したがって数多く経験していくことです。また、密度に関しては、同じものを繰り返すことです。対話においては同じ話題、読書においては同じ本を繰り返し味わうことが日本語力の土台になっていくのです。(つづく)
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