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国語力をつける根本的な勉強法 4「漢字のイメージ化を抽象的な漢字にまで広げること」 as/1772.html
森川林 2013/03/24 06:05 


 漢字は個々に覚えるのではなく、他の漢字や言葉とのつながりにおいて覚えたときに、生きて使える漢字になります。ある文章を暗唱するとき、人間はその文章の言葉をイメージ化することによって記憶します。つまり、暗唱は言葉に対応しています。これに対して、ある文章を理解するとき、人間はその文章の意味をイメージ化することによって理解します。つまり、理解は意味に対応しているのです。
 文章を理解するためには、その内容つまり意味がわかればいいので、内容を運ぶ手段となる言葉そのもののイメージを定着させる必要はありません。言葉は、文章の意味を理解するために使われたつど忘れられいくような使われ方をします。
 暗唱はそうではありません。百字の文章を暗唱することと、百字の文章を理解することとの間には、言葉の処理の仕方で大きな違いがあります。暗唱の場合は、言葉そのもののイメージ化が必要になります。これが、言葉の教育の重要な方法になるのです。

 音読や暗唱の素材というと、江戸時代の寺子屋教育での素読の連想から、論語や漢詩や枕草子や平家物語を考える人が多いと思います。しかし、なぜ暗唱の教育を現代に復活させるかというと、それは現代の文章を読む力をつけるためです。現代の文章のほとんどは、戦後の歴史の中で、常用漢字約二千字の範囲で表される文章になっています。言葉の教育ということで考えると、論語や枕草子には、現代の社会での重要な用語である「経済」「電気」「国際」「量子」などは出てきません。古典の暗唱は、文化としての暗唱であって教育としての暗唱にはならないのです。

 では、現代の教育としての暗唱の素材にはどういうものが必要なのでしょうか。それは、まず常用漢字が網羅されているものでなければなりません。次に、その常用漢字の集合が意味を持つつながりで並べられているものでなければなりません。そして第三に、暗唱をするからには語呂のいいものでなければなりません。そのようにして開発したものが、言葉の森の漢字集です。これまでの漢字学習の教材には、これらの三つの条件がそろっているものはありませんでした。

 言葉の森の漢字集は、教育漢字については学年別配当の順序で作られています。それは学校教育の中で活用できるようにするためです。だから、漢字集は漢字の書き取りの練習としても使えます。しかし本来の目的は、その学年で習う漢字を、生きたイメージを持って読めるようにするためのものです。

 漢字集は、小学校低中学年のころは、まだそれほど重要ではありません。使われている漢字が日常的に使われている語彙と同じ水準なので、わざわざ暗唱してイメージ化するほどのものでないものが多いからです。
 しかし、学年が上がるにつれて漢字集の暗唱による漢字のイメージ化が重要になってきます。
 例えば、小学6年生の漢字集にある「朗報 貴族 神聖 奮起」などの語彙は、子供が、たとえその漢字の読み方と書き方を知識として習っていたとしても、日常的な会話や読書の中で頻繁に出てくる言葉ではありません。だから、こういう言葉が出てくるような文章を読むと、子供は、その文章を難しいと感じるのです。
 そして、難しい文章を読むよりも、自分のよくなじんでいる言葉で書かれている易しい文章の方が、読書の楽しみという中身に没頭できるので、現代の豊かな読書環境の中ではかえって、易しい本の読書から、難しい本の読書へ移行することができなくなるのです。(つづく)

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国語力をつける根本的な勉強法 3「知識としての漢字から、生きたイメージを持つ漢字へ」 as/1771.html
森川林 2013/03/23 06:28 



 言葉は、思考と理解の重要な手段です。人間は、言葉を理解するのではなく、言葉を通して物事を理解しています。言葉が手段として活用できるためには、それが自分の手足のように自由に使えるのでなければなりません。
 言葉の場合、手段として自由に使えるとは、その言葉が生きたイメージや生きた現実とのつながりを持って使えるようになっていることです。そして、その練習方法は、実際に生きた場面で使われる言葉を経験することです。それが読書や対話です。
 これに対して、問題集に載っているような、漢字の問題の読みを書くとか、意味を書くとかいうことは、言葉を知識として知っているかどうかを見ることです。知識としてその言葉を知っているということが、そのままその言葉を道具として使いこなしていることを意味するわけではありません。
 だから、言葉の豊富な子は、本をたくさん読んでいるということと、しかも、そこに質の高い本が含まれているということが言えます。同様に、対話においても質の高い対話を数多く交わしている子は、同じように豊富な言葉を使って話すことができます。
 上手な作文を書くためには、作文を直すだけでは不十分です。作文の中身となる語彙の量と種類を増やすために、まず読書や対話に力を入れていく必要があります。

 しかし、ここで現代の読書環境が豊かになっていることが、ひとつの大きな障害になってきます。それは、より大きく見れば、現代のメディア環境が豊かになっていることにも結びついています。今の社会では、子供は(もちろん大人も)、質の低い言葉の環境に、際限なく長時間接することができるようになっているのです。
 最近のイギリスの調査結果で、中学生の読書量が減ったことがわかったそうです。その理由は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に参加する時間が増えたことだと言われています。子供の自由時間の過ごし方が、読書からインターネットに変わったことによって、質の高い言語に触れる機会が減っていると考えられるのです。(質の高いSNSの活用ももちろんあるでしょうが。)

 ここに、教育の役割があります。人間の日常生活を、例えばインターネットやゲームを禁止するような形でコントロールすることは、一時的にはできても決して永続的にはできません。日常生活は本人の自由意志に任せ、その分、教育で言語の環境を豊かにする工夫をしていく必要があります。
 しかし、言語の教育というものは、読書や対話という日常生活的なものに支えられている部分の方が大きいので、学校教育の中では、日本の国語の学習は、漢字の書き取りのような知識的なものが中心になります。この漢字教育を、単なる知識としての漢字ではなく、生き生きとしたイメージを持つ言葉の習得としての漢字を学ぶ機会にするのが、漢字の暗唱という方法です。

 貝原益軒は、児童の教育として論語などの文章を毎日百字、百回声を出して読み、空に書くという学習法を提唱しました。素読とは、単に声を出して何度か読むことではなく、そらんじるまで音読するという練習です。
 では、なぜ1回読んで意味がわかればそれで済むようなものを、そらんじるまで暗唱する必要があったのでしょうか。ここに、知識としての漢字(言葉)と、生きたイメージを持つものとしての漢字(言葉)の違いがあります。(つづく)

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