ログイン ログアウト 登録
 Onlineスクール言葉の森/公式ホームページ
 
記事 1535番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/30
これからの教育に必要なもの―学力向上の先にあるもの 8(最終回) as/1535.html
森川林 2012/05/04 21:40 



 前回に引き続き、教育は、人間の幸福、向上、創造、貢献と結びついているという話です。

 第四は、貢献のための教育です。何のために学ぶのかということについて、社会全体が明確な指針を持っていることが必要です。これは単なる言葉のうえだけでの話ではなく、実際の教育のさまざまな場面で具体的な方針決定に役立ちます。この小さな決定の積み重ねが、やがて大きな方向の違いになっていきます。

 勉強は、社会に貢献するために行うものです。なぜ人間が、「社会のため」ということを考えるかというと、その原点には、人間の持つ共感と想像があります。人間は生まれつき、他の生命、他の人間、そして自分の属する社会に対して共感する性質を持っています。その共感する性質を更に強化するのが、他の生命や人間に対する想像です。この共感と想像を高めていくことが教育の一つの柱になります。

 今の社会の風潮の一部に、自分の利益を最優先するという考え方があります。なぜ勉強をするのかということについても、理屈の上で最も説得力のある答え方は、「自分のためにする」というものです。日本人は本当は内心、自分のためだけでいいとは思っていません。しかし、言葉で説明するときは、エゴイズムを建前にした方がだれからも反論されないという雰囲気が今の社会にはあるのです。

 このエゴイズムをもとに理論を立てるというのは、欧米の文化の影響から来たものです。みんなが自分の利益のために行動し、その競争の中で最適な社会が生まれるという理屈は、欧米の文化の中で生まれた理論です。欧米は、社会の隅々までエゴイズムがシステム化されているので、その理論が現実の中でうまく成り立っています。しかし、日本はそうではありません。日本の社会は、エゴイズムの文化が根づいていないのです。

 日本の社会の本来の姿は、「エゴイズム+競争」とは正反対のものです。それは、個人がお互いに相手のためによかれと思ってすることが巡り巡って自分にも返ってくるという文化です。「エゴイズム+競争」ではなく、「思いやり+調和」が日本の文化に最も合った理論なのです。そして、この理論は、日本から発信する将来の世界のモデルになるものです。

 これからの教育は、この「思いやり+調和」の文化を支えるものになる必要があります。それが内容的には共感と想像を育てる教育で、形式的には貢献の教育と呼ばれるものになるのです。

 日本の文化の中になぜ共感と想像が根強く生きているかというと、その原因のひとつに、親子で密着する文化があります。人間の共感力は、幼児期の親子の密着をもとにして形成されます。日本の寝室は、親子が「子、母、父」という形で寄り添いながら寝る形が最も一般的です。「母、子、父」という形ではなく、「子、母、父」というふうに父が一歩離れているところが父子関係における子供の自立心に役立っているようです。欧米の場合は、「父、母」が生活の中心であり、子供は幼児期から自立を強制されますが、日本ではそういう家庭はほとんどありません。

 子供時代から、親子の密着する文化の中で育つことによって、日本の子供は自然に親に対する孝行の感覚を育てます。この親孝行の文化を、封建主義の名残のようにとらえるのではなく、日本文化の優れた特質と考えることが大切です。なぜなら親孝行の延長に、社会に対する貢献と、先祖にたいする尊敬が生まれるからです。これを古臭い理論だと思わずに、これからの世界の指針になる最新の理論だと考えることがこれから必要になってくるのです。

 よく、日本人は個人では弱いが集団では強いと言われます。これまでの教育では、それを日本人の弱点のように考え、日本人を個人で強くする方法を工夫してきました。しかし、これからは集団で強いという日本人の長所を生かしていく時代です。そして、やがて世界中がその日本モデルを採用するようになるのです。

 集団の強さを生かして社会に貢献するというのは、決して消極的な生き方ではありません。むしろ、それは日本人にとって積極的な生き方になります。なぜなら、日本人にとって個人のエゴイズムで生きるということは、自分だけ安全な場所で高収入を確保するような生き方につながりやすいからです。

 日本の文化の中では、エゴイズムを貫こうとすれば生き方が後ろ向きになります。逆に、集団のために社会に貢献する生き方を選ぶとき、日本人は自己犠牲をいとわずに大きな仕事を成し遂げることができます。みんなが、自分の利益よりも社会のために行動することによって、社会全体がよりよくなるというのが、日本の文化を生かした社会のあり方です。

 この未来の日本社会を支える意識的な努力が、貢献のための教育なのです。

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

ちゃくちゃく 20120507  
連休中武蔵五日市の友達を訪ねたら、四日にとてもきれいな虹が出たそうです。こちらの写真のように二重の虹だったと目を細めていました。たまに自然の中に身を置くと人間の小ささを実感します。やはりみんな助け合って生きていかなくちゃと思いました。

森川林 20120507  
 ちゃくちゃくさん、こんにちは 。
 これが、教室から見たその日の虹の端から端まで。
 確かにこんなに大きいの、人間には作れませんね。
http://www.mori7.net/izumi/gazou/2012/0507130308.jpg">

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
教育論文化論(255) 

記事 1534番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/30
世界経済のこれからの動きと対策 as/1534.html
森川林 2012/05/02 19:50 



 米欧から始まると見られていた金融破綻は、「公的」機関がマネーを大量に印刷し金融機関に注入する形で回避されました。その結果、ギリシアのバブル、EUのバブル、アメリカのバブルなど世界のさまざまなバブルが、より大きな世界的バブルに統合される形でふくらみ続けることになりました。やがて、ここに中国のバブルなども加わるようになるでしょう。

 この新しいバブルによる景気の上昇がしばらく続いたあと、この世界最大のバブルはどういう形で収束されるのでしょうか。バブルというのは、結局真のニーズがないところに、思惑だけの架空のニーズがふくらんでいくことです。だから、その思惑がはずれたときにはいずれ破綻するものです。その破綻を回避するためには、より大きな新たなバブルを作るか、真のニーズを作るかしなければなりません。しかし、今回のバブルは、世界規模のバブルなので、これ以上新たなバブルを上乗せすることはできません。新たな真のニーズを、今、世界中が模索しているところなのです。

 その第一は、世界のインフラ開発です。例えば、砂漠の緑化などの世界的な開発事業を行えば、それはバブルを真のニーズに転化することができます。しかし、その開発が終わったときにまたニーズの不在という同じ問題が繰り返されることと、世界規模の開発は国際的な利害がぶつかり合う可能性があるという理由から、必ずしも現実的で有効な対策とは言えません。

 第二は、大戦争です。これは、物を破壊することですから、物を建設する以上に大きなニーズを生み出します。しかし、バブルのたびに戦争を起こしていたのでは、それは人間がいかに愚かかということを証明するにすぎません。また、すべての戦争は、国民どうしの対立ではなく、その戦争で利益を得る何者の都合で行われていることに多くの人が気づき始めている今日では、もう大規模な戦争は起こせなくなっています。

 第三は、ハイパーインフレです。金融機関に注入された大量のペーパーマネーは、やがて市中の生活の中に溢れ出てきます。インフレは、資産を持つ者の犠牲によってバブルを収束させる方法です。これは、対策というよりも、対策がないことから引き起こされる結果ですが、今日の状況を見ると、これが最もあり得そうな結果です。しかし、この場合、生活に必要なマネーと、金融機関のバブルの救済のために使われるマネーは、何らかの形で区別されることによって、一般の国民の生活はそれほど極端な破局には見舞われないと考えられます。

 世界規模のバブルが、今後どういう形で終息するかは、前例のないことなので誰にも確実な予測はできません。しかし、経済の基礎的な実力を考えると、日本が、資産の上では最も大きな損失を被りながら、バブル崩壊の被害から最も軽症で立ち直ることが予想されます。

 問題は世界のバブルが終息したあと、人類の巨大な生産力に対応するニーズを今後どこに作り出していくかということです。軍事費という選択肢は、国家間の争いの背景がわかることによって、もうなくなっていくでしょう。社会保障費は、本当に必要なものだけに絞られ、不自然で過剰な福祉はなくなっていくでしょう。公共部門や利権部門に淀んでいたニーズは、そういうところに依存する空しさを多くの人が感じることによって次第に減少していくでしょう。途上国をこれから豊かにする消費財は、量的な大きさはあるものの、既にほぼ完成した工業生産技術によって、実はそれほど大きなものではなかったということに多くの人が気づくようになるでしょう。

 新しい真のニーズは、世界的なバブルの崩壊からいち早く立ち直るはずの日本が提案していくと思います。それは、インフラも完成し物財もほぼ十分に行きわたった先進国日本で、新しく生まれる創造文化産業のニーズです。そこで生まれる新しい消費は、単なる消費のための消費ではなく、自らが創造し生産する側に回るための消費、つまり投資的消費です。しかも、その投資が、これまでの工業生産の投資のように飽和状態にならないのは、文化の創造がその生産を担う個人の個性によって無限に多様化する性格を持つからです。

 このように考えてくると、これからの政治、経済、社会における歴史的大変動に対応するために必要なことは、個人個人が自分ひとりの力で社会に貢献できる何か(能力や技術)を育てていくことです。もちろんすぐにはそういうものは育ちません。だから、今大事なことは、自分が社会に貢献できる力を持つために必要な勉強をできるところから始めていくことなのです。

この記事に関するコメント
コメントフォームへ。

同じカテゴリーの記事
同じカテゴリーの記事は、こちらをごらんください。
政治経済社会(63) 
コメント71~80件
……前のコメント
自習室が利用し aeka
いつもありがとうございます。 私はよく自習室を利用していま 1/19
記事 4936番
言葉の森の作文 森川林
 作文小論文試験の新しい評価の仕方は、AIによる評価です。小 1/19
記事 4939番
【合格速報】秋 らっこ
合格おめでとうございます。  目標を定め、決めたことを必ず 1/15
記事 4926番
ChatGPT 森川林
 世界では、ChatGPTを使って学生がレポートなどを作らな 1/13
記事 4930番
プログラミング 森川林
 プログラミングクラスに参加する子は、男の子がほとんどなのは 1/11
記事 4929番
【合格速報】秋 sasa
 合格おめでとうございます!  小学校二年生から作文を担当 1/10
記事 4926番
小学3、4年生 kaze
作文の書き方をいくつか見比べてみると、みな、言葉の森の指導方 1/9
記事 4916番
小学3、4年生 森川林
 私は、人を批判することは好きではありませんが、学校の先生や 1/9
記事 4916番
短文を書く練習 森川林
反論は、いつでもどうぞ。 1/8
記事 4911番
森川林
「作文の勉強は高校生まで続けよう」という記事の動画の音声が割 1/8
記事 番
……次のコメント

掲示板の記事1~10件
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
標準新演習算数 あかそよ
3の1はできました。 2は、答えを見るとなんとか理解できま 11/23
算数数学掲示板
2024年11 森川林
●サーバー移転に伴うトラブル  本当に、いろいろご 11/22
森の掲示板
現在森リンベス 森川林
このあとの予定。 ・森リンベストを直す(直した) ・森リ 11/20
森川林日記
Re: 入会手 言葉の森事務局
 お世話になっております。  弟さんのみご入会が1週間 11/15
森の掲示板
入会手続きにつ やすひろ
お世話になっております。 個別掲示板を開けませんので、ここ 11/15
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Mr. 1
1 11/14
森の掲示板
Re: 項目の 1
> いつもありがとうございます。 > > こすほ 11/14
森の掲示板

RSS
RSSフィード

QRコード


小・中・高生の作文
小・中・高生の作文

主な記事リンク
主な記事リンク

通学できる作文教室
森林プロジェクトの
作文教室


リンク集
できた君の算数クラブ
代表プロフィール
Zoomサインイン






小学生、中学生、高校生の作文
小学1年生の作文(9) 小学2年生の作文(38) 小学3年生の作文(22) 小学4年生の作文(55)
小学5年生の作文(100) 小学6年生の作文(281) 中学1年生の作文(174) 中学2年生の作文(100)
中学3年生の作文(71) 高校1年生の作文(68) 高校2年生の作文(30) 高校3年生の作文(8)
手書きの作文と講評はここには掲載していません。続きは「作文の丘から」をごらんください。

主な記事リンク
 言葉の森がこれまでに掲載した主な記事のリンクです。
●小1から始める作文と読書
●本当の国語力は作文でつく
●志望校別の受験作文対策

●作文講師の資格を取るには
●国語の勉強法
●父母の声(1)

●学年別作文読書感想文の書き方
●受験作文コース(言葉の森新聞の記事より)
●国語の勉強法(言葉の森新聞の記事より)

●中学受験作文の解説集
●高校受験作文の解説集
●大学受験作文の解説集

●小1からの作文で親子の対話
●絵で見る言葉の森の勉強
●小学1年生の作文

●読書感想文の書き方
●作文教室 比較のための10の基準
●国語力読解力をつける作文の勉強法

●小1から始める楽しい作文――成績をよくするよりも頭をよくすることが勉強の基本
●中学受験国語対策
●父母の声(2)

●最も大事な子供時代の教育――どこに費用と時間をかけるか
●入試の作文・小論文対策
●父母の声(3)

●公立中高一貫校の作文合格対策
●電話通信だから密度濃い作文指導
●作文通信講座の比較―通学教室より続けやすい言葉の森の作文通信

●子や孫に教えられる作文講師資格
●作文教室、比較のための7つの基準
●国語力は低学年の勉強法で決まる

●言葉の森の作文で全教科の学力も
●帰国子女の日本語学習は作文から
●いろいろな質問に答えて

●大切なのは国語力 小学1年生からスタートできる作文と国語の通信教育
●作文教室言葉の森の批評記事を読んで
●父母の声

●言葉の森のオンライン教育関連記事
●作文の通信教育の教材比較 その1
●作文の勉強は毎週やることで力がつく

●国語力をつけるなら読解と作文の学習で
●中高一貫校の作文試験に対応
●作文の通信教育の教材比較 その2

●200字作文の受験作文対策
●受験作文コースの保護者アンケート
●森リンで10人中9人が作文力アップ

●コロナ休校対応 午前中クラス
●国語読解クラスの無料体験学習