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創造する子供たち、対話のある家庭、自助の教育 2 as/1574.html
森川林 2012/07/06 18:06 


 豊かになり便利になり、更により豊かになり便利になるために給与が増え消費が増える、という時代がありました。しかし、その過程で人間の生活は仕事に支配されるようになりました。仕事の生活が家庭や地域の生活よりも優先され、共働きが常態化し、他人を上回って自分が勝つことが目標になり、人間の心が次第に荒廃し自然も破壊されていきました。

 そして、子供たちは、勉強を競争としてとらえ、自分の向上のためではなく他人との競争に勝つために学ぶことを強制されてきました。

 その結果、子供たちの勉強の中身を親は知らず、ただ成績としてつけられる点数だけが見えるものになっていきました。

 また、仕事も同様に給与として渡される金額だけが、そのほかの家族にとって見えるものになっていきました。

 社会と家庭が有機的に結びついていれば、子供の勉強の中身は、そのまま親子の対話の土台となるものです。また、両親の仕事の中身も、子供にとって自分の生活の一部として関心の対象となるはずです。しかし、今はそうではありません。

 子供の勉強は、小学校高学年から次第にブラックボックスのようになり、時々通知される点数だけが家庭とつながる窓になっています。両親の仕事もその本人以外にはブラックボックスで、仕事の結果渡される金額だけが、家庭とつながる窓になっています。そして、互いに共有するものの乏しくなった家族に、共有の機会を提供してくれるものが消費生活なのです。

 そのような仕組みも、経済が発展し所得が年々上昇する時代にはうまく機能していました。親の所得が毎年増え、子供は親よりも豊かな生活が期待でき、子供の学歴は親よりも高くなるという時代には、勉強も仕事もブラックボックスで差し支えなかったのです。

 しかし、今、その仕組みがうまく働く前提となる経済発展が止まりつつあるばかりでなく逆に後退しつつあります。これまでも一時的な景気後退は何度もありました。しかし、その景気後退でスリム化し活力をつけた経済は、不況のあとにはより力強い成長をしてきました。

 ところが、今日の後退は、これまでの後退とは違い構造的なものです。いちばんの問題は、豊かな先進国でこれから目指すべき真の需要がなくなっていることです。そして、従来からある需要は、新興国の供給に支えられるようになっています。つまり、先進国から新興国へ不断の所得移転が行われる中で先進国での新しい需要と新しい供給が生み出されるという形になっていないのです。

 この行き詰まりを打開する道は、需要と供給を同時に創造することです。それがまず大人の社会で起きつつあります。それは、他人から与えられた仕事ではなく、自分の好きなことを仕事として社会に貢献し、その貢献の見返りとして収入を得たいという創造的な仕事への欲求です。

 会社の歯車として働くことによって得られる所得だけでなく、自分の好きなことや得意なことを仕事として、他人から喜ばれる結果として所得を得たいという動機が広がりつつあるのです。

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創造する子供たち、対話のある家庭、自助の教育 3 as/1573.html
森川林 2012/07/05 18:54 


 今の大人の世代は、これまで歯車としての教育を主に受けてきたために、創造的に提供できるものをあまり持っていません。しかし、互いにほどほどに創造的である者どうしが、自分の作ったものを与え合い、自分の学んだことを教え合い、少しずつ働く中身に喜びを感じ、その中身が家族にとってブラックボックスでないような生活を目指していく動きが生まれています。

 ここに、日本の社会が未来に向けて切り開く新しい経済の芽があります。つまり、先進国で生まれる新しい需要と新しい供給は、創造的な文化産業という形で全国各地でこれから生まれていくのです。

 このような社会の底流の変化の中で、子供たちの教育も、大きな変化を求められています。それは、ひとことで言えば、これからの教育の中心は、創造の教育になるということです。しかし、もちろん創造の教育は、知識の教育や理解の教育と対立するものではありません。知識や理解の土台の上でなければ、価値ある創造は生まれないからです。

 創造の元になるものは個人の個性です。しかし、個性はもともとだれにでも生まれつきあるものです。その個性が社会にとって普遍的に認められる創造性となるためには、知識や理解の土台とともに、個性を磨き上げる時間が必要です。ところが、今の教育は、知識や理解そのものが目的となり、それが点数化されることによって受験の選抜基準に使われるようになっています。その結果、知識や理解が「重箱の隅」化し、受験の科挙化が進む中で、知識や理解の過剰なノルマが、個性を創造にまで高める余裕を奪っているのです。

 だから、これからの教育が目指す方向は二つあります。一つは、知識や理解の効率のよい習得で、それが古来から読み書きそろばんと言われてきた、初等教育の単純で幹の太い学習法です。

 義務教育である小中学校の教育は、受験の科挙化に合わせた複雑な枝葉ばかりの教育で子供たちの時間を勉強で埋め尽くすべきではありません。枝葉は大学の専門教育に入ってから自分の興味に合わせて思う存分茂らせていけばいいのです。幹の太い単純な基礎教育を行うためのこれもまた単純で強力な教育の方法が、音読の反復による暗唱です。

 江戸時代の寺子屋教育の方法は、素読となぞり書きでした。それは、今の学校の宿題で行われている音読のような回数の少ないものではなく、素読は百回繰り返して暗唱できるぐらい行うものであり、なぞり書きは、筆で半紙が隅から隅まで真っ黒になるまで続けるものでした。この単純な方法の復活が今の教育に求められていることの一つです。

 これに対して、現在学校や塾で行われている教育は、カラフルで複雑な教材によって子供たちに知識と理解の教育を枝葉まで徹底させることを目指したものです。だから、コストのかかる教材や教室や先生が必要になっているのです。

 従来の知識と理解を最終目的とした教育が、音読や暗唱を教育の方法として導入する場合、暗唱の対象となる知識それ自体を目的化する傾向が出てきます。つまり、「枕草子」の暗唱ができたら、次は「平家物語」だというような暗唱の自己目的化です。

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