世の中には、受験勉強で大逆転を果たした例がいくつもあります。
最近では、偏差値を40上げて慶應大学に合格した話、偏差値29だった人が東大に合格した話、暴走族だった人が大学に合格して予備校講師になった話、などです。
この「暴走族だったオレが……」の本はもう絶版になっていますが、著者の吉野敬介さんの短期間の受験勉強は壮絶です。
最後は受験会場で力を出し尽くして倒れるまでの話が書いてあります(笑)。しかし、内容は感動的です。
もう少しまともな話では、と書くと上の例があまりまともではないようですが、ナイトー式学習法の内藤勝之さんの次のような例があります。
内藤さんは、5歳のとき木から落ちて怪我をしたことがもとで、小6の夏まで学校に通えませんでした。
しかし、小6の秋ごろストレプトマイシンという薬が開発されたために、症状が回復し、秋から急に学校に行けることになりました。
自宅で療養しているときは、漫画を読んでいるだけで何も勉強していなかったので、学校の勉強の基礎はほとんど何もありません。
しかし、父親から、わずか2ヶ月の間に、算数の九九、整数と分数の四則計算、ローマ字、漢字の書き方を教えてもらい、小6にそのまま編入させてもらいました。
そして、その状態で小6の勉強は、何も困らなかったというのです。
その後、中学生のときに病状がいったん再発し1年休学しますが、教科書を繰り返し読んで覚えるという単純な勉強法で、中3のとき滋賀県全体の模擬試験で一位の成績になります。
高校に進学したあとも、高3からの短期間の勉強で、それまでの勉強法で身につけた、薄い1冊の教材を繰り返し徹底して覚えるという勉強法で京都大学に合格します。
この内藤さんの例を見るとわかるように、勉強法の基本は、1冊を完璧にというやり方で、それを自分のペースで進めていくことなのです。
もうひとつの例を挙げます。
これは、渡部由輝(わたなべよしき)さんという、数学の勉強法の著書が多数ある人の例です。
渡部さんは、浪人時代、大手のマンモス予備校の難関クラスに通いますが、そこで出された試験問題が手も足も出ません。第一回目の模試では後ろから数えた方が早いような順位でした。
そこで、一ヶ月でその予備校をやめ、自宅で参考書を1冊に絞り、その中の問題をすべて解けるようになることを目標に秋まで勉強しました。すると、その後、予備校に復帰後の模試で、数千人の受験者中ベストテンに入る成績を収めたのです。
ここにあるのも、1冊を完璧に、自分のペースでやりきるという勉強法です。
もうひとつ、かなり昔の例ですが、本多静六氏の話があります。
本多静六(林学博士。一八六六~一九五二)は、現在の東京大学農学部に入学しますが、最初の数学のテストで赤点を取り落第をします。
一念発起した静六は、数学の例題集一千題を三週間で完璧に覚え切ります。
すると、次の学期のテストから百点が続き、数学の先生からはもう授業に出なくてもよいと言われるようになり、最後は成績優秀者に与えられる銀時計をもらうまでになるのです。
ここにあるのも、1冊を完璧に、自分のペースでやり遂げるという勉強法です。
これらの人々が、もし、「数学が苦手だから、数学をわかりやすく教えてくれる塾にでも行こう」という発想で、他人に教えてもらう道を選んでいたら、苦手な数学が少しずつわかるようになるという勉強はできたでしょうが、上に述べたような大逆転はなかったと思います。
では、なぜ多くの人は、大逆転の可能な自学自習の方法を選ばずに、そこそこにできるようになる見込みがあるという程度の、人に教えてもらう勉強法を選ぶのでしょうか。
それは、自学自習で勉強を進めることに不安があるからだと思います。
だから、この不安のない状態で、自学自習の勉強を進めることができれば、それが最良の勉強法になるのではないかと思います。(つづく)