■効果のある自主学習という勉強法
言葉の森が子供たちの自主学習に力を入れているのは、自主学習という勉強法が最も能率がよく最も効果が上がるからです。
学校や塾で人に教えてもらう勉強スタイルでは、自分のすでにわかっていることも聞かなければならない時間が必ずあります。場合によっては、1時間の授業全部が聞かなくてもよかった内容だったということもあります。
時間の価値は、教えてくれた先生の費やした時間ではなく、生徒が自分で新しい何かを身につけた時間です。
■1か月で数学が得意になった経験
私は、同じ世代の人の多くがそうであったように、塾にも予備校にも行きませんでした。
そのために、数学の難問を一人で何時間も考えるような無駄な時間もありましたが、トータルで言えば自分のペースでやる時間が豊富にあったことで、余裕のある学校生活を送ることができたと思います。
私がそう考えていたせいか、私の子供も、塾にも予備校にも行かず自分のペースで勉強していました。
しかし、上の子が中3のとき、数学がやや弱いとわかったので、夏休みに数学の問題集を各学年1冊、解けない問題がなくなるまでやることにしました。
「くわしい数学」(文英堂)という、普通かやや難しいレベルの問題集でした。
解けない問題は、本人が解法を見て理解し、1冊が全部終わるとまた最初に戻って解けなかった問題だけを解いて行くのです。
時々解法を見ても理解できない問題がありました。そのときは、私も一緒に考えましたが、そういう問題は1日に1題か2題だったと思います。
たまに私が考えてもよく分からない難問がありましたが、それは解けなくてもよいということにしました。
そうして、1か月の夏休みが終わってみると、数学は完璧にできるようになっていたのです。
副産物として、一緒に1日に1題か2題考えていた私も、高校入試の数学の難問はほとんど解けるようになっていました。
こういう経験をした人は、たぶん他にも多いと思います。
勉強は、結局難問に対する慣れで、繰り返して理解すれば誰でもできるようになるのです。
学校や塾の先生は、難関校の難しい問題の解き方を教えてくれます。
では、そういう先生がその難関校に合格する実力があったかというと、そういうことはありません。
ただ何度も解いて慣れてきたから、人に教えるぐらいにできるようになったというだけなのです。
■教えてもらうとわかった気がするだけ
私のうちの子が夏休みの1か月自分のペースでやった勉強を、もし家庭教師のような先生に教わる形で勉強していたとしたら、たぶん成績を上げるためにはもっと長い時間がかかり、もっと長い月日がかかっていたと思います。
その理由は、先生が教えようとするはずだからです。(不必要に教えない先生が、実はいい先生です。)
先生が教えるのは、子供が自分で考えて自分で解法を見ても理解できないときだけでいいのです。
もし子供が自分であまり考えずに先生に聞いたとすると、先生は優しくていねいに教えてくれるかもしれません。
しかし、それは多くの場合、わかった気がするだけに終わることが多いのです。
もちろんわかった気がするだけであっても、その問題を繰り返して解くようにすれば理解は定着します。しかし、多くの場合、わかった気がするだけで終わってしまうのです。
この数学の勉強と同じやり方が、すべての勉強に当てはまります。
国語でも英語でも理科でも社会でも、1冊の参考書または問題集を繰り返して読んでいくことで、誰でもできるようになります。
先生の話を聞いたりテスト受けたりする時間は、本当は勉強には必要のない時間で、そういう時間が少ないほど勉強の能率が上がります。
ただし、小学生は勉強の目的まで考えないので、初めはよいやり方だった勉強法が形骸化することがあります。
その、形だけになった勉強の仕方をチェックし軌道修正することが、先生の役割になると思います。
■中学生の定期試験対策は両刃の剣
中学生になると、定期テストの対策をしてくれる塾で、内申点をよくしようと考える人が多くなります。
その学校のその先生の定期試験の過去問をもとに、その傾向にあった対策をするのです。
過去問に対応した勉強というのは、試験に取り組む場合の鉄則です。
だから、このこと自体はよいことのように見えますが、問題は子供たちがそういうやり方が勉強だと思ってしまうことです。
勉強には、実力をつける勉強と、試験という競争に勝つための勉強とがあります。
中心になるのはもちろん実力をつけるための勉強で、たまに試験に勝つことが目的の勉強があります。
ところが、学校の定期試験という年に何回もあるような頻繁な試験で、競争に勝つことを目的とした勉強していると、そういうものが勉強だと思うようになってきます。
過去問対策とか、山をかけるというようなことはせず、自分が大事だと思ったことをしっかりやるのが勉強で、試験のために勉強をやるようになるとかえって実力がつかなくなります。
定期試験対策は、試験の一週間前からやれば十分で、普段は試験のための勉強ではなく実力をつけるための勉強にしていく必要があります。
その実力をつけるための勉強の方法が、自主学習です。
■小中学生の間の勉強は友達との交流の中で
ところで、小中学生のうちの勉強は、勉強の目的というものが考えにくい内容になっています。
その勉強をして実生活にどういう役に立つのかがわからないような基礎的な勉強が中心だからです。(その点で、プログラミングの勉強は、役に立つことが直感的にわかる面があります。)
小中学生の間の勉強は、子供たちの知的好奇心を刺激するような内容のものは少なく、逆に退屈な知識や技能を身に付けるものが中心です。
そういう勉強を続けるために、子どもたちの意欲を引き出すものは、点数による賞罰のようなものではなく、一緒に勉強している友達の存在です。
その友達の存在によって、時にいたずらや悪ふざけという脱線の時間が生まれるときもあります。
しかし、たまにそういう時間があることが、大きく見れば子供たちの、みんなと一緒に勉強しているという仲間意識の背景になります。
そして、仲間意識のない中で孤独に能率だけを考えて勉強するよりも、時にふざける時間もある楽しいクラスの方が、結局は長続きし成績も上がっていくのです。
だから、自主学習は、ひとりでやるよりも少人数クラスの子供たちの交流の中でやっていくのが、最も理想に近いスタイルだと言えるのです。
私が初めて私立高校入試の数学の問題を見たとき、「中学生のやっている勉強だから大したことはないだろう」と思っていたら、何のことはない、ほとんどできませんでした。ほぼ0点だったのです(笑)。
中心になっているのは、図形の問題でした。
ところが、子供と一緒に、難問を1日に1題か2題一緒に考えていると、1か月のうちにほとんどできるようになりました。
勉強は、結局答えのある世界だから、やれば誰でもできるようになるのです。
だから、こういう勉強にあまり早くから取り組むのは時間の無駄だと思いました。
それよりも、もっと自分の好きなことをする時間を大切にしていくといいのです。