子供の作文に対する要望で多いのが、もっと字を丁寧に書いてほしいということです。
特に男の子の場合は、かなりのお母さんがそういうことを言います。
文字は最初に書いたときの経験があとまで続くので、幼児期のまだ字の書き方を習っていない時期に、両親や兄弟の真似をして文字を書くと、その自己流の文字が定着してしまいます。
だから、字の下手な子は、頭のよい、好奇心の強い、何でも自分でやってみたがるという積極的な子に多いのです。
だから、子供に正しい字の書き方を教えるのは小学校に上がってから、という一律の基準ではなく、その子が文字を書くことに興味を持ち始めた時期からというように、家庭の方針を決めていくとよいのです。
さて、話は変わって、作文の字の書き方を注意するというような、欠点を直そうとする見方は、子供の成長にとってプラスにはなりません。
世の中で成功するコツは、欠点を直すことではなく長所を伸ばすことだからです。
昔、船井幸雄さんが企業へのアドバイスとしてよく言っていたことは、売上が下がったところに力を入れるのではなく、伸びているところに力を入れる、ということでした。
子供の育て方にも、同じことが言えます。
お母さんやお父さんは、その子のよいところをできるだけ見つけ、それをその子のよさとして認めていくことが大切です。
欠点に目を向けて、欠点を直すことに力を入れるお父さんお母さんは、自分自身の生き方に関しても欠点を直そうという真面目な人が多いように思います。
しかし、そういう真面目さは、周りの人からは評価されますが、本人自身の人生の満足感という点では、かえっては不十分であることも多いように思います。
ところが、ここでまた話は変わって、入学試験のような課題に取り組む際は、よいところを伸ばすよりも悪いところを直す方がよいのです。
例えば、理科がいつも90点以上取れるのに、社会がいつも70点以下だという生徒の場合、得意な理科を90点から100点にするよりも、苦手な社会を70点から80点にする方がはるかに簡単です。
だから、受験勉強は欠点を直すというところに力を入れていくのです。
算数数学の勉強の仕方も同じです。
自分の得意なよくできるところに力を入れるのではなく、自分ができなかったところに力を入れるからこそ得点が上がります。
だから、算数数学の問題集はただ漠然とやるのではなく、一度解いてできなかったところだけをピックアップして2度も3度も、解けない問題がなくなるまで磨いていくことが大事です。
そのためには、算数数学の問題集に直接計算や答えを書き込むのではなく、計算や答えをノートに書き出してやっていくことです。
算数数学の問題集には○か×かの結果をつけるだけにして、それ以上の計算や答えは書きません。
そうすると、その問題集の問題が全部解けるようになるまで、3度でも4度でもその問題集を使い尽くすことができます。
小学校低学年の算数数学問題集は、子供が取り組みやすくするためだと思いますが、問題集に直接書き込む形のものが多いようです。
しかし、ここで問題集に書き込むことに慣れてしまうと、学年が上がってからでもその癖がなかなか抜けません。
低学年のころから、算数の練習は、ノートに計算と答えを書くという習慣にしておくといいと思います。
さて、ではなぜ入学試験では欠点を直す方がいいのでしょうか。
それは、入試が答えのある世界だからです。
答えという枠がある世界では、その答えに向かって欠点を直していくことが最も効率のよいやり方です。
だから、かつての日本の高度経済成長時代のように、欧米の先進国に追いつくという答えがある社会では、足りないところを補ったり、欠点を直したりすることが効率のよい生き方だったのです。
今の大人の世代は、その文化の名残りをまだ持っているのです。
これからの社会では、よく言われるように答えはありません。
社会の変化や技術の変化が早いので、答えをそのつど見つけ、軌道修正し、自分で新しい問題を発見していくことが社会全体の大きな了解事項になってきます。
そういう社会でたくましく生きていくためには、欠点を直す生き方ではなく、長所を伸ばす生き方が重要になるのです。
作文の字の書き方の話から、だいぶ話が広がりましたが、子供の生活や勉強を見るときは答えという枠組みがある世界では欠点を直してもよいが、基本的には長所を伸ばすことで子育てをしていく方がよいと考えることが大切です。