包丁で指を切ってしまったり、転んでひざをすりむいたり、そんな怪我をした経験はだれにでもあるでしょう。そんなとき傷口から血が出てきます。ひどい怪我の場合は血が流れ出ることもあります。痛いのはもちろんのこと、普段はあまり見ることのない赤い血がにじみ出てくるのですから、しばらくは大騒ぎしてしまうかもしれません。その騒ぎがおさまり、心も平静を取り戻す頃、傷口ににじんでいた血は、糊のように固まってきているはずです。やがて少しずつ乾いて固くなり、かさぶたになるのです。
血、つまり血液にはたくさんの働きがあります。傷口から出てきた血液が固まるのは、血小板という物質が働いてくれるためです。血液はいくつかの成分が合わさって形作られていますが、血液の中で血小板が占める割合は約五パーセントにすぎません。ふだん静かな血小板は、怪我をしたときにだけ、まるで決勝戦のように大活躍するのです。
では、けがをしたときに血小板はどのように働いて血を止めるのでしょうか。血管のどこにも傷がなく、止血の必要がないときの血小板の形は、丸くて平たく、まるでおはじきのようです。そのおはじきは血液の流れとともに、体中をめぐっています。町中を巡回するおまわりさんといったところでしょうか。
ところが、血管に傷口ができるという緊急事態が発生すると、巡回中の血小板たちはあっというまに現場に集まってきます。そのときは、おはじきだった体を金平糖のように変化させます。この変身は「血小板の活性化」と呼ばれています。平たかった体はボールのような球状に変わり、おまけに何本もの手足が飛び出してきます。この手足は偽足と呼ばれますが、「にせのあし」と書かれたその字のごとく、まるで足のような働きをします。緊急時の血小板は、この偽足をじょうずに操って血管の中をすばやく移動し
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