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未来の教育5「もうひとつの新しい人間能力のフロンティア、心身教育」 as/1975.html
森川林 2013/11/07 08:44 



 教育の役割は、人間の能力を高めることにあります。
 人間の能力の中心は知力です。知力の中心は創造力ですが、創造力が現実に役立つものになるためには、材料となる知識や技術が必要です。だから、現在学校で行われているような基礎的な知識や技能の習得が、教育の大きな目標になります。

 人間の能力の中には、知力以外のものもあります。その一つが体力です。体力には、持久力、瞬発力、巧緻性などがあります。また、病気や怪我に対する抵抗力、治癒力などもあります。この体力を高めることも、教育の大きな目標です。

 人間の能力には、知力、体力以外のものもあります。日本では、昔から知育、体育、徳育ということが言われていました。知育が知力を育て、体育が体力を育てるものであるように、徳育は徳力を育てるものです。教育の大きな目標の第三は、この徳力を育てることです。

 徳力は、現実的な形では、次のような力として表れます。
 まず、物事がうまく進む力です。現実世界は、物理的な法則のもとに動いています。だから、物事が生起する現象は確率的なはずです。しかし、人間が関わるものには、確率をわずかに超える現象があります。このわずかな差を生み出すものが徳力の一面である想念力です。
 想念力は、知力や体力ほど確実な目に見えるものではありません。しかし、人間社会では、この想念力のわずかな差が、しばしば大きな結果の違いとなって現れます。

 徳力のもう一つの面は、身の回りの危険や安全を察知する力です。人間は、二つの選択肢があった場合、そのどちらかをランダムに選ぶのではありません。客観的な裏付けはないものの、勘によってよりよいものを選びます。このよりよいものを選ぶ微妙な力が、徳力のもう一つの面である心眼力です。

 この想念力と心眼力、つまり心身力を伸ばすのが、心身教育の目標です。

 教育には、評価の手段と習得の方法が必要です。
 心身力の評価の手段は、想念力や心眼力の小さなシミュレーションです。

 心身力の習得の方法は、あらゆるものに対する分け隔てのない愛のようなものです。
 これは、具体的にはさまざまな形で表れます。関英男さんの述べた洗心のようなものや、塩谷信男さんの述べた前向きな心や、中村天風さんが述べた積極心のようなものと考えてもよいでしょう。つまり、怒らない、不満を言わない、愚痴をこぼさない、不安を持たない、周囲に感謝し思いやりを持ち、いつも明るく幸福な気持ちでいて、勇気を持ち積極心で生きていくというような心の姿勢のことです。
 世間一般で考えられている人間の徳というものは、徳育教育の目的ではなく方法として考えていくものなのです。

 心身力の習得の重点には、個人差があります。ある人にとっては怒らないことが、他の人にとっては愚痴をこぼさないことが、また他の人にとっては勇気を持つことが重点になります。課題は、人によって違うのです。だから、その内容は、他人が決めるものではありません。また、他人がその度合いを評価するものではありません。ここが、道徳や宗教と違うところです。

 心身教育が進むことによって、人間の能力は大きく発展します。しかし、人間は生身の肉体を持った存在ですから、どれだけ心身力が発達しても、知力と体力は別の課題として追求していく必要があります。

 そして、やがて、知育、体育、徳育のバランスのとれた人間になるというごく平凡なことが、教育の目的として改めて了解されるようになるのです。

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未来の教育4「新しい知のフロンティア、ハイパー日本語」 as/1974.html
森川林 2013/11/05 06:42 


 これからの教育で重要になるのは、創造性を育てる教育です。
 では、これからの時代に創造性を必要とする知的なフロンティアはどこにあるのでしょうか。
 IT技術や金融工学には、もう新たな開発の余地はあまり残っていません。ロボット作りは、これからの新しいフロンティアになるでしょう。しかし、それ以上に新しい創造の分野は、実は日本語の中にあるのです。

 日本語は、もともと教育性の高い言語です。日本人の平均的学力が高いのは、教育の成果だけでなくそれ以上に日本語という言語の成果です。
 だから、将来の世界的な言語は、伝達のための英語が次第に機械翻訳などに置き換えられるとすれば、教育性を基準にした日本語になっていくと思われます。
 この日本語の教育性を、今後は日本語の創造性に発展させていく必要があります。それを仮にハイパー日本語と呼びます。ハイパー日本語とは、概念の密度を高めた日本語です。

 日本語は、自然描写や心情描写の語彙を豊富に持つ言語です。しかし、抽象的な概念の語彙はあまり持っていませんでした。それは、日本の文化が、議論や論争のような言挙げをしない文化だったからです。

 日本語の概念言語の多くは、海外からもたらされました。例えば、矛盾という語彙は、盾と矛の故事から来ています。もし、誰もが正直な商売をする社会があるとしたら、そこでは矛盾という語彙や概念は生まれにくかったでしょう。助長という語彙は、植物が伸びるのを助けるために根を引っ張ったという故事から来ています。もし、誰もが植物の気持ちを考え不自然なことをしないという社会だったら、そこでは助長という語彙や概念はやはり生まれにくかったでしょう。
 日本で概念的な語彙が発展しなかったのは、日本の社会が基本的に平穏な共感度の高い社会だったからです。

 その平穏な社会が海外の文化との接触の中で概念語彙を受け入れるときに、漢字の造語力が役に立ちました。この造語力が、近代の欧米文化の流入の際にも発揮されました。エコノミー、フィロソフィーなどの欧米にある概念が、経済、哲学などの新しい漢語として日本語の中に組み入れられたのです。
 欧米の表音文字で新しい概念を作るには、ギリシア語やラテン語の素養が必要だと言われています。日本語では、その役割を漢字の持つ表意性が担いました。

 しかし、日本語と結びついた漢字の力にはそれ以上のものがあるのです。
 それは漢字の表意性による概念形成力を更に発展させた漢字の概念圧縮力です。

 日本語には、言葉を短縮して使うようになった語彙が数多くあります。例えば、ワードプロセッサならワープロ、デジタルカメラならデジカメ、電子卓上計算機なら電卓という具合です。
 この言葉の短縮を概念の圧縮として使うことができます。
 例えば、「鶴の恩返し」という民話があります。このストーリーの持つ概念は、読み手によって何層にも読み取れますが、この多層的な概念のひとつを「鶴恩」という言葉で表し、その概念を多くの人が共有すれば、それが概念の圧縮となります。宮沢賢治の「注文の多い料理店」という童話があります。この童話の持つ多層的な概念も、「注料」という言葉で表すことができるかもしれません。

 人間の思考は、言葉を使って行われています。その言葉を組み合わせる力のもとになっているものは短期記憶です。ところが、短期記憶は一度に7つぐらいのまとまりしか同時に操作することができません。だから、小さい子供は、長い文の話をなかなか理解できません。それは概念の圧縮度がまだ低いからです。逆に言えば、長い文に接することによって、子供の思考力は伸びていくとも言えます。

 大人の場合でも、ランダムな文字や数字は7つぐらいまでならそのまま保持できますが、それ以上になるとメモなどをしないかぎり保持できなくなります。
 概念も同じです。人間がものを考えるときは、複数の概念を組み合わせながら思考を進めます。そのときに、一つ一つの概念が高密度に圧縮されたものであれば、思考の速度は何倍にも上がります。
 この日本語における漢字の概念圧縮力を新しい日本語の可能性として発展させるものがハイパー日本語です。別の言い方で言えば、日本語の高密度の運用法です。

 日本語は、将来日本人だけでなく、世界に広がる可能性を持っています。それは、日本語を使うことによって知識の習得や理解が速まるという教育性があるからです。この日本語の教育性に加えて、更に日本語の創造性を発展させたものがハイパー日本語です。

 言葉の森では、オープン長文作成プロジェクトと結びつける形で、このハイパー日本語プロジェクトを提案していく予定です。

 「弁証法」「限界効用」「即自対自存在」などの語彙には、その背後に大きな概念があります。しかし、これらの概念を身につけるには、その語彙が使われている本を読まなければなりません。辞書でわかるのは、主に小さな概念語彙です。大きな概念語彙は、辞書的な意味を知るだけでは、思考の道具として使うことはできないからです。
 しかし、読書でも辞書でもない概念語彙の習得の仕方として、ひとまとまりの文章を繰り返し読む方法があります。繰り返し読むためには、その文章の内容が優れているとともに、表現も美的に優れている必要があります。それをオープン長文として作成していきます。

 このオープン長文プロジェクトの仕組みは次のようなものになります。

 まず、最初の作者が作った長文のタイトルを、例えば、「○○」バージョン1とします。その長文を改良(換骨奪胎)して新しく長文を作った人がいれば、それは「○○」バージョン1.1になります。更に別の人も、元のバージョン1を改良すればそれは「○○」バージョン1.2になります。そのバージョン1.2を改良した人がいれば、それは「○○」バージョン1.2.1です。そして、元の作者が、それらの改良をふまえてバージョン1を改良した場合、それは「○○」バージョン2になります。
 このようにして、オープンな参加でよりよい長文を作っていくのです。

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