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「すべての成績は、国語力で9割決まる!」を読んで(3) as/1359.html
森川林 2011/09/26 15:52 


 西角さんの本は、国語力の大切さを書いている点と、具体的な勉強法が書いてある点でおすすめです。

 しかし、今回のホームページの記事は、本の内容から少し発展して、勉強の意欲を家庭でどのように育てるかという話になっています。



 子供たちは、家庭や地域という集団に所属することを意欲の源泉としています。特に、小学校4年生のころまでは、子供は、子供どうしの集団よりも、親や先生という身近な大人の社会の方に所属したがる傾向があります。

 では、具体的に、どのようにして、子供たちの勉強への意欲を家庭の中に生かしていくことができるでしょうか。(この場合の「勉強」とは、当面、作文を中心とした国語の勉強です)



 第一は、作文の課題の予習を通してです。

 これは、既に何度か書いているように、子供がたちが、お父さんやお母さんに、次の週の作文にどんなことを書くかを説明するものです。感想文の課題の場合は、感想文のもとになる長文を読んで、その長文の内容を(長文を見ずに)お父さんやお母さんに説明します。

 言葉の森の小学校高学年から先の感想文課題は、人間の生き方や社会のあり方を論じる、難しい説明文や意見文が多いので、その内容を説明しようとすると、自然に語彙力や思考力が鍛えられます。日常生活では普段使わないような語彙を使って、長文の内容を相手に伝えようと説明することで、書く力も読む力もついてきます。

 ここで大事なのは、子供の説明が、家族の知的な団欒のスタートになることです。子供の説明をきっかけにして、お父さんとお母さんと、兄弟がいれば兄弟が仲よく話を始めることが、子供の役割意識を確かなものにするのです。

 普通の家庭では、子供のそのような難しい説明がなければ、知的な話が弾むようなことはあまりないと思います。お父さんやお母さんが、子供にそういう話を聞かせたいと思っても、大人からの一方的な難しい話では、子供はついてきません。しかし、子供から長文の説明をする形であれば、ごく自然に家族全体のでの話につながります。



 このときに大事なことは、(1)楽しく話をすること、(2)できるだけ大勢の家族の中で話をすること、です。

 楽しく話すとは、親が似た例などを話して、子供の説明を補強するような話し方をするということです。欧米流のディベートのような話をするのではありません。話をするというと、人によっては、意見を述べるようなイメージを抱いてしまうと思いますが、話し合いは、討論の場ではありません。相手の話を発展させる場です。

 ですから、意見を言うのでなく、まして反対意見を言って子供の意見を論破するようなことをするのではなく、親自身の体験実例をもとに似た例を話して、子供の説明を補強してあげるのです。

 ところが、意見というものはその場ですぐに思いつくことができても、体験実例というものはなかなか咄嗟には思いつきません。特に、父親の場合は、抽象的な意見や説明は得意ですが、一般に、具体的な体験実例は苦手です。だから、子供が読んでいる長文に、あらかじめざっと目を通しておいた方が話の内容が充実してきます。そのために、facebookにお父さんやお母さんのための予習室というグループがあります。



 できるだけ大勢の家族の中で話すということも大事です。子供とお母さんが二人きりで話をするとなると、どうしても、親から子への一方的な話になってしまいがちです。父親と母親が話をするとか、そこに祖父母も参加するとか、兄弟がいれば兄弟も加わるかようにするとか、できるだけ家族全員で話した方がいいのです。子供の説明がきっかけになって、家族の間で楽しい対話が始まるという感じが大事です。話が弾んでくると、子供のもとの長文の話から話題がずれて、親どうしで別の話に盛り上がるというような場合も出てきます。そういう対話の方が、子供の説明意欲に結びつきます。

 しかし、家庭での対話というものは、家庭の文化ですから、子供がある程度大きくなってからだと、対話の習慣をつくるということは難しくなります。そのためにも、子供が小学校1年生のころから、つまり、予習がまだ他愛ない話のころから、子供の説明を家庭での対話のきっかけにするという習慣を蓄積しておくといいのです。



 子供たちの勉強を家庭の中に生かす第二の方法は、作文が戻ってきてからです。作文を書いたあとというのは、ただ保管するだけになってしまいがちですが、それをもう一度生かします。その簡単な方法は、子供の書いた作文を、家族みんなの目に触れるような場所に、きれいな額などに入れて飾っておくことです。1週間飾ってあれば、その作文についての話題も、自然に出てくるでしょう。また、特に話題がなくても、子供は自分の書いたものが、そのようにみんなに期待された形で展示されるとなれば、書く内容にも力が入ります。ただし、こういう展示のような形をとれるのは小学生までで、中学生以上は、子供が書くことに自信があり、親子で作文を中心にした話題が自然に交わせるようになっていないと難しいかもしれません。



 説明のときも展示のときも、親の姿勢で大事なことは、欠点を見つけて批判するのではなく、いいところを見つけて似た例などで発展させていくことです。ここで、親の工夫と努力が問われてきます。

 社会生活でいろいろな苦労を経験している親は、決して、子供の作文だからと言って欠点をすぐに指摘するような対応の仕方をしません。欠点をその場で指摘するのは、ほとんどの場合、指摘する側の自己満足にしかなりません。欠点を言われた側は、それをすぐには直せないことが多いはずですし、それよりも、必ず、「自分が一生懸命書いた作文の内容には目を向けず、欠点だけを見つける」という受け止め方をします。作文の欠点は、作文の上で直すのではなく、作文以外の読書や対話の中で徐々に直していくものです。そういう遠回りの対応を我慢してできる親であれば、ほかの勉強も生活習慣もすべてうまくやっていけます。



 以上は、小中学生の場合ですが、高校生の場合は、これに加えて次のようなことが将来考えられると思います。(まだ実現していませんが)

 それは、高校生の作文課題に、地域の問題を意見文として入れていくことです。高校生以上になると、自分の所属する学校、家庭、地域におけるさまざまな問題とその原因や対策を自分なりに考えることができるようになります。高校生の現在の作文課題は、主に大学入試小論文に対応したものがほとんどですが、ここに地域の問題を入れていくのです。

 すると、高校生の提案をきっかけに、地域における社会問題を論じ合う文化ができてきます。高校生の場合の勉強は、本人の自覚ができていますが、そこに地域での実践的な課題が加われば、更に意欲的に作文の勉強に取り組んでいけると思います。

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 昨日の記事からの続きですが、西角さんの本を離れて、対話と意欲の話になります。

 勉強の意欲というものを考えた場合、高校生以上は、勉強の意義を自分なりに自覚して意欲を持ち続けることができるようになります。

 しかし、勉強のいちばんの土台を形成する小中学生のころはそうではありません。この時期は、勉強の内容も基本的なものが多いので、勉強自体はそれほど面白くはありません。また、小中学生のころは、勉強の意義というものを理解してそれで意欲を持つということもできません。

 小中学生の意欲は、勉強の意欲も遊びの意欲も、すべて集団に所属したいという仲間意識から来ています。

 近代の学校教育が、子供たちの集団意識をうまく活用できたのは、学年別にクラスを作るという仕組みがあったからです。学年別の同質集団で、同じ学習課題を勉強するということが、クラスに対する子供たちの帰属意識を生み出していました。先生の役割は、その帰属意識を高めて子供たちの学習に対する意欲を高めることでした。

 しかし、学校を取り巻く社会が、文化的にも経済的にも同質である場合は、学年別クラスも同質性を保つことができましたが、やがて、社会が豊かになり、経済の格差が生まれ、社会の同質性が崩壊してくると、学校の学年別同質性に基づいた意欲づけも機能しなくなってきます。

 現在の学級崩壊という現象の背後には、同質性を失った社会と、そのために同質性を失った学年別クラスにおける集団意識の形成の難しさというものがあります。

 欧米流の近代教育は、この解決策を、社会の経済格差に合わせた同質性の回復という形で実現しました。欧米では、公立学校は、貧しい家庭の、学校選択の余地のない子が行くところになっています。経済的に恵まれた家庭の子供は、その恵まれた度合いに応じて私立学校に進みます。その私立学校において学年別クラスの同質性を確保し、勉強に対する意欲を持続させる仕組みづくりをしているのです。

 日本においても、事情は同じです。戦後のみんなが等しく貧しいころは、だれもが同じ地域の公立学校に通い、同じような経済的文化的水準の子供たちが、同じ一斉授業を受け、その授業の中で同質化した集団との一体感を感じて勉強をしていました。

 しかし、日本の社会が豊かになるにつれて、公立学校に通う子供たちは多様化していきます。小さいころから習い事に行き学年よりも先の勉強をしている子もいれば、家庭の中で読書の習慣がなくテレビやゲーム漬けになっている子もいれば、地域のスポーツクラブで毎日スポーツ三昧の子もいます。こういう子供たちは、小学校低学年の時点で既に一斉授業の枠に収まらなくなります。先生の指導の工夫以前に、子供たちの集団の質そのものが変化し多様化しているのです。

 私立学校志向は、このような同質性の失われた豊かな社会を背景にして生まれました。ところで、そこで新たに形成された同質性は、受験を基準にしたものです。すると、その集団に対する帰属意識を子供たちの意欲に結びつけるためには、テストのランキングが最も効果的な方法になります。そのために、大人は、勉強に対する意欲づけというと、すぐに競争を強化することを考えてしまうのです。しかし、競争は単なる一つの表面的な手段にすぎません。子供たちの勉強の意欲は、もともと競争の勝ち負けの中にあるのではなく、集団の仲間意識の中にあるのです。

 学校という集団で行われているのと同じことが、より目的の絞られた形で、学習塾でも行われています。学習塾における子供たちの意欲づけには、志望校に合格させるためのノウハウ、競争による刺激、先生の熱心な指導などを欠かすことができません。

 それらを当然だと思う人がほとんどだと思いますが、江戸時代の寺子屋教育では、ある意味で正反対の教育が行われていました。つまり、寺子屋では、志望校に合格させるというような目的自体がありませんでした。また、競争はある程度あったでしょうがそれが子供たちの大きな関心にはなってはいませんでした。更に、先生は熱心さとはほど遠い状態で、ただ子供たちを遠くから見守り、ある課題を終えた子に次の課題を指示するという役割を果たしていました。もちろん、子供たちに対する一斉の授業などはありませんから、子供たちの勉強の内容は、思い思いの自習形式でした。

 このような環境で、寺子屋の子供たちは、どのようにして勉強に対する意欲を持つことができたのでしょうか。そこに、集団への帰属意識の変化というものがあります。

 現代の子供たちは、学校や塾での学年別同質集団という機能的人工的な環境で、成績の競争を刺激としてその集団に帰属意識を持って勉強しています。江戸時代の寺子屋の子供たちは、家族や地域という共同体的な環境で、その共同体に帰属する意識を直接の動機として勉強に対する意欲を持っていたのです。

 受験や競争に勝つためという動機ではなく、家族や地域に参加するためという動機で勉強に対する意欲を持つことが、これからの対話を中心とした教育になります。

 では、それは具体的にどのような形になるのでしょうか。(つづく)

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