言葉の森は、もともと大学生の作文指導の教室からスタートしました。その後、高校生の小論文指導や、中学生、小学生の作文指導へと指導を発展させてきました。
ですから、小学生の作文指導をする際にも、中学高校へと勉強進めていく土台となるような勉強の仕方をしています。この小1から高3までの指導の一貫性が、言葉の森の作文指導の特徴です。
学校や塾で小学生の作文指導ををするときは、その学年で上手な作文を書くことが目標にしてなりがちです。そのため、小学校4年生ぐらいになると、文章を書くことが好きな子は、その学年としてはほぼ完璧な作文を書くことができるようになります。どのようなテーマでも、自分なりに個性的な実例と印象的な表現で書き進めていくことができるので、保護者や先生は、これで作文の指導は一段落したと思いがちです。
しかし、言葉の森の作文指導は、小学生のころに上手な作文を書くことで終わりになるわけではありません。言葉の森では、小学校5、6年生から説明文・感想文の指導に移っていきます。
中学生で本格的に意見文・感想文の練習が始まると、小学生のころまで上手に書けていた子供たちが、途端にうまく書けなくなり、多くの子が作文に苦手意識を持つようになります。
小学校高学年や中学生の課題は、テーマが抽象的になってくるので、そういう抽象的な課題を考えるための語彙力がまだ育っていない時期は、作文が一時的に下手になるのです。
しかし、中学生で意見文の練習を始めた子は、たとえ途中でやめることになっても、構成的に作文を書く方法を理解しているので、高校入試や大学入試の作文小論文試験の際に、それまでに勉強したことを生かすことができます。
抽象的な課題の作文力の土台となる語彙力が備わってくるのは、中学3年生のころからです。中学3年生になると、自我が成長し、勉強も自覚的に行えるようになるので、作文の力も安定してきます。中学3年生で作文が上手に書ける子は、そのまま高校生になっても大学生になっても、その文章力の基本を維持することができます。
高校生以上の作文の勉強は、考える力をさらに深めていくという形で上手になっていく勉強です。ですから、中学生高校生の作文の上達は、難しい文章を読んだり考えたりする時間がどれだけあるかということと比例しています。
作文の力は、読む力と比例しているので、読む力が向上してくると、ある時期から突然、作文が上手になるということがあります。
これまでの例では、小学校4、5年生のころまではいつもふざけていい加減なことばかり書いていた子が、好きな本のジャンルができ、それらの本を読んでいるうちに、小学校6年生から突然作文が上手になり、中学高校とめきめき学力を上げていったということがありました。
また、小学生のころから成績はよく真面目に勉強はしているものの、作文はごく普通に書けるという程度だった中学1年生が、自然科学系の部活でやはり好きなジャンルの本を読むようになると、高校生の後半からぐんぐん作文が上手になっていったという例もありました。
作文の勉強は、書き方を教えてすぐに効果が出る面ももちろんありますが、本当の実力は、読む力をつける中で少しずつ蓄積されて行き、ある日突然開花するものです。
作文の勉強をする上で大事なことは、今の学年で上手に書くことばかりでなく、先の学年に進んだときに質の違う上手な作文を書けるようになるという展望を持って勉強を進めていくことです。
小学校5年生の子供のお母さんから、「いつも同じような書き出しの工夫しかしないのですが」という相談がありました。
書き出しの工夫には、会話、色、音、情景などいろいろな方法がありますが、子供にとっていちばん簡単なのは会話の書き出しです。そこで多くの子供は、書き出しを簡単な会話から始めて、そのあとに「いつ、どこで、何をしました。」という形で書いていきます。
ところが、文章の書き出しの部分と結びの部分は、作文の中で最も目立つ場所なので、大人がその子の作文を何度も見ると、書き出しの仕方がワンパターンであるように感じてしまうのだと思います。
しかし、ここで大事なことは、書き出しの工夫のようなテクニックは、生活作文を書いている小学校時代の作文で主に生かせる書き方であるということです。
子供たちが中学、高校に進んでいくにつれて、作文の勉強の中心は、実例に広がりを持たせること、意見を自分なりに考えて書いていくこと、という方向に進んでいきます。
ですから、書き出しの工夫に変化がないからと言って、そこをさらに上手に書かせようとするよりも、書き出しの工夫はほどほどにして、それよりも先の学習目標である実例と意見を充実させていくことを勉強の目標にしていく方がいいのです。
また、書き出しの工夫が同じようなパターンになりやすいのは、語彙が不足していることが原因であることもよくあります。書き出しのテクニックを知らないから同じような書き方になってしまうのではなく、語彙力が乏しいために、同じ工夫をしても変化を持たせられない場合があるのです。
したがって、同じようにパターン化された書き出しから脱却するためには、読書や暗唱によって語彙をふやしていく必要があります。
ところが、読む力をつける学習は、それが作文という形で効果が表れるまでにかなり時間がかかります。目に見える効果は忘れたころにやってくると考えて、気長に取り組んでいくことが大事です。
さて、生活作文のときは、事実中心の文章なので書き出しの工夫がしやすいのですが、説明文や意見文の場合も、もう少し発展した形で書き出しの工夫を生かすことができます。
特に、堅い論説文のような場合に、情景の書き出しをうまく使うと効果的な書き方ができます。さらに、「書き出しの結び」という方法で書き出しのキーワードを結びの意見と結びつけると、論説文でも印象的なまとめ方ができます。しかし、もちろんその場合でも、文章の中心は、広がりのある実例と、自分なりに考えた意見です。