大学入試の小論文は以前からありましたが、中学入試、高校入試でも、作文を課すところが増えてきました。
しかし、作文試験と言われているものの中には、200字の作文や400字の作文もあります。200字の作文というのは、twitterのつぶやきのようなもので、その試験ではほとんど何の評価もできません。
かろうじて評価できるものがあるとすれば、誤字がないこと、文法的におかしくないことぐらいです。ですから、書いてあればどの作文も同程度の評価になります。200字や400字の作文で評価が大きく開くというようなことはありません。
では、どのぐらいの作文の字数なら意味ある評価ができるかというと、それは1200字以上だと思います。1時間で1200字の作文を書くのであれば、その生徒の思考力や表現力がはっきり出てきます。
しかし、大学入試の場合は、この1200字の小論文試験が1本だけでは正しい評価はできません。少なくとも、異なるテーマで複数の小論文を書かないと、小論文の実力はわからないと思います。
なぜ1200字以上が評価の基準かというと、その理由のひとつは、言葉の森の自動採点ソフト「森リン」の評価が、人間の評価と一致してくるのが1200字以上だからです。
人間が「何となく上手だなあ」と思う作文は、森リンの採点でも点数が高くなります。しかし、その点数の差は、ほんのわずかです。はっきりした差は出るのですが、その差はほんの数点なのです。
ですから、800字程度の作文では、誤差の方が大きくなることがあり、正しい評価としては使えません。
今、言葉の森で受験作文コースで勉強している生徒の中にも、短い字数であればとても上手に書ける人がいます。
しかし、その字数の作文としては上手なのですが、その短い字数の中で全力疾走しているような上手さですから、字数が増えればもう上手ではなくなる可能性がかなりあります。
オリンピックで100メートル走というものがありますが、100メートルは長いから、20メートル走で様子を見ようというのと同じようなものです。20メートル走の順位と100メートル走の順位の相関はかなり低いはずです。
では、作文の場合、上手さというものはどこに表れるかというと、それは主として語彙力と表現力です。語彙力というのは、同じ概念を言い表すのに多様な語彙を使う力です。表現力というのは、やはり同じ思考内容を言い表すのに、多様な言い表し方をする力です。
この語彙力や表現力は、語彙力の検定試験や問題集などでつけることはできません。生きた語彙や表現を使うためには、生きた文章を読んでいる必要があるからです。
多様な語彙と多用な表現を使える生徒は、ものごとを見る目も多様です。また、多様な考え方を理解する力もあります。
作文小論文の入試で評価したいのは、この思考力、理解力のはずですから、200字や400字の短い作文試験では、ほとんど意味がないのです。(つづく)
受験作文小論文コースの生徒から、12月28日締切でファクスでお送りいただいた作品の添削アドバイスの動画をアップロードしました。
https://www.mori7.net/juken/ta.php
添削アドバイスは個人別ですので、ご自分のものしか見られません。
年末であわただしい時期でしたので、送り忘れた方は、1月に入ってからでも結構ですのでお送りください。
(ファクス:045-832-1466 24時間)
送っていただいたものは、全体によく書けている作品が多かったのですが、共通する弱点のようなものもありました。
そのいくつかを列挙しますので、来年以降に受験する方は、参考にしてください。
1、時間内に字数いっぱいまで書くためには、消しゴムを使わないつもりで書くのがコツ
普段から消しゴムで消しては書き消しては書きという形で書いている人は、そういう書き方が癖になりますので、できるだけ消さずに最初から直さなくてもよい文を書くように心がけていってください。
2、スピードを上げて字数いっぱいまで書くには、感動のあるエピソードを
よく考えて書く生徒に多いのですが、意見と説明だけで文字を埋めている作品がいくつかありました。
意見と説明だけで長く書けるというのは、考える力があるからですが、しかし、それでは書きにくいテーマにぶつかったときに、なかなか素早く長く書くということができません。
しかし、感動のない平凡な実例では、かえって密度の薄い文章になってしまいます。
自分のこれまでの経験の中から、個性、感動、挑戦などのあるエピソードを見つけて、いつでも使えるようにしていってください。
3、実例には裏付けとなるデータを
体験実例を書いているのに、その書き方に臨場感がなく、説明的に書いている人がかなりいました。
実例をリアルに書くためには、データをはっきりさせて書くことです。
「数えきれないほどたくさん」と書くよりも、「毎日朝6時から3ヶ月間」などと書く方が説得力があります。
しかし、生活作文ではありませんから、実例は簡潔に密度濃く書くことが大事です。
4、会話は使い方によって効果的にもなるし密度が薄くもなる
小学校低中学年のときは、会話を入れることによって具体的に書く練習をしましたが、受験の作文小論文の場合は、会話は、味のある会話やその人の人柄が伝わる会話だけに限ります。
どうでもいい会話を入れると、かえって文章の密度が薄くなってしまうからです。
一般に、受験作文では、会話を入れる場面はほとんどないのが普通です。
5、誤字は2箇所でボツ
誰でも誤字はあるので、受験作文で1箇所誤字があった場合は、まあ仕方ないかという目で見られると思います。
しかし、2箇所誤字があったら、そこでそれ以上はもう読んでもらえないと思っておくとよいと思います。
それぐらい誤字の評価は厳しいのです。
それは、誤字が少ないかどうかは、勉強を真面目にしていたかどうかと比例するからです。
ところが、小6や中3や高3の今の受験生の時期は真面目だったとしても、小学校4、5年生の時期は適当に勉強をしていたという人も多いのです。(特に男の子)
そのため、高3生でとてもよくできる生徒なのに、意外にも易しいところで漢字ミスがあるという人がときどきいます。
漢字の書き取りは、簡単な勉強ですが、やはり完璧に正しい字が書けるようになるには1年間かかります。
受験勉強に入る1年前から取り組んでおくといいと思います。
今の受験は、落とすための試験です。
よいところを見てくれるのではなく、悪いところを見つけるための試験です。
将来は、今の受験とは正反対の、その人のよいところを見るための試験ができると思いますが、それはまだ少し先です。
ですから、今の受験作文では、できるだけ欠点のないものを書いておくことが大事で(それは字数や時間も含みます)、その上に余裕があれば光る表現を入れるというようにしていってください。
受験生のみなさんは、本番では自分のいちばんよい面が出るようにがんばってください。
【保護者の方へのご注意】
人の作文を見て、そのアドバイスをするのは実は簡単なのです。
難しいのは、そのアドバイスを聞いて実際に書く子供です。
ですから、アドバイスは、それをそのまま子供に伝えるのではなく、お父さんやお母さんが自分たちも一緒に考えて、親子合作でよりよい作品に仕上げるようにしてください。
そのときのいろいろな対話がまた子供たちの考える材料になると思います。