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記事 116番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2025/1/1
合否の先にあるもの as/116.html
森川林 2007/01/15 20:00 
 今、受験に取り組んでいる人は、目の前の試験で頭が一杯だと思います。しかし、当たり前のようですが、親は、合否の先にあるものを見ておく必要があります。
 受験が過酷であればあるほど、親はつい、「合格さえすれば、あとはどれだけ遊んだっていいんだから」というような励まし方をしてしまいます。しかし、たとえ言葉の上でであっても、こういう発想をしてしまうと、子供はそれを真に受けてしまいます。
 受験は、確かに人生の一大イベントですが、この先に、将来社会に出て活躍するというもっと大きなイベントが待っています。いい学校に合格するかどうかということは、登山口に差しかかったというところで、まだ本格的な登山はこれからです。
 親が長期的な視野でものごとをとらえて、折に触れてそういうことを話していれば、子供も自然にそういう長期的な視野を身につけます。
 先のことは合格してから考えればいいという人は、人間の心理の仕組みをよくわかっていません。貝原益軒は、「予め」ということを教育論の骨子にしていました。まだものごとが差し迫った課題になるずっと前から、予めそのものごとについての捉え方を考えておくと、実際にそのものごとが生じたときに、スムーズに対処していくことができるのです。
 例えば、禁煙教育などは、子供が中学生や高校生になってから始めても手遅れです。子供が遊び半分でタバコを吸い出したころに禁煙教育を始めても効果がないのです。タバコなどに全く縁のない小学生のうちに「予め」しておく必要があります。合格も同じです。合格後のことは、合格する前に考えておくか、少なくとも合格してすぐに考えることが大事です。
 子供は、よく冗談で、「合格したら、たっぷり遊ぶぞ」と言います。親も、微笑ましくうなずきます。しかし、実際に、たっぷり遊ぶのは二、三日もあれば十分です。それ以上、何週間も遊んでいると、だんだん精神が堕落してきます。遊ぶ喜びよりも、もっと深いものは、自分を向上させる喜びです。
 親は、いつも一歩先を見て行動しておく必要があります。それが、子供よりも年をとっている親の責任になると思います。

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記事 115番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2025/1/1
創造性を育てる作文 as/115.html
森川林 2007/01/09 12:15 
 新年にあたって、勉強の方向を考えるために、今回はちょっと難しく作文の意義について書いてみます。
 書くことは、最初はただ自分の現実を表すことにすぎません。「今日の朝ごはんは納豆と玉子焼きでした」というような文です。
 しかし、多くの経験を積み、多くの本を読むことによって、自分の現実そのものが次第に豊かになってきます。また、自分の使える言葉も、次第に豊かになってきます。
 書くことと現実の間には、もともと小さな隙間があります。それは、作文は現実の一部分しか表すことができないからです。朝ごはんの納豆にはカラシやしょうゆもついていたはずです。しかし、その調子で細かく書いていくときりがありません。
 しかし、現実と表現の両方が豊かになるにつれて、やがて、作文と現実の間に新しい隙間ができてきます。それは、書くことによって、まだ現れていない現実を明らかにするような意味での隙間です。このとき、書くことは、現実を表すことから一歩進んで本質を表すことにつながっていきます。
 作文が創造的であるというのは、このような意味です。それは、表現の創造であるとともに、あるべき未来の創造でもあります。豊かな創造を生み出すためには、経験や読書という自分の現実そのものも豊かにしていく必要があります。その上で、書くことを通して、自分の現実をより一層豊かにする方向を見つけていくのです。
 今年も、大きな展望を持って言葉の森の勉強をがんばっていきましょう。

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記事 114番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2025/1/1
新年の言葉 as/114.html
森川林 2007/01/03 19:50 
 あけましておめでとうございます

 年末から年始にかけて、いろいろ本を読みました。
 そのひとつが、「インドの聖者アマチ」の本です。これは、日本ではあまり知られていませんが、マハトマ・ガンジーやマザー・テレサと同じような人です。

 その本を読みながら考えました。

 インドでは、アマチのように、自分のエゴを克服して大きな愛で世界に貢献している人がいます。その裏づけとなっているものは、インドの思想です。同じようにマザー・テレサの裏づけとなっているものは、キリスト教です。
 アマチは、言います。「私たちには聖典があります。日本人も自分たちの聖典を大事にしてください」
 しかし、日本にある聖典とは何でしょうか。日本のオリジナルなものということで言えば、古事記や万葉集です。しかし、そのどこに、人類に対する愛の大切さが書いてあるでしょうか。あるいは、四書五経も日本人の聖典に入るのかもしれません。しかし、本居宣長は言いました。「日本に、インド仏教や論語孟子のような大思想が生まれなかったのは、日本の人民のレベルが高かったので、そういう思想をわざわざ必要としなかったからだ」と。
 では、どうして、聖典のような思想的な裏づけを持たない日本人が、愛と調和のある社会を築いてこられたのでしょうか。そこに、私は、家庭教育における生活習慣の教育を見たのです。
 インドでは、愛を説く思想を学ぶ人が、カースト制度のもとで暮らしています。食べたあとの食器を片付けるのはスードラ(奴隷)の仕事です。ごみを片付けるのもスードラの仕事です。愛を学ぶ一方で、自分の足元で身分制度の差別に虐げられている人を前提とした生活をせざるを得ないのです。
 日本では、人類に対する愛を唱える思想はありません。しかし、親は子供に言います。食べたものは自分で片付けなさい。そして、レストランに行ったときでも、レストランの人が片付けやすいように食器を整えてイスをしまって出てきます。旅館に泊まるときでも、泊まった部屋を片付けて出てきます。これは、旅館の従業員が仕事をしやすくするためです。決して、スードラのする仕事だから散らかし放題でいいとは思いません。
 思想として愛を学ぶことと、日常の生活として思いやりを学ぶことの違いがここにあります。
 人類に宗教が必要なのは、人類のレベルがまだ劣っているためです。一人ひとりが日常生活に思いやりの気持ちを持てれば、宗教のような大思想は必要ないのです。
 キリストは、「あなたたちの中で罪のない人は、石を投げなさい」と言いました。こういう偉大な言葉が必要だったのは、その当時の社会で、罪人に平気で石を投げる人が多かったからです。今、私の身の回りを見渡してみると、罪人に平気で石を投げるような人はほとんどいません。たとえいても、周囲の大多数の人が止めます。だから、キリストはもういなくてもいいのです。

 あるホームページで、「私たちは愛51%エゴ49%にならなければならない」という記事を読みました。そのときは、なるほどと思いましたが、あとから考え直しました。愛とエゴは、限られたパイを取り合うゼロ・サムの関係にあるのでしょうか。愛が52%になったら、エゴは48%になるのでしょうか。
 日本には、だれでも知っているすばらしいことわざがあります。「よく学び、よく遊べ」。愛もエゴもできるだけ豊かに生きる。おいしく食べて心から感謝する。そういう生き方の方が、より明るくより建設的なものなのではないかと思ったのです。

 しかし、話はここで終わりません。
 宗教のような大思想を必要としない社会が来たあとに、人類が必要とする新しい大思想は別の形であるはずです。
 それを考えるのが、これからの人間の課題だと思います。

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