ログイン ログアウト 登録
 知能を高める教育(その8) Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 187番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/26
知能を高める教育(その8) as/187.html
森川林 2007/10/02 10:21 
 頭のよさとは、二次元的に足し算をするような能力ではなく、三次元的に掛け算をする能力だと述べました。
 足し算から掛け算に移るとき、一つのパラダイムの転換があります。簡単な計算ならば、慣れている足し算を猛スピードで行う方が早く答えにたどりつくかもしれません。しかし、問題が複雑になるにつれて、足し算のスピードアップは次第に限界近づき、掛け算の優位性がはっきりしてきます。しかし、足し算にいくら熟達しても、掛け算への飛躍はそこからは生まれません。足し算から掛け算に移るには、パラダイムの転換が必要だからです。足し算が量的に進化したものが掛け算なのではなく、足し算とは質的に異なった出自を持つものが掛け算だからです。
 ところが、学問の世界では、足し算をがんばることが到達点になってしまうところがあります。哲学も、経済学も、物理学も、医学も、それらの学問自体が膨大な体系を持っているので、その学問に熟達した人ほど、パラダイムの転換が難しくなります。ある分野で頂点に達した学者であればあるほど、新しいパラダイムを受け入れることが困難になります。これは努力や心構えの問題ではなく、人間の能力の仕組みがもともとそうなっているからです。
 では、人生において異なるパラダイムを身につける能力は、どこからやってくるのでしょうか。その最も大きな源泉は、年をとることです。年をとると、若いころには一方向からしか見られなかった社会や人生の様子が、異なる枠組みで見ることができるようになります。若者が、二次元的な能力で優れているときに、その二次元のレベルでは到底太刀打ちできない老人が、三次元的なレベルでは若者よりも頭のいい見方ができることがあります。
 井戸を掘ることを考えついた海蔵さんは頭のいい人でした。そして、実行力もありました。今で言うやり手のビジネスマンにもなれた人です。そのお母さんは、井戸掘りなど考えつきもしません。年をとっているので実行力もありません。ただ年をとっているだけです。しかし、その年齢が、若い海蔵さんには見えない三次元的な視野を生み出したのです。「おまえは、悪い心になっただな」と言ったお母さんの発言は、三次元から来ています。二次元にいた海蔵さんは、そのひとことで、自分の発想の限界に気づいたのです。

 もちろん、パラダイムの転換に必要なのは、年齢だけではありません。ほかにも、新しい経験や苦労、難しい読書、柔軟な姿勢などが、新しいパラダイムを形成することに役立ちます。
 そう考えると、子供たちが読むべき本も、自ずからその方向性が決まってきます。それはひとことで言うと、パラダイムのある本です。人気のある本の中にも、パラダイム形成にあまり役立たないパターン化された本があります。目立たない本の中に、子供たちのパラダイム形成に大きく役立つ本があります。
 もちろん、パラダイムという観点から意識的に文章を書いている作家はいません。いるとしたら、言葉の森長文作成委員会のメンバーだけです(笑)。だから、私たちが子供たちの本を選ぶ場合、その本がどれだけ子供たちに新しい視点をもたらすことができるかということを第一に考える必要があります。
 しかし、本自体にパラダイムがあるとともに、ある本をパラダイム的に読むかどうかということも重要です。一見、パラダイム形成とは無縁のように見える本を、一つのパラダイムを提起した本として読むことができるのです。例えば、桃太郎や浦島太郎は、ただの昔話です。しかし、これを大人が、ある現実に当てはめて子供たちに話して聞かせれば、その本は、子供たちにとってパラダイム形成のテキストとなります。
 パラダイム的に読むことが可能な本の典型が古典です。なぜかというと、古典は、異なる世代の大人にも子供にも共通して読まれた本だからです。東洋で言えば、四書五経、西洋では聖書が、その古典の役割を果たしてきました。四書五経や聖書の価値は、その本に書かれている内容だけにあるのではありません。その内容が、さまざまな時代の現実に当てはめられてきたという文化の厚みの中にあるのです。
 パラダイム的な書物も大事ですが、それ以上に大事なのが、読書をパラダイム的にする文化です。大人も子供も共通の文化として読む本があれば、子供たちの世界認識や自己認識は飛躍的に高まります。



同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。


コメント欄

コメントフォーム
知能を高める教育(その8) 森川林 20071002 に対するコメント

▼コメントはどなたでも自由にお書きください。
よらりる (スパム投稿を防ぐために五十音表の「よらりる」の続く1文字を入れてください。)
 ハンドルネーム又はコード:

 (za=森友メール用コード
 フォームに直接書くよりも、別に書いたものをコピーする方が便利です。
同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。

コメント1~10件
読解問題の解き Wind
面白かった 10/11
記事 4027番
長文の暗唱のた たろー
この世で一番参考になる 9/30
記事 616番
「桃太郎」を例 匿名
役に立った 8/15
記事 1314番
日本人の対話と 森川林
ヨーロッパの対話は、正反合という弁証法の考え方を前提にしてい 8/6
記事 1226番
日本人の対話と よろしく
日本人は上に都合がよい対話と言う名のいいくるめ、現状維持、そ 8/5
記事 1226番
夢のない子供た 森川林
「宇宙戦艦ヤマトの真実」(豊田有恒)を読んだ。これは面白い。 7/17
記事 5099番
日本人の対話と 森川林
 ディベートは、役に立つと思います。  ただ、相手への共感 7/13
記事 1226番
日本人の対話と RIO
ディベートは方法論なので、それを学ぶ価値はあります。確かに、 7/11
記事 1226番
英語力よりも日 森川林
AIテクノロジーの時代には、英語も、中国語も、つまり外国語の 6/28
記事 5112番
創造発表クラス 森川林
単に、資料を調べて発表するだけの探究学習であれば、AIでもで 6/27
記事 5111番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習