家の中で飼っているイヌが、自分の足で部屋のドアを開けるところをみたことがある人もいると思います。このとき私たちは、そのイヌを「頭がいいなあ」と感心してしまいます。もちろん生まれつきそうするようにイヌの脳のなかに組み込まれていたわけではなく、おそらくご主人様のすることをみて学習したのでしょう。いずれにしても、何かの課題に対する動物の行動が、ヒトのとる行動と同じであったとき、私たちはその行動を「賢い」と思います。
イルカについてみてみましょう。これまでおこなわれてきた種々の認知に関する研究では、イルカの示した行動や、結果の内容そのものにヒトやチンパンジーと共通した点が多くみられています。言語に関した研究では、イルカが、人間の文法をある程度理解できることがわかりました。また、イルカの社会生活を観察してみると、そこにはヒトと同様の高い社会性を見いだすことができました。
しかし、「だからイルカは『賢い』」と断言するのは危険です。よく考えてみると、イルカの知能の程度を知ろうとしたはずのこれらの実験や観察は、実は、ある課題や状況に対する対処のしかたが、いかにヒトのやり方に近いかを測っているに過ぎないのです。
動物の知能に序列をつけた研究は少なくありませんが、いずれの場合も必ずヒトが第一位になるような基準になっています。ハトやラット、あるいはチンパンジーやイルカが、ヒトより「頭がよい」ではいけないのです。しかし、実際にはどうでしょうか。
動物の行動や生活はじつにさまざまで、空を飛び回る種類もあれば、地中を自由に動き回るものもいます。また、昼に活発に活動するものもあれば、夜しか行動しない動物もいます。このように、動物はそれぞれ異なった生態をもっているわけで、したがって、その動物にはその動物にあった環境への適応の仕方があるのです。そんなそれぞれ異なる動物間で、知能を比較することなどできるのでしょうか。
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