ログイン ログアウト 登録
 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 1013番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/28
言葉の森のビジョン(その3) as/1013.html
森川林 2010/09/08 09:34 



 言葉の森のビジョンの図解説明の第3回です。




 さて、これまでの経済の特徴の一つである工業の発達によって豊かになった社会を工業社会と呼ぶと、工業社会の教育は次のような形で進められてきました。これが、現在まで行われていた教育です。

 個人は、豊かな消費生活を実現するだけの収入を得るために企業に勤めます。その企業で求める人材は、工業生産の優れた歯車として使える広範な基礎学力を持ち、企業の特定の専門分野で高度に能力を発揮できるような人材です。

 広範な基礎学力と優れた専門能力は、企業が求める人間像であるとともに、個人が自ら求める人間像でもありました。

 そのため、教育のスタイルは、ある目標をめざして全員が同じ方向で努力するものになり、その目標を達成するためにテストによる競争と勝敗が教育の中に自然に組み込まれるようになりました。

 同じ方向とは言っても、小中学校では比較的幅広い教科にわたって、高校大学ではある程度専門化された教科の枠の中で行われるという違いはありました。しかし、基本的な仕組みは、共通する目標に向かって一本道を進むという点で同じものでした。




 では、新しい時代の社会の仕組みはどうなるのでしょうか。

 自己の向上を欲望の焦点にした社会は、次のようなサイクルで成り立ちます。

 まず、個人はよりよい自分を求めて生きていきます。そのために、自分を向上させる何かを習おうとします。

 何かを習うことによって自分が次第に向上するとともに、やがて自分自身もほかの人に何かを教えることができるようなレベルにまで向上していきます。それは、向上をつきつめていくと創造が生まれてくるからです。

 その習い方を修行と呼び、習う場所を道場と呼ぶとすると、その道場での修行が権威を持つようになるにつれて、更に多くの優れた人がそこに参加するようになります。

 その修行者の増加によって生まれるものは、その修行自体の質の向上と修行の方法における技術革新です。その技術革新の結果、ますます多くの人がより高いレベルの修行に、より短期間で到達するようになります。

 工業社会では、技術革新によって生まれるものは主として省力化で、それは人間の労働力を不要とする方向で発展しました。それは、ある面では労働時間の短縮というプラスの面を生み出しましたが、他方では就業機会の減少や失業というマイナスの面も生み出しました。

 修行社会では、技術革新によって生まれるものは修行自体の発展で、それは人間の修行を効率化する方向で発展していきます。それは、修行の到達レベルの上昇と、修行の多様化を生み出します。工業社会では、技術の進歩につれて人間の労働が不要になるのに対して、修行社会では、技術の進歩につれて人間の修行内容がより豊かになっていくのです。

 このような時代は、人類の過去の歴史でも何度かありました。

 古代ギリシアでは、自由民と男性だけに限られてはいたものの、哲学や芸術やスポーツや政治の分野で市民が自由に自己を向上させることが社会のダイナミズムの中心になっていました。

 江戸時代の日本では、武士階級から町人階級まで広がる形で、武道、茶道、歌道などさまざまな分野の芸術や技能や武術や学問が多様に発展していました。

 しかし、江戸時代は、その修行文化を更に押し進め完成させる前に、近代ヨーロッパの科学技術文化に遭遇し、列強の植民地化の脅威に対抗するために、自らの文化を工業社会の文化に変容させざるを得なかったのです。

 簡単に書くつもりが、どんどん長くなっていく。(^^ゞ




 さて、新たに生まれようとしている修行社会の教育はどのようなものになるでしょうか。

 一つは、全面的な基礎教育です。工業社会の教育は、英数国理社美技音体と一応バランスのとれた多くの教科によって成り立っていますが、工業社会の人材を生み出すためにある限られた範囲で競争する必要があるため、点数の差のつきやすい英語、数学、国語などの主要教科が勉強の中心になります。

 しかし、修行社会の教科は、個人が将来どの方面に自分を開花させるにせよ、その可能性を広げるためにできるだけ多様な教科を身につけておく必要があることから、本質的に全面的な教科を学ぶという性格を持っています。

 もう一つは、個性を生かしたオンリーワンを目指す教育です。工業社会では、個性を生かすということは、往々にして趣味の分野で生産活動から離れた形で一種の逃避に近い活動として行われことがありました。修行社会での個性とは、そのような根のない個性ではなく、その個性がそのまま社会での仕事に結びつくような個性です。

 したがって、学校教育も、学校の中での教育として完結したものではなく、常に、個人が社会で個性的に活躍するために何が必要かという観点から行われるようになります。それは教える教育ではなく、アドバイスする教育であり、生徒の側も、教わる勉強ではなく自ら学ぶ勉強として学習に取り組むようになります。

 未来の教育では、一斉授業とテストによる評価というものは、基礎教育の初期には行われるものの、その後の教育の大部分は、自学自習と人生設計の相談という形で行われるようになるでしょう。




 現在の教育には、まだ工業社会の影響が色濃く残っており、ある決められた範囲の教育内容を競争を通して学ぶということが主流になっています。

 その反対に、自己の向上のために学ぶという未来の社会の教育は、まだ小さな流れにしかなっていません。




 しかし、今後、急速に競争教育の前提そのものがなくなっていき、それとは逆に、自己の向上のための教育が大きな流れになっていくでしょう。


 早めにまとめる予定だったのに、なんだか、まだ続く(笑)。

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
言葉の森の特徴(83) 

記事 1012番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/28
言葉の森のビジョン(その2) as/1012.html
森川林 2010/09/07 11:55 



 言葉の森のビジョンの図解説明の続きです。




 日本語の第三の特徴は、膠着言語というところにあります。

 他の言語が、主に語順によるか、言葉自体の活用によって、単語どうしの関係を表すのに対して、日本語は名詞のあとにつく助詞や、動詞のあとにつく助動詞によって単語の関係を表します。

 いわば、助詞や助動詞という変化しやすい水の上に、名詞や動詞という形の決まった葉っぱが浮かんでいるという状態です。

 この単語どうしの関係を容易に変化させることのできる性質が、日本語の持つ創造性を生み出しているのではないかと思います。


 これら三つの特徴のほかに、日本語には、最後まで聞き取らないと意味が通じないという特徴もあります。これは、見方を変えれば、微妙な差異に注意を払わないと肝心なことが伝わらないという微妙さに対する感受性を生み出していると考えられます。

 余談ですが、このために、日本語は難しい話を耳からだけ聴いていると眠くなるという性質があるのだと思います。

 また、他の言語に比べて音素数の少ない日本語には同音異義語が多く、単語をその前後の文脈から理解する必要がしばしばあります。日本人は人の話を聞いているとき、同音異義語の単語を頭の中で該当する漢字に視覚的に変換しながら理解しているのです。

 酸素濃度の少ない高地に住む人の心肺機能が自然に鍛えられるように、日本語は使っているだけで自然に頭脳の理解機能が鍛えられる言語なのです。

 また、音素数の少なさは、日本語に独特のダジャレの背景にもなっています。このだれでも気軽にダジャレを楽しめるというのも日本語の大きな特徴で、このダジャレ的なものの見方によっても、日本人の創造性は更に鍛えられているのです。


 以上が、国際社会の中で日本の自立を守るために日本の文化を豊かにする要として生かしていく日本語の特徴です。




 次に、歴史的な面から、現代という時代が経済的にどういう時代なのかということを考えてみます。

 最初に、個人の消費生活に対する欲望があります。自動車を持っていない人が自分の車を持つということに対する憧れは、今の日本人はもうほとんど忘れていますが、実はとても大きなものでした。同様に、テレビのないうちがテレビを買うというときの感動は、今では想像できないほど大きなものでした。

 その未来の夢のために、個人は仕事をし収入を手に入れようとします。

 この仕事は、古代の人が舟に乗りたいから自分で丸木舟を彫るというような自給自足的なものではありません。自分で自動車を作るということは当然できないので、個人は企業で分業の一部として働くことによって収入を得ます。

 この分業が、実は企業にとって利益の源泉になります。企業は、決して労働者を搾取して利益を上げるわけではありません。分業という仕組み自体が個人の労働の投入量の総和よりも大きな価値を生み出すことから利益が生まれるのです。

 この利益を更に大きくするために、企業は技術革新を行います。利益が技術革新に使われ、ますます質量ともにすぐれた分業体制を作った企業は更に利益を上げていきます。

 そして、この企業の作った製品が、労働によって収入の増えた消費者によって購入されるというのがこれまでの経済の流れでした。

 松下電器(現パナソニック)がアイロンを作ったころ、アイロンという商品はかなり高価なものでした。しかし、多くの人がアイロンのある生活に夢を見る一方、松下電器がその夢に応えて庶民の手に入る価格のアイロンを作ることによって(昭和2年)、個人の企業も豊かになっていったというのが、日本の資本主義が発展し始めたころの社会の姿でした。そして、このアイロンが、カラーテレビ、自動車、クーラーへと対象を変えて発展してきたのがこれまでの社会でした。


 「言葉の森のビジョン」の後半を簡単に書くつもりがだんだん長くなってきました。(^^ゞ

 まだ画像が十数枚あり、この調子で書いていると何の話かわからなくなりそうなので、以下急いで(笑)。




 現代の日本の社会は、個人に消費したいものがなくなっているという状態にあります。しかも、それが格差社会の拡大の結果、お金のない人は消費したいものがあるのに仕事と収入が増えない結果消費したいものがない、お金のある人はただ単にこれ以上消費したいものがないという形になっているところに問題があります。

 消費したいものがない結果、物が売れないため、企業は売上の減少の中でも利益を上げるために省力化を押し進めます。省力化が進めば進むほど、個人の働き口がなくなり、それが消費と設備投資を更に低下させるという縮小スパイラルの状態に今の経済は陥りつつあります。

 拡大スパイラルが縮小スパイラルに転換した大きな要因の一つは、企業の利益、言い換えれば社会全体の利益が新しい生産を創造するための投資に向かわずに、軍事費や社会保障費やマネーゲームという価値を生み出さない分野に吸収されていったことです。

 しかし、もう一つの大きな要因は、個人の欲望を喚起するような大きな魅力のある商品が現代の社会、特に先進国の社会で見つからなくなったことです。




 では、先進国、例えば日本に暮らす個人の欲望の対象は、今どのように変化したのでしょうか。

 これまでは、よりよい家、よりよい車、よりよい服、よりよい食事という豊かな消費生活が個人の欲望の焦点になっていました。

 今は、そうではありません。もちろんよりよい消費生活への希望はまだだれにでもありますが、それらが大きな感動を伴う消費ではなくなったのです。

 今、個人が大きな夢を持って求めている対象は、物ではなく自己の向上です。それは、より美しい自分、より健康な自分、より知的で、魅力的で、能力があり、人気があり、自己を実現し、社会に貢献できるような自分自身なのです。


 だんだん「言葉の森のビジョン」の話とつながってきた。(^^ゞ

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
言葉の森の特徴(83) 
コメント51~60件
……前のコメント
低学年の作文の 森川林
低学年の作文でいちばん大事なことは、題材選びです。 その題 3/3
記事 5001番
作文における書 森川林
 作文で大事なのは中身です。  しかし、中身はなかなか進歩 3/2
記事 4999番
これからの新し 森川林
 今はまだ、勉強のゴールは、大学入試になっています。  大 3/1
記事 4996番
上手な作文とそ 森川林
 上手な作文とそうでない作文の差は、語彙力の差です。  そ 2/29
記事 4997番
ChatGPT 森川林
 創造発表の勉強のネックになるのは、個性的なテーマであればあ 2/28
記事 4955番
夏期講習でのデ 森川林
 国語の勉強の方法としていちばんいいのは、ディスカッションで 2/25
記事 4993番
教育論に欠けて 森川林
 ボタンの掛け違いは、最後になるまでわかりません。  最初 2/18
記事 4981番
教育論に欠けて 森川林
 しっかり勉強して、いい学校に入り、成績を上げて、目指す大学 2/18
記事 4981番
創造発表クラス 森川林
創造発表の勉強は、知識的にやるのではなく、実験的にやることが 2/5
記事 4966番
齋藤孝さんへの 森川林
私は、ブンブンどりむのようなレベルの低いものは誰もやらないだ 2/4
記事 4964番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習