恐らくまだ私が小学校へあがらない、小さい時分のことだったろう。丁度薄ら寒い曇った冬の夕方だった。私は兄と父と三人で散歩に出たことを覚えている。父の方から私等を散歩に誘うことなどはなかったから、おおかたこの時も私等が「つれてって、つれてって」と無理に父の後へひっついて行ったものだろう。道はどういう道を通って行ったか、うろ覚えにさびれた淋しい裏町を通りながら、私等はいつの間にか、いろいろと見世物小屋の立ち並んだ神社の境内へ入っていた。薄気味悪いろくろっ首や、看板を見ただけでも怖気をふるう安達ケ原の鬼婆など、沢山並んだ小屋がけのうちに、当時としてはかなり珍しい軍艦の射的場があり、私の兄がその前に立ち止まってしきりと撃ちたい、撃ちたいとせがんでいた。恐らく私も同様、兄と一緒にそれを一生懸命父にねだっていたことだろう。父は私等に引っ張られて、むっつりと小屋の中へ入って来た。暗い小屋の内部の突当りに、電気で照らされた明るい舞台があり、ここかしこと遠く近く砲火を交える小さい軍艦を二三艘描いた青い油絵の大海原を背景に、伝記仕掛の軍艦が次から次へと静々と通過していた。ガランとした小屋の中には、客が二三人いるばかりで、そのうち当の射撃者はただ一人しかいなかった。撃った弾丸が命中すると、軍艦がぱっと赤い火焔を噴いて燃えあがりながら、それでも依然として何の衝撃も受けぬらしく、その軍艦は今まで通り静々と舞台の上を過ぎて行く。私はもちろんそれが本当に燃えるものとは思わなかったが、それでもどうしてあんなに本当らしく燃えるのだろうと、子供心に驚異の眼を見張りながら、一心不乱にこの光景を眺めていた。すると、
「おい?」突然父の鋭い声が頭の上に響いた。
「純一、撃つなら早く撃たないか」
私は思わず兄の顔へ眼を移した。兄はその声に怖気づいたのか急に後込みしながら、
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