これは、早期教育をすすめるものではありません。低学年のころに勉強的なことをしすぎるのは、かえって問題があります。
低学年のころは、勉強の内容そのものよりも、勉強の仕方を身につける時期です。だから、決して長い時間勉強する必要はありません。というよりも、できるだけ勉強などさせずに、楽しく遊ばせておいた方がいいのです。
しかし、勉強をするときは、小1のころの勉強の仕方がその後の土台となるのだと考えて、慎重に行っていく必要があります。
では、小1の勉強の仕方では、どういうところに気をつけたらいいのでしょうか。
第一は、日本語を読む、そして聞くという学習を最重点にすることです。極端に言えば、日本語の力さえしっかりつけておけば、そのほかの勉強はあとからいくらでも間に合います。
第二は、明るく楽しくやるということです。叱ったり小言を言ったりしてさせた勉強は、すぐに忘れてしまいます。そして、暗い気持ちで勉強させられると、大きくなっても勉強が好きになれなくなります。勉強というのは、本来自分の知性が向上するということでだれにとってもうれしいものです。そういう気持ちが持てるようになるには、小1の最初のころの勉強を楽しくやっていく必要があるのです。
第三は、毎日同じ時間に同じようなことを行い、極力例外を作らないようにすることです。あるときは1時間もがんばらせ、あるときは何もしないという形では勉強の習慣ができません。平日も、土曜・日曜日も、祝日も、できるだけ同じことを同じようにやっていくことです。
第四に、親と子の間で言葉にして言ったことは必ず守るということです。
保護者からの相談でとても多いのが、「子供が親の言うことを聞かない」というものです。その原因の多くは、親が言ったことを守らなかったことによるものです。
これは、微妙なことなのでなかなか自覚しにくいのですが、次のようなことです。
親が、子供に、「そろそろテレビを消しておもちゃをかたづけなさい」と言ったとします。子供は、普通、「はあい」と言います。
ところで、ここで、子供が何も返事をしなかったり、あいまいに「うん」などと言ったとしたら、親は即座に、「返事は、『はい』とはっきり言いなさい」と教える必要があります。このひとつだけでも、その子の家庭や学校での生活態度はしっかりしてきます。
さて、子供が、「はい」と言ったあと、時間がそのまま5分、10分とたったとします。すると、ここで、子供は無意識のうちに、「返事さえしておけば、すぐにしなくてもいいんだ」「返事だけしておけば、うやむやにしてもいいんだ」ということを学習してしまうのです。
一度でもこういうことがあると、その後、子供に言うことを聞かせることは難しくなります。いい習慣はつけ続けなければつきませんが、悪い習慣は、たった一回でつくのです。
では、こういうときの言い方は、どうしたらいいのでしょうか。それは、「あと10分たったら、テレビを消しておもちゃをかたづけなさい」という言い方です。そして、時計の針がどこに来たら10分たったことになるかということを教えます。
この言い方なら、子供は負担を感じません。そして、ときどき時計を気にしながら、10分たつとしっかり自分の意志でテレビを消しておもちゃをかたづけ出します。親はそれをたっぷり褒めてあげるだけです。
しかし、もし、子供が10分たっていても忘れてしまったらどうするのでしょうか。そこは、強く叱ることです。しかし、そこで、「今度から××をさせない」などという罰を与えて、叱ることを長期化させるのはよくありません。強く短く叱って、すぐに明るくフォローするというやり方をするのです。一度だけしっかり叱れば、素直に言うことを聞く子になります。
こういう習慣ができるのが、小1の最初の時期なのです。そして、小1の時期を逃がすと、このような生活習慣は急速につけにくくなります。
だから、作文の勉強も、小1の最初のころに、言葉の森で始めておくのがいいのです。
なぜかというと、言葉の森は、小1の最初のころから、日本語の読みを中心とした単純な短い時間の自習を毎日するようにしているからです。
ほかの習い事では、日本語を読むことを中心にしていなかったり、子供の興味を引くために毎回やることが変化するプリントだったり、毎日ではなく週に何回かの練習であったり、子供が嫌になるぐらい長時間やるものであったりすることも多いからです。
小1の最初のころに、親がちょっと努力して、子供が楽しく毎日やれる勉強の仕方を工夫しておくと、そのあとの勉強はずっと楽にできるのです。
(これは、森林プロジェクトの「学習の手引」のために書いた文章ですが、手引の方には載せないので、内容を追加して、ホームページの記事としました。)
●受験の目的は志望校に合格すること、勉強の目的は社会に貢献すること
受験の目的は志望校に合格することというのはあたりまえのことですが、長期間の勉強をしていると、その目的を忘れてしまうことがあります。
例えば、塾や予備校で勉強していると、その塾や予備校でいい成績を取ることが目的のようになってしまいます。また、模擬試験は自分の実力を見るためのテストですから、点数が悪くても問題ないのですが、模擬試験のために詰め込みで勉強してしまうような子もいます。
これまでいろいろな生徒を教えてきて、いつも驚くのは受験の直前になるまで志望校の過去問を解いたことのない子がかなりいることです。
過去問は、受験間際の力試しにためにやるものではなく、受験の1年前から勉強の方向を決めるためにやるものです。まだ解けない問題は、答えを書き込みながら解いていき、問題の傾向と自分の弱点を分析しておきます。
過去問は、勉強の軌道修正のためにときどき取り組むことが大切です。そのためには、古い年の過去問もできるだけ用意しておきます。
受験勉強は、自分のペースで取り組むことが大事です。高校入試、大学入試では、塾の勉強で他人任せに進めるのではなく、できるだけ自分で課題と予定を決めてやっていくことが大事です。中高生で、夏休みに塾や予備校の夏期講習に参加せず、自分で勉強する場合は1日7時間ぐらいの勉強が目安になると思います。
受験勉強の目的は志望校に合格することですが、勉強そのものの目的は、自分自身を向上させ、将来社会に役立つ人間になることです。志望校の合格はそのためのひとつの手段です。合格したから偉いのでも、合格しなかったから駄目なのでもないということを折に触れて親子で確認しておくと、受験後もしっかりと勉強を続けることができます。
●これからの仕事に必要とされる、得意分野と幅広い教養
これから世の中は大きく変わっていきます。一つは、新しい発明や発見によって今よりももっと便利で豊かで自然と共存できる生活になることです。もう一つは、多くの人の人間性が向上し、利己心や策略などが通用しなくなることです。
このような社会では、いい仕事の基準も変わってきます。これからの社会では、自分の個性を生かし社会から喜ばれる仕事ほど、高収入で安定していて自由度の高い仕事になります。
そのような社会に対応する勉強は、自分の興味や関心や得意技を生かすと同時に、幅広い教科を身につける勉強です。
いい学校に入るとか、いい会社に入るとか、いい仕事に就くとかいう目的のために、そこに絞った勉強をするという考えだと、目的を達成した時点で勉強も終わってしまいます。
これからは、自分の個性を生かすために、できるだけ幅広い勉強をし、また勉強に対する向上心も一生持ち続けていくことが必要になります。
●社会に出て必要になるのは、成績のよさよりも人間性
勉強を受験競争における勝ち負けのようなものだと考えると、知的な能力だけを大事なものだと考えてしまいがちです。しかし、現実の社会の中で仕事に活躍できるのは、みんなから信頼される豊かな人間性を持った人たちです。
つまり、人間性という大きな枠の中に、勇気、知性、愛、創造性などという分野があり、知性という分野の中に、国語、数学、英語などという教科があるのです。
だから、家庭での教育では、知性の教育に多くの時間を割くとしても、重要度としては、勇気も、知性も、愛も、創造性もバランスよく育てていく必要があります。
一生懸命に勉強をしていると、つい点数のところにだけ目が向いてしまいます。子供は特にそうです。小学生の子によくあるのは、自分よりもできない子を馬鹿にするような態度をとってしまうことです。
子供の言動の中にそういうものが見えたら、それは人間性の教育を行ういいチャンスです。世の中には、いろいろな人がいて、みんなが自分の力の範囲で努力して助け合っているから社会が成り立っているのだということをじっくり話すと、子供はすぐに理解します。