人間は昔から、香りに興味を持ち、香りの原料つまり香料を探してきました。
香料には動物性のものと植物性のものとがあります。動物性のものとしては、ジャコウ鹿からとれるムスクが代表的です。植物性の香料として一般的なものは、なんと言っても花々です。例えば、ブルガリアのダマスクローズは、古くから貴重な香料とされてきました。この花のエッセンスは高値で取引され、今でも世界中で愛されています。
しかし、植物性の香料は花だけではありません。どちらかといえばなじみの薄い、しかし大変広く使われている香料、それがフルーツの一種であるベルガモットです。この果実のエッセンスは、女性用の香水の約三分の一に、また男性用のコロンの約半分に入っています。このフルーツからとれるエッセンスには、いろいろな香りをまとめて一つの香りにするという働きがあり、これがほかの香料にはない特性なのです。
ベルガモットはミカン科の植物で、秋から冬にかけてオレンジほどの大きさの実をつけます。香水になるエッセンスは、この果実の皮からとれます。ベルガモットの主な産地は、イタリア半島のカラブリア地方で、ほかの土地ではほとんど育ちません。というのも、この植物は、暖かくしかも南向きの土地で、強い風の吹かない、湿度の低いところでないと育たないからです。
この植物の起源そのものは深いなぞに包まれています。野生のベルガモットというものはなく、この植物を種から育てることもできません。ベルガモットは、ほかの柑橘系の木々に挿し木をして育てるしかないのです。野生のベルガモットがあれば、香水も、もっとヤセイものになっていたでしょう。
神秘に包まれた香りの世界。だからこそ、より魅力的なのかもしれません。
言葉の森長文作成委員会(Μ)
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