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真のICT(情報通信技術)教育 as/2249.html
森川林 2014/10/26 22:11 


 日本は、ICT教育が遅れているということを言う人がいますが、そこで描かれているICT教育は、
・生徒数あたりのコンピュータが多くて、
・ICT教育のできる先生が多くて、
パソコンの前で、生徒と先生がにこにこと勉強しているようなイメージの教育です。
 ICTという言葉や、パソコンやインターネットという物にとらわれている教育なのです。

 教育の本質は、子供が何をいかに学ぶかというソフトであり、そこには学ぶとは何かという哲学のようなものがなければなりません。
 しかし、今言われているICT教育は、学ばせる道具だけに目が向いているように思えます。

 コンピュータとインターネットは、確かに活用できるツールです。しかし、その活用の仕方は、まだ初歩的な段階にとどまっています。
 今考えられているICT教育の意義は、
・インタラクティブ(双方向的)な操作で楽しくできる
・個々の生徒の進度に応じた対応ができる
・僻地でも同じ教育が受けられる
という程度のものです。

 その程度の意義でICT教育が考えられているならば、ICT教育と、これまでの通常教育との差はほとんどないと言ってよいでしょう。
 もし違いがあるとすれば、それは、低学年の子や勉強の苦手な子に、インタラクティブな個別対応ができるというところだけで、高学年の生徒や、勉強の普通にできる生徒には、特に目立った差はありません。
 むしろ、多くの普通にできる生徒は、インタラクティブに取り組まざるをえないICT教育にわずらわしささえ感じると思います。

 かつて、子供たちに読書の面白さを伝えるためにといううたい文句で、参加者の対話や劇などを通して本に触れるという試みがありました。
 読書嫌いな子にとっては、本に触れる機会になったかもしれませんが、読書好きな子にとっては、自分ひとりで本を楽しむよりも、ずっと遠回りで味わいの薄い読書経験にしかならなかったと思います。
 それと同じようなことが、今のICT教育の発想に感じられるのです。

 これは、民間で行われているICT教育についても同じです。
 民間の場合は、もともとの動機がコスト削減ですから、優れた教材を提供できるのはいいのですが、結局多様なコピーを個々の生徒の進度に応じて割り振ることに情報通信技術が使われているだけです。
 ニワトリにえさをやって、どのニワトリもその食べ具合に応じて成長させるということなら、そういう方法にも十分価値があります。
 しかし、それは、ごく低学年のうちか、勉強の苦手な子にとって必要なレベルであって、その子が学年が上がり、勉強が普通にできるようになってきたら、そういうコピーの教材にはもう飽きたらなくなってくるのです。

 教育の本質は、紙と鉛筆を使ってひとりで学ぶ時間の中にあります。その時間を確保するために、情報通信技術が使われる必要があります。
 情報通信技術が前面に出るのではなく、子供の勉強が中心で、その勉強を支えるものとして、目立たない情報通信技術があるというのが、真のICT教育なのです。

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ICT教育を、人間の主体性を育てる教育にするには as/2248.html
森川林 2014/10/24 21:00 


 今のICT教育は、子供が楽しく取り組めるように動画や音声のリッチコンテンツを多用し、それぞれの子供の進度に応じたきめこまかい教材提示や評価ができるように教材を細分化し、スモールステップ方式で単元化するという方向に進んでいます。

 この方向は、これまでの、黒板による一斉授業よりもはるかに効率のよいものです。
 しかし、そのICT教育の背景にある教育観に、ブロイラーを育てるような発想を感じることがあります。
 その教育観をひとことで言えば、教育とは与えるべき餌をいかに効率よく食べさせてその子を成長させるかにある、というようなことになると思います。

 効率よく餌を食べさせるというのは、教育の初期には確かに大事です。漢字を覚えたり、計算の仕方を覚えたり、理科や社会の基本的な知識を覚えたりするのは、教育の出発点であり、だれでも身につけなければならない土台です。

 しかし、人間の成長にとって大事なのは、その出発点のあとに、自分の足でどう歩いていくかという時期の教育です。

 ICT教育の多くは、低学年の子供や勉強の苦手な子供が、楽しく効率よく勉強できるようにするという点では、さまざまな工夫がなされています。
 しかし、その先の学年の教育や勉強の得意な子供の教育に関しては、かえってICTのサービスが邪魔になっている面もあるのです。

 勉強の得意な子は、紙の上に書かれている文字情報を自分で読み取り理解するのが、一般に最も能率のよい勉強法です。動画や音声が流れたり、ゲームの要素があったりする教材は、かえってわずらわしいものなのです。

 勉強の本質は、人に教わることではありません。授業を聞いている時間は、まだ何も身についていない時間です。授業のあと、ひとりで机に向い、復習をしたり予習をしたり自分で考えたりする時間が本当の勉強の時間です。
 しかし、今のICT教育は、そういうひとりで考える時間を生かすという発想があまりありません。

 言葉の森では、現在、ネットとパソコンを利用した独自のICT教育を構想しています。
 教育の最も基本的なツールは、モニター画面やキーボードやマウスではなく、本とノートと鉛筆です。その本とノートと鉛筆を活用するために、ネットとパソコンがあるという発想をしていく必要があると思います。

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