その夜も洗面所で歯ブラシを使っていたら、ガラス戸いちまい向こうの風呂場で、子どもたちが、喋っていた。
まず中学一年の兄貴が、少し大人っぽい口調ではじめる。
「うちのとうちゃんは、このごろ、ちょっと、おかしいと思わんか。」
「そうや、そうや。」
だいたいがイエス・マン風の小学四年の次男は調子がいい。
「とうちゃんは、自分で、子どものことが専門や、子どもの味方やと、いばっとるけど、とうちゃんのいう子どもとは、よその家の子どものことと違うか。」
「そやそや。ぼくら、うちの子を、あまりかわいがってくれへんわ。」
「帰ってくるのが遅い、いうのが、第一まちがっとる。それに、よう外泊しよる。」
「日曜でも、あれは何や。仕事です原稿かきます、とか何とかいうとるけど、自分の部屋で、ぐうぐう眠っとるのやで。どこにも連れていってくれへん。」
「つまり、とうちゃんのいうとる子どものなかには、ぼくらは、はいっとらん、いうわけや。」
やつらはなかなか手きびしい。
なるほど、わたしはあまり早く帰宅するとはいえないし、帰らない日も少なくないのである。
(中略)
そのときは、それで終わったのだが、やがてしばらくすると、わたしの部屋へ、そろってやってきたのである。というより、兄貴の方が、あまり乗り気でない次男をひきずって、いわゆる団体交渉にきたものとみえる。
「おとうちゃんに、聞くけどな。」
兄貴から、きりだしてきた。
「まい晩おそいのは、仕事や、というとるけど、何の仕事しとるのや。」
「まだ、わかっとらんな。とうちゃんはな、何十万、何百万という子どもたちのためにな、骨をおって、りっぱな影絵やらアニ
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