●創造教育、効率教育、文化教育を担うオープンな組織
創造教育、効率教育、そして将来の創造文化の基盤となる個性的な文化教育を作り上げる土台は、オープン化された組織です。
このオープン化された組織の運営が、未来の創造文化を担う組織の経営に結びつきます。
現在世の中にある組織は、大きく二つに分けられます。ひとつは、利益を目指す組織で、その典型が株式会社です。そして、もうひとつは、利益を目指さない組織で、その典型がNPO法人です。しかし、この二つの組織形態は、いずれもこれからの時代に適応しなくなっていきます。
株式会社は、資本を提供した株主の意向によって運営されます。しかし、未来の社会では、資本は希少価値を持つものではなくなります。
そして、利益を極大化するという目的を持つ組織は、利益拡大の障害となる人件費を常に削減する方向に進化していきます。株式会社は、限りなく無人工場、無人サービスを目指していくのです。
その無人化された会社が、相互の競争によって更に徹底的にコストを切り詰め利益を拡大していく先にあるものは、太陽や森林のような大自然のインフラと似た、限りなく無償に近い社会的なインフラです。
未来の人間は、会社勤めという形で労働に参加するのではなく、創造文化の担い手という形で労働に参加するようになるでしょう。このようになったとき、改めて労働の対価は給与ではなく、創造の喜びだったということが社会の共通認識となっていきます。
では、NPO法人は、どうなのでしょうか。あらゆる生き物は、成長し繁栄することによって存続します。成長や繁栄を目的としない種は、長期的には存在することができません。
NPO法人も同じです。法人を運営するためには、何らかの利益を上げることが必要です。しかし、その利益は法人の理念と結びついたものである必要はなく、むしろ効率よく利益を上げるためには、理念から離れて利益追求だけを目的とした方がうまくいくことも多いのです。
すると、それはやがて利益が先導する形で、法人の理念を歪めるところまで進む可能性があります。高尚な理念によって設立された法人が、人々の善意によって集められた募金を投資で運用するなどということもあり得るのです。
理念と利益を結びつける工夫ができるのが人間の知恵です。そういうオープンな組織が未来の教育を担っていきます。
●教育の仕事に携わる個人企業
これからの組織は、利益だけの組織でも、理念だけの組織でもなく、利益と理念を結びつけた形態になる必要があります。それが個人で始めるミニ起業です。
もちろん起業は、ミニではなくビッグになってもいいのです。本質は、ミニでもビッグでもどちらでもよく、自分の目指す理念と利益を結びつけて働くことのできる仕組みを作ることです。
このミニ起業の個人企業が、未来の社会の創造文化の担い手になります。
しかし、今日の大人の多くは平凡な学力をつける教育しか受けていないために、個性を生かした創造文化を作り上げるにはまだ力不足です。創造文化を作る大人は、子供時代から創造教育を受けてきた人が中心になるでしょう。
だから、当面個人企業は、創造文化ではなく、創造教育とその土台である効率教育を提供する形で広げることが考えられます。
世の中には、さまざまな利益の種があります。しかし、大事なことは利益がどれだけ上がるかということではなく、その利益が社会の進歩に沿ったものであるかどうかということです。
例えば、武器を作って売るのも利益です。しかし、未来の世の中は争いのない方向に進みます。だからといって、欠点を直すだけの利益が価値ある利益になるのではありません。
未来の社会の利益は、新しい価値を創造する方向で生み出されます。その最も近くにある仕事が、今は教育の分野で、将来は文化の分野になります。だから、教育に関わる仕事に携わる意義があるのです。
●現代に復活させる寺子屋教育の方法(2)家庭教室と寺子屋オンエア
第二は、家庭教室と寺子屋オンエアです。
家庭での自習を、地域で複数の子供たちを集めて行う場が家庭教室です。この家庭教室を、週1回の作文指導を行う森林プロジェクトの教室と結びつける形で広げていく予定です。
地域の子供たちを集めるような家庭教室を作れないところでは、通信で家庭教室を行うことができます。それが寺子屋オンエアという企画です。
オンラインで互いの勉強の様子がわかる状態を作り、先生1人に生徒数人という単位で、生徒がそれぞれの家庭でそれぞれの自習に取り組むという形です。
●現代に復活させる寺子屋教育の方法(3)自習検定試験
第三は、自習検定試験です。
家庭での自習にも、評価という目標は必要です。それが毎月の勉強の範囲を決めた自習検定試験です。
自習検定試験は、ウェブで問題表示、解答、採点ができるようにしています。
検定試験の問題は、自習を普通にやっていればできるような基本的なものを中心にします。また、できなかったときは同じ範囲をもう一度取り組みます。できる子は学年を超えて先に進むことができます。
この自習検定試験も、オープン教育で作成していきます。
●ネットを利用した教育と教育の個性化が創造文化の裾野に
効率教育によって子供たちの学力を確実につけるとともに、余裕のある子どもらしい生活を送れるようにすれば、それが、作文を中心とした創造教育を広げる前提になります。
しかも、ウェブを利用した効率教育には、教育の内容も個性化できるという利点があります。例えば、ウェブの講座として、ロボットプログラミングなどもこれから普及するでしょう。
既に、アメリカでは、教育にインターネットを利用するさまざまな新しい試みが行われています。この点で、日本のネット利用教育はまだ立ち遅れています。しかし、教育の正否を決めるものは、教育の方法ではなく内容です。
ネット教育というインフラが普及したあとに重要になるのは、教育の中身です。その中身は、効率教育を更に効率化することではなく、教育の個性化を進めていくことです。この個性化した教育が、将来の創造文化の裾野を形成します。
人間の創造性を価値の源泉とする社会は、一方で創造教育によって、もう一方で創造文化によって、人間の生活の中に根をおろしていくのです。