小3の子のお祖父さんという方から相談の電話がありました。
「漢字が書けないので、担任の先生に注意されたらしい。どうしたらいいか」という内容です。
漢字が書けないという学習障害もあるかもしれませんが、そういうケースはごくまれで、漢字が書けないのは単に漢字の練習をしていないからです。
ところが、漢字の勉強というのは簡単そうに見えますが、確実に力をつけるためにはかなり時間がかかります。
そのため、たいていの子は、少し漢字の勉強を始めてみたものの、いつの間にか飽きてやめてしまうのです。
それは、今の漢字の勉強法が、漢字ドリルを解くような形で進められることが多いからでもあります。
江戸時代の寺子屋での漢字の勉強は、往来物と呼ばれる手紙形式で書かれた一種の教科書を音読する形で行われていました。この教科書には、生活に必要な難しい漢字がぎっしり盛り込まれていました。まずそれらを読めるようにして、そのあと書く練習をしていたのです。
この勉強法は現代にも生かせます。
学校で習う漢字は、教科書に出てくるつど、その漢字や熟語だけ取り上げて勉強するのではなく、文章の形である時期に集中して読めるようにしてしまえばいいのです。
漢字の勉強のいちばんの目的は、漢字が書けるようになることではなく、その漢字で書かれた文章が読めることにあります。
漢字の書きは、パソコンで変換すれば誰でもできます。漢字の意味は読みがわかればすぐに調べられます。しかし、漢字の読みだけはあらかじめ知っていないと、手も足も出ない感じがしてしまうのです。
中国には、千字文という千字の漢字を一文字ずつ使った詩があり、これが漢字を学ぶ教科書になっていました。
日本でも、いろは47文字(「ん」を入れると48文字)が、日本語のかなを習う教科書のような役割を果たしていました。
同じように教育漢字を学年ごとにつなげ、ひとまとまりの文章にして音読できるようにするという試みも、既に何人かの人によって取り組まれています。
しかし、これらの試みの多くは、意味が通じる文章ということを優先しているため、文章のリズムとしては必ずしも読みやすいものにはなっていないようです。
そこで、言葉の森では、意味よりも読みのリズムを優先した漢字音読集を作りました。
これなら、小学校で習う教育漢字だけでなく、中学校で習う常用漢字もすぐに作れます。
言葉の森では、毎日の自習として1日10分ほどの暗唱で1ヶ月で約1000字の文章を暗唱する練習をしています。同じ要領でこの漢字集の音読をやれば、小1から小6で習う約1000字の漢字も、わずか1ヶ月で全部読めるようになります。
同じように、中学校で習う約1000字の漢字も、約1ヶ月で読めるようになります。
このように漢字の読みが学年よりも先取りしてできるようになると、今度はふりがなのふっていないちょっと難しい文章も読めるようになります。
また、漢字の暗唱ができるようになったら、暗写をすることによって、漢字の書き取りも学年を先取りしてできるようになります。
今、日本には、両親が外国人である子供も増えていますが、これらの子供たちのいちばんの学習上の障害は難しい文章が読めないことにあります。日常会話では不自由しないのに、文章の読み取りが苦手なために、勉強が難しくなる小5あたりから勉強についていけなくなる子が多いのです。
文章が読めないというのは、日本語の場合、ふりがなのついていな漢字が読めないというところから来ています。
だから、漢字の読みの先取り学習を、この漢字音読集で行えば、学習上の困難は大きく緩和されます。
日本には、江戸時代の教育遺産から学ぶものがまだかなりあるのです。