クロソラスズメダイは、イトグサという藻をえさにしています。スズメダイはさんご礁にすみますが、沖縄の琉球列島のクロソラスズメダイは、このさんご礁の中にたくさんのイトグサを育てています。自分で自分のえさを育てているので、「自給自足」というわけです。
では、クロソラスズメダイはどんなふうにイトグサを育てるのでしょう。さんご礁の中にはイトグサ以外にもたくさんの種類の藻が生息しています。クロソラスズメダイは、自分が食べるイトグサ以外の藻類が成長し始めると、口でそれを抜き取ります。イトグサは、こうしたクロソラスズメダイの保護なしには、生存競争にやぶれて、その場所は、他の藻類に覆われてしまうのです。
クロソラスズメダイは、自分の育てているイトグサを食べてしまうニザダイや、時にはウツボのような肉食性の生き物をも追いはらい、自分の藻を大切に守ります。ですから、ライバルがいなくなったイトグサはぐんぐん大きくなれるわけです。イトグサは、「クロソラスズメダイさん、ありがとう。ウツボの思うつぼにならなくてよかったよ。おれいにぼくを食べてね」といっているようです。
クロソラスズメダイは一匹一匹がなわばりを持つ魚ですが、自分のなわばりの中にあるえさの藻だけを管理して、まるで芝生のようにしげらせています。
似た例で、アメリカ大陸に、キノコを育てるハキリアリがいます。自分の巣の中に葉っぱを運び込み、それを噛み砕いた中でキノコを育てるのです。ハキリアリは、はりきってキノコを育てるので、キノコはアリの巣の中で、ありがたいことだと思っていることでしょう。
言葉の森長文作成委員会(φ)
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