受験とは、点数の差をつけるためのものですから、難しくなければなりません。
しかし、知識の詰め込みのような形でなく、考える力で難しくするためには、人間が考えにくい形で考えさせる問題を作る必要があります。
そこで、どんな問題が出るかというと、ひとつは、多数の短期記憶を必要とする問題です。
人間の頭は一度に7つぐらいのことしか同時に処理できないので、それ以上の変数がある問題が出せられると、途端に処理速度が落ちるのです。(パソコンに似ていますが)
そのときの対応のコツは、多数の情報を圧縮して処理することです。
例えば、都立白鴎中の2012年の問題で、8つのタワーの並び方を問う問題が出てきます。
それは、
1.神戸ポートタワー
2.東山スカイタワー
3.横浜マリンタワー
4.銚子ポートタワー
5.さっぽろテレビ塔
6.福岡タワー
7.東京タワー
8.東京スカイツリー
の8つです。
そして、それぞれのタワーの条件として、
A.電波塔であるかどうか
B.関東地方にあるかどうか
C.平成元年以降にオープンしたかどうか
の3つがあります。
これらの組み合わせを考えるときに、いちいち「東京スカイツリーは、電波塔であって、関東地方にあって、平成元年以降のオープンで……」と考えていたら、それだけで短期記憶のメモリーをほとんど使ってしまいます。
そこで、タワーの頭文字だけを操作すればいいようにするのです。
すると、「『す』は『でかへ』で……」となるので、思考の速度がぐんと上がります。
もうひとつの人間の脳に苦手な操作は、物事を立体的に思い浮かべることです。
人間の目は、平面的に見ることに慣れているので、立体的なものの向こう側を操作することがなかなかできません。日常生活では、実際に立体の後ろ側に回って処理すればいいので、頭の中だけで立体の処理をすることに慣れていないのです。
都立小石川中の2012年の立体図形の問題がちょうどそういう問題です。
図8の「1」の列の16個を「4」の列の16個とそっくり入れ換えたのが図9です。
つまり、図8の「1」の「イ」の「B」に隠れていた「色のついた立方体」が、図9の「4」の「イ」の「B」に見えるようになったということです。
問題は、図9に何度か操作を行い、色のついた立方体4つのうち1つだけが見える状態にすることができるか、できるとしたらその方法はどうか、というものです。
日常生活では、こういう問題は実際に立方体を動かせば済むことなので、頭の中で考えて処理するようなことはありません。
だから、こういう問題は難しく感じるのです。
こういう問題に対応するコツは、フリーハンドで立体図をかいてみることです。そして、それを動かした図をまたかいてみるのです。
しかし、こういう図をかいてみようかと思いつくためには、普段から絵や図をかくことに慣れている必要があります。
それは、一見遊びのようなことですが、そういう時間の過ごし方が厚みのある学力になるのです。
厚みのある学力というと、太陽の動きや星座の動きのようなものも、立体的な上に球面で動くというわかりにくいところがあります。
天体の問題に対応するために、自分の家の周りで、どこから太陽が昇って、どこに沈むかということを感覚的に知っている必要があります。
こういうことも、生活の中で身につける学力なのです。