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創造性を育てる作文 6(書く創造性) as/1548.html
森川林 2012/05/22 20:18 



 これまでの創造性の説明は、読む創造性についてでした。つまり、ある知識に習熟することが創造の土台になるという意味での創造性でした。しかし、創造にはこのほかに書く創造性があります。

 人が何かの意見を考えるとき、その考え方にはある構成が伴います。例えば、意見を考えたあとその理由を考えるとか、原因を考えたあとその対策を考えるとかいう構成です。

 そして、人間は、ある物事を自分なりに考えていくうちに、自分の考え方の構成に習熟していきます。読む創造の土台が題材の習熟であるのに対して、これは構成の習熟です。

 スピノザは、その著作の中でしばしば、「すべての規定は否定である」ということを述べています。これが彼の思考の方法のひとつの骨格になっていることがわかります。毛沢東は、「あらゆる矛盾は内部矛盾である」と考えました。それは時には、外部的要因の影響を過小評価することにもつながりましたが、物事の未知の本質を探るとき、その考え方の方法論が有効になったことも多かったのだと思います。

 同じように、物事を考える機会の多い人は、だれでも自分の考え方の構成に習熟するようになります。ある構成に基づいて考えるとき、その構成にあてはまらないものが見つかればそれが発見になります。そして、その空白を埋めることが創造になるのです。

 作文の勉強でも、複数の理由、複数の意見と総合化の主題、歴史的原因と社会的原因、予測問題の主題など、構成の仕方に課題をあてはめようとすると、自分の考えがまだ空白のままになっている部分に気がつきます。その空白を埋めようとするとき、新しい考えが生まれます。

 「書くことは人間を正確にする」というベーコンの言葉をしばしば引用しますが、書き続けることによってその正確さが何度もなぞられ、それがやがて考え方の溝のようになります。その溝として刻まれた構成にによってさまざまな物事に対する自分なりの見方、つまり創造が生まれます。これが書く創造性です。(つづく)

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創造性を育てる作文 5(読む創造性) as/1547.html
森川林 2012/05/21 18:02 



 ポール・サミュエルソン(1970年ノーベル経済学賞)の著書は、長らく経済学の教科書として使われていました。その特徴は、経済学と数学を結びつけたところにあります。彼は自分自身でも、二つの異なる専門があったのでオリジナルな学問を作ることができたと述懐しています。つまり、自分が精通している専門分野が複数あり、その組み合わせで独創性を発揮できたというのです。これが、創造というもののひとつの典型的な生まれ方です。

 異なる分野をただ幅広く知っているだけでは不十分で、異なる分野それぞれに精通していることによって、相互の不足が手に取るようにわかるようになります。この不足の発見が創造の原点です。これが、読む創造性(題材の創造性)です。つまり、知識に習熟することによって生まれる創造です。


 ここで、日本と欧米の創造の違いが出てきます。異なる複数の専門分野という場合、西欧では、それは主に知の専門家によって担われていました。つまり、エリートがカバーする専門分野で新しい発見や創造が生まれることが多く、そのために、その創造は規模の大きなもの、斬新なものであることが多かったのです。

 これに対して、日本では、エリートと大衆の差が少なく、エリートも現場の仕事に携わり大衆も知的な素養を持つという文化がありました。欧米と違い、大衆は単なる歯車として仕事を遂行するだけの存在ではなく、自分なりにその仕事に専門家として習熟していました。その結果、日本では大衆のレベルから小さな創造が行われることが多く、それが外からは、日本人は創造よりも模倣が得意だというように見られる要因となったのです。


 種子島にもたらされた鉄砲は、最近の研究によると、その島の刀鍛冶たちによってすぐに模倣され多くの銃が作られたそうです。同時に火薬の製法などもただちに習得され、それが日本中に広まったと言われています。これが単なる模倣でないことは明らかです。鍛冶職人の現場では、小さな創意工夫が次々に行われたはずだからです。このように、大衆のレベルで知の習熟があったことが、日本の近代化というヨーロッパの模倣を可能にしました。しかし、それは実は模倣でではなく、無数の小さな創造の積み重ねだったということです。日本で生産現場におけるカイゼン活動が盛んだったのも、やはり知の習熟が大衆的レベルで行われていた証拠と言ってよいでしょう。


 この知識の習熟が「読む創造性」の基本だとすると、この創造の勉強の要点は、良質な知識に習熟することにあります。ここで大事なのは、「習熟する」ということです。単に、数日後のテストに間に合わせるために仕入れた知識は習熟とは言いません。もちろん、数週間後でも、数か月後でも同じです。ある知識に習熟するということは、渋沢栄一が論語においてそうであったように、日々の生活のすべてにわたり一生その知識を折に触れて思い出し現実にあてはめるような理解の仕方です。

 こういう理解の仕方の土台となるものが暗唱であり、その暗唱の方法が音読です。だから、日本の教育で今後、読む創造性を高めるためには、良質な知識を暗唱することによって自分の血肉とし、それを他の分野の知識にあてはめるような学習をしていく必要があるのです。(つづく)

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