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これからの教育に必要なもの―学力向上の先にあるもの 3 as/1519.html
森川林 2012/04/14 21:45 


 今日の教育における二つの問題、学力格差の拡大と、学力以外の要素の欠落についての話の続きです。

 原因の第三は、教育の目的が学力の向上だけに絞られ、それ以外の要素が教育というものの守備範囲の中に入っていないことです。

 教育には、学力以外の教育、例えば、道徳の教育や身体の教育もあります。知識を育てること以外に、社会生活を行う上で大切なものが数多くあります。勇気、正直、思いやり、弱い者への親切、困難に対して闘う力、金銭に対する教育、日本の歴史や伝統に関する知識、将来の仕事を考えること、さまざまなしつけ(道にごみを捨てない、席を立ったらイスをしまう、人に会ったらあいさつをする)など、知識教育以外のきわめて広範な教育の分野がありますが、それらが、今は個人の主観の問題として個々人の自由な判断に任されています。個人の自由というと聞こえはいいのですが、実際には、子供たちが将来日本の社会で生活する際の民度の水準を低め合っているのです。

 日本は、落し物が戻ってくる国です。しかし、これを生まれつき日本人に備わっているものではありません。日本の文化的伝統が支えている教育の成果なのです。意識して育てていかなければ失われる美徳なのだということを自覚する必要があります。そして、現在、これまでの教育のサボタージュによって、年齢が下がるほど日本人の民度が下がっている印象があるのです。

 今、あらゆる教育機関は予備校化しています。学習塾や予備校は当然最初からそうですが、小中学校も、より上の高校や大学に行くための予備校になり、最後のゴールである大学も、次のゴールである就職の予備校のようになっています。この予備校の評価の尺度は学力です。どの教育機関も、トコロテン式に次のステージに子供を送り出すためのものになり、その際の基準が学力になっているのです。

 学力が教育の中心であることは当然ですが、この学力だけをほぼ唯一の尺度として子供を評価する結果、学力の低い子は人間全体の評価が低いように見なされ、それが更に学力の低下に拍車をかけます。一方、学力の高い子は、その反対に学力の高さに優越意識を持ち学力の低い子を見下すようになりがちです。本来は、学力の高さを生かして社会に貢献しなければならないのを、学力の高さを自分個人が得をするための手段のように考えてしまうようになるのです。

 学力を社会のために生かすか個人のために生かすかという意識の差は、社会に出てからの向上心の差を生み出します。個人の利益を中心に考えると、自分個人の利益がそこそこ手に入ればそれ以上努力する必要はなく、あとは獲得したポジションを維持することにだけ気を配るだけになります。それが、日本の社会全体の学力の低下と倫理観の低下を生み出しているのです。

 では、どこがこの状態を改善する責任を持つかといえば、それはやはり教育です。教育とは、英、数、国、理、社の教育にとどまるものではありません。人間と社会をよりよいものにするために人間の全体にわたって関わるものです。そのための教育の理論が今求められているのです。(つづく)

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ちゃくちゃく 20120417  
子どもを塾に通わせるのには抵抗があります。なんだか大事な子どもを取られた上に、ダメにされてしまうような気がします。
遠回りで効率は悪いかもしれませんが、子どもにはエリートになる教育ではなく、幸せになる生き方を教えてあげたいと思うからです。

森川林 20120417  
 学習塾にはいろいろな問題がありますが、いちばん大きな問題は、家庭での親子の対話の時間がなくなることだと思います。
 ただし、今の受験は末期症状で、学力よりも情報力の勝負になっていますから、塾の情報を利用して勉強は自分でするというのがいいと思います。

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これからの教育に必要なもの―学力向上の先にあるもの 2 as/1518.html
森川林 2012/04/13 19:46 


 学力の向上を目的とした教育が、その本来の意図とは反対にいくつかの問題点を生み出しています。その一つが学力格差の問題、もう一つが学力以外の要素の欠落という問題です。


 この原因の第二は、今日の受験勉強を目的とした教育が、昔の中国の科挙の試験に対するような教育になっていることです。

 科挙は、いったん合格すれば、将来がすべて約束されるような試験でした。そのため、全国から秀才が集まり、科挙の試験に取り組みました。すると、倍率の高い試験は、落とすための試験になっていきます。いいところを見つけるための試験ではなく、悪いところを見つけるための試験となっていったのです。その結果、問題は、次第に重箱の隅をつつくようなものになっていきます。すると、今度は、全国の秀才はその重箱の隅に対応した勉強をしてきます。すると更に、そういう受験生に対応するために問題は幹から離れ、ますます小さな枝葉に入り込むようなものになっていきます。

 このような試験に着いていけるのは、勉強のできる人というよりも、勉強しかできない人です。創造性や意欲の欠けた、勉強以外に取り柄のないような人が合格するような試験になっていったのです。


 同じことが、程度の差はあれ、今の受験の世界でも起きています。そして、その延長に官僚になるための試験があるという構造になっています。「官愚の国」の著者である高橋洋一氏は、元官僚であり試験作成者であった経験から、今の試験の背景を詳しく述べています。学力のある人を選抜することが目的だった試験が、科挙化した結果、創造性や意欲のない人を選抜するような試験に変わっていったのです。(大量のテキストが指定され、そのテキストのとおりに答える試験)

 もちろん、こういう弊害が大きく出るのは、特に上位のレベルの試験に関してです。学力試験はほどほどに行われているのであれば、学力を評価する尺度として有効です。しかし、社会が安定し、受験の問題がパターン化し、多くの受験生が殺到し、倍率が上がり、それに伴って塾や予備校が受験対策を本格的に行うようになると、試験は学力の評価という本来の意図から離れ、すぐに科挙化する傾向を持っています。


 子供にそのような偏った勉強をさせたいと思う親はいません。しかし、受験で要求されるのがそういう学力であれば、その試験問題合わせて勉強しなければなりません。そして、受験生がみんなそのような勉強をするので、受験勉強の科挙的な傾向は是正されないのです。(つづく)

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