有の文化と無の文化を図式的に説明すると、次のように言うことができます。例えば、投げられた石は、質量、速度、方向などに分解されます。同じように、生きている人間も、内臓、筋肉、骨格、感情、意識などに分解されます。その分解をつきつめて最小単位にまで分解し、その最小単位を理解して、再度組み合わせれば全体がわかるというのが分析哲学の考えです。
無の文化は、そうではありません。人間というものを考えるとき、日本には、「カゴに乗る人、かつぐ人、そのまたワラジを作る人」という言葉があります。自分は、自分以外の、つまり自分の無であるところの、カゴと、カゴをかつぐ人と、ワラジを作る人とによって初めて存在すると見るのです。
日本にある「おかげさま」文化は、この無の文化のひとつの表れです。「おかげさまで」という言葉は、何か具体的な利益を受けたことに対して言うのではありません。そのような自分と他人という有の関係を前提にした「サンキュー」ではなく、自分以外のすべてのものが自分を支えてくれているはずだということを前提にした、見返りのない「おかげさま」です。
有の文化は、「有るから有る」という考え方です。無の文化は、「無いものによって支えられているから有る」、つまり無とのつながりにおいて有が存在するという考え方です。
さて、今なお世界は、デカルト哲学の有の文化の延長で運営されています。そして、日本には、世界のほとんどの国々で消滅した無の文化が、今も日常生活の中で生きています。しかし、有の文化と無の文化が直接対峙すると、有の文化は一方的に収奪する側に回り、無の文化はやはり一方的に収奪される側に回ります。
日本の昔話に「笠地蔵」があります。里まで笠を売りにいったおじいさんは、ひとつも売れなかった笠を持って家路につきます。途中で、雪に降られている地蔵たちを見ます。おじいさんは、自分の持っていた笠を地蔵にかぶせますが、最後の一体の地蔵にはもうかぶせてあげる笠がありません。そこで、おじいさんは、自分のかぶっていた手ぬぐいを地蔵にかぶせて家に帰るのです。こういう昔話を聞いて育った子供は、笠地蔵の文化を身につけます。それは、ギブ&テイクの文化とは次元の異なる思いやりの文化です。
しかし、そこへハゲタカが飛んできます(笑)。ハゲタカは、自分の利益を第一に考えていますから、笠も地蔵もおじいさんも、自分の外側にある単なる対象です。もし、おじいさんが里から帰る道に、雪に降られたハゲタカがいたら、おじいさんはそのハゲタカにも笠をかぶせてあげたでしょう。しかし、そのハゲタカは、ほかの地蔵たちの笠も奪いに行くかもしれないのです。
笠地蔵とハゲタカでは、勝負の次元が違います。笠地蔵は一方的に奪われ、ハゲタカは一方的に奪います。では、笠地蔵が収奪されつづけ、世界がハゲタカだけになることが世界の平和かというとそうではありません。また、笠地蔵が立ち上がって自らもハゲタカになり、元のハゲタカを駆逐することが世界の平和になるかというとこれもそうではありません。
今必要なのは、日本の無の文化のパラダイムで、欧米の有の文化のパラダイムを包み込む工夫なのです。(つづく)
話が更に大きくなった(笑)。
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言葉の森では、幼稚園年長や小学校1年生から作文の勉強を始めることができます。しかし、幼稚園のころは、家庭で楽しくお父さんやお母さんと話をしているだけでも十分です。年齢的に無理なく始められるのは、ちょうど幼稚園から小学校に上がるころです。
しかし、これから小学校1年生になる子は、文字がやっと書けるぐらいです。書けても、「く」の字が左右逆になっているようなこともよくあります(笑)。また、読むことにもまだあまり慣れていないので、声を出して読むことによって自分の耳で聞いて初めて理解するような読み方です。
ですから、作文を書いても、最初に書けるのは2、3行です。また、書き方を先生や親が説明しても、一度で理解することはほとんどありません。会話をカギカッコで書いて行を変えるというようなことも、何度言ってもできないというのが普通です。しかし、それを無理にできるようにさせる必要はありません。
では、そういう勉強で何が身につくのでしょうか。2、3行しか書けない作文を書いているぐらいなら、国語の問題集を解いたり、漢字の書き取りをさせたりする方がいいのではないでしょうか。ところが、そうではないのです。逆に、問題を解いたり、漢字の書き取りをしたりという勉強的なことをすると、かえって国語の力がつかないことも多いのです。
それはなぜかというと、勉強というものを生活から分けて考え、勉強が済んだからあとは遊んでいいということで、テレビを見たりゲームをしたりしてしまう生活になりやすいからです。国語の力は、国語の勉強の中でつくのではなく、国語的な生活の中でつくのです。
低学年からの勉強で、もっと問題なのは、勉強のときだけは親と子の接触があるが、勉強が終わると親は親の生活に、子供は子供の生活に分かれてしまい、親子の対話が少なくなってしまうことです。子供の国語力は、日常生活における親子の対話の中で育ちます。親子の対話が少ないのに、国語の勉強だけをしても、言葉の力は発達しません。
子供が子供どうしで遊ぶというのはよいことですが、そこで楽しく遊んでいるときに交わす会話は、子供どうしのきわめて限られた語彙で通じるような内容です。語彙力のある子と語彙力のない子が一緒に楽しく遊ぶためには、その遊び仲間のいちばん語彙力の少ない子に合わせた会話をしなければなりません。小さい子供は、親との対話がなければ語彙の力を豊かに育てることができないのです。
しかし、テレビやCDやDVDのような機械による音声で日本語に接するというのは、もっと大きな弊害があります。機械による学習は、子供の感情を破壊する面を持っています。特に、CDやDVDで聞かせる音声が、日本語でなく外国語であるような場合は、感情だけでなく知力の発達も抑制するようになります。
しかし、もしこれまでそういう生活をしてきた場合でも、今からやり直せば間に合います。そのやり直しの基本は、親子で対話をする機会を増やすことです。そして、更に、本を読む時間を確保していくことです。
ここで、言葉の森の作文の勉強を生かすことができます。言葉の森の勉強は、毎週1回作文を書く勉強ですが、そこに毎日の生活の中での読む学習、親子で対話をする学習を結びつけることができます。それが、長文の音読と暗唱、読書、作文を書く前の対話、作文を書いたあとの対話、子供の音読や暗唱をもとにした対話という学習です。
毎日の生活の中で、日本語を読む機会、聞く機会、話す機会を増やし、しかも、その内容を意識的にレベルの高いものにしていくというのが、国語力を育てる最も優れた方法なのです。
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言葉の森では、小学校高学年以上になると、問題集読書の自習を選択することができます。問題集は、小学5・6年生が中学入試用、中学生が高校入試用、高校生が大学入試用のものです。いずれも、昨年度のものを使います。市販の問題集のように何年も前の文章が載っているようなものだと、物語文はまだいいのですが、説明文では時代後れになってしまうことがあるからです。
この問題集読書は、毎日4、5ページずつ読んでいき、1回読み終えたらまた最初から同じように読み、全体を1年間を通して4、5回繰り返すという読み方をします。ただ読むだけでは、つまらないので、自分らしい記録ができるように、読んだ文章をもとに四行詩を書くという形にしています。
ところが、ここで、四行詩だけはしっかり書いてくるが、文章を読むよりも書くことが勉強の中心になってしまうような子も出てきます。
小学校5、6年生から中学生にかけては、勉強の意義がいちばんあいまいになる時期です。小学校低中学年では、親や先生が言ったことを忠実にやるので、問題はありません。高校生になると、今度は自分で自覚的に勉強をするようになるので、これも問題はありません。しかし、小学校高学年から中学生にかけては、勉強の自覚がないのに要領だけはよくなるという時期で(笑)、勉強が中身のない外見だけのものになりやすいのです。
問題集読書で大事なのは、文章を読むことです。その副産物として四行詩があるのですが、中学生のころは、四行詩という形が残ることを優先して、肝心の文章を読むことを二の次にしてしまう人も多いのです。
問題集を読むときは、印象に残ったところに線を引きながら読んでいきます。物語文では、あまり線を引くようなところはありませんが、説明文では、線を引いておきたいところはかなりあるのが普通です。問題集読書が内実のあるやり方で行われているかどうかは、問題集の問題文にどれだけ線が引いてあるかということを見ればわかります。問題集読書を家庭でチェックする場合は、問題文にしっかり線が引いてあるかどうかということを見ていくといいと思います。
問題集読書で力のつく子は、毎日線を引きながら読んでいる子です。毎日といっても、読むのにかかる時間は1日10分程度です。力のつかない子は、毎日ではなく時々まとめて読むような読み方だったり、線を引かずに読んでいたり、読むことよりも四行詩を書くことを中心にしている子です。
国語力をつける基本は、まず毎日読むこと、そしてできれば難しい文章を読むこと、という基本を忘れずに勉強をしていってください。
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