夏休みの勉強は次のように取り組んでいきます。
まず、夏休みから本格的な受験勉強を始めるために、夏休み前に、志望校の過去問を解いておきます。解くと言っても、自分の力で解くのではありません。答えを最初に書き写し、問題と答えを読んで、どういう傾向の問題か、自分ならどこまでできるか、今後どういう勉強が必要かということを考えるのです。
問題を自分で解こうと考えると、心理的な負担が大きくなり、過去問に取り組む勉強がどうしても後回しになってしまいます。過去問は、勉強の仕上げのためにやるのではありません。勉強の準備のためにやるのですから、まず取り組みやすい「答えの書き写し」という作業から始めるのです。
過去問の答えを書き写し、自分で問題と答えを読んでみると、これから力を入れなければならない分野が自ずからわかってきます。受験勉強は、得意分野を伸ばすのではなく、苦手分野を伸ばすことを第一に考える勉強です。
人生や仕事は、得意分野を伸ばして取り組むものです。それは、正解のない分野だからです。しかし、受験勉強は正解のあるものですから、自分の苦手を補強することを第一に考えるのです。
得意教科の90点を95点にする時間よりも、苦手教科の60点を70点にする時間の方が短いのが普通です。このように考えると、苦手分野に取り組むことの大切さがわかってきます。受験の合否は総合点で決まるのですから、苦手分野の点数を上げる方が能率がよいのです。
自分がこれから力を入れて勉強する分野がわかったら、全教科の教材選びをします。大きい書店に行き、参考書コーナーなどで、自分が勉強するのにふさわしいと思う問題集や参考書をできるだけたくさん買ってきます。ネットの書店では、中身が確かめられませんから、評判のよさそうなものを、これもできるだけ多く買います。この最初の投資が重要ですから、ここでの出費は惜しまないことです。
参考書と問題集を買ってきたら、ひととおり全部少しずつやってみて、自分に相性のよいものを選びます。原則として1教科1冊に絞り、その1冊を受験までに5回繰り返して完璧に仕上げることを目標にします。夏休みは最も時間の取れる時期ですから、夏休み中にどの問題集を何ページやるか、どの参考書を何ページ読むかというページ数の配分をします。以上が夏休み前の準備です。
夏休み中は、1日の勉強時間の目標を決めます。目標の絞られた勉強ですから、成績がどれくらい上がるかは、どれだけ時間をかけたかで決まってきます。1日7時間やるとすれば、朝3時間、午後3時間、夕方1時間などと大体の目安を決めておくとよいでしょう。自分の立てた計画で、夏休み中に1日6~7時間勉強すれば、成績は必ず上がります。それも、驚くほど上がります。だから、夏休みは、塾の夏期講習などに行っている暇はないのです。
中学3年生は、昔で言えば元服ですから、大人として一人前の行動ができる年齢です。自分の意志力に自信がないから塾の夏期講習に行くというような気持ちでは、将来も人並みのことしかできません。また、お父さんやお母さんも、子供が自分の意志で勉強することを見守る勇気を持つ必要があります。最初は試行錯誤の不安があるはずですが、自分の立てた計画で1か月勉強したあとは、成績だけでなく人間としても大きく成長しているはずです。
ただし、自分の成績を客観視するために、模擬試験は、夏休み中から何度か受けておきます。しかし、模擬試験はあくまでも模擬試験で、最も大事な基準は、志望校の過去問で自分がどれぐらい得点できるかということですから、時々過去問に立ち戻り勉強の軌道修正をしていく必要があります。
寺子屋オンエアは、家庭学習を中心とした勉強法です。ところが、家庭学習がせっかく軌道に乗っているのに、もっとよく勉強させようと思い、家庭学習の時間を削ってまで塾に行かせようとする家庭も多いのです。
それは、親の世代が塾に行って勉強していたからという面もあります。また、今の社会では塾に行って勉強する子が多いので、それが最もオーソドックスな勉強の仕方だと思ってしまう人が多いからだと思います。
確かに、家庭で勉強をしていると、子供たちの勉強のアラが見えます。遊んだりふざけたり、集中できなかったりという勉強の欠点が見えるのは、親が近くにいるからです。しかし、その欠点は塾に行っていても変わりません。ただ、親の目につかないので気にならないというだけです。
子供たちの学力がつくのは、教えてもらっているときではありません。教えられたことを自分で反芻するときに本当の力がつきます。
塾に行って成績が上がる子は、家庭での宿題をきちんとしている子です。塾に行くだけで、家庭で何もしなければ、成績は決して上がりません。また、宿題のあるときだけ宿題をするという子も、成績は上がりません。宿題のあるなしにかかわらず、毎日同じような勉強をする習慣のある子が成績も上がります。ということは、逆に言えば、家庭で勉強する習慣のある子は、わざわざ塾に行って勉強する必要はないのです。
塾に行って教わる勉強をしていると、同じことを身につけるのに、家庭で勉強するよりも何倍も時間がかかります。そのため、塾に通う時間が増えると、子供たちの生活時間は圧迫され、遊んだり、本を読んだり、自分の好きなことをしたりする貴重な時間が削られてしまいます。なぜそういう時間が貴重かというと、それらの時間が子供たちの将来の仕事力や創造力の源になっていくからです。
塾でも、学校でも、先生に教えてもらう勉強という点では変わりません。しかし、小中学校の勉強は、わざわざ誰かに教えてもらわなくても、教科書と簡単な参考書と問題集だけでわかるようになっています。だから、教わる勉強はできるだけ少なくして、自分で決めたことをする勉強を中心にしていく必要があるのです。つまり、それは家庭学習です。
ところが、家庭で自分だけで勉強をしていると、その勉強法が正しいのかどうか不安になってくることがあります。また、それ以上に、勉強するきっかけをつかみにくいので、親から言われなければやらないという勉強になりがちです。
そこで、言葉の森では、寺子屋オンエアという仕組みを作ったのです。
しかし、ここでひとつ問題になるのは、学年が上がってくると、誰かに教えてもらわないとわからないような勉強も出てくることです。それは、受験のための差をつけることを目的とした勉強です。一種のパズルのような勉強ですから、教えてもらえばわかる、自分で考えたのではいくら考えてもわからないという勉強が出てくるのです。
そういう一見難しい勉強ができると、学力がついたように思いがちですが、それはパズルの解き方を知っただけで、本当の学力がついたのではありません。だから、中学受験のための難しい問題を解けるようになった子と、中学受験をせずに教科書レベルの易しい問題しか解かなかった子が、やがて中学3年生になり高校入試レベルの問題に取り組むようになると、かつての小学6年生のころの勉強の差は全くなくなっているということが多いのです。
では、その難しい受験勉強はどのようにしたらよいかというと、それは、家庭で志望校の過去問を研究することです。入試の傾向は、共通点もありますが、学校による違いがかなりあるからです。
学習塾での勉強は、子供たちに、どの学校でも受かるような全天候的な得点力をつけることを目的としています。しかし、それは最も無駄の多い勉強法です。能率のよい勉強法は、その子の志望校に絞って過去問を研究し、その子の実力に応じてどういう時間配分でどの教材を勉強するかを決めることです。
このように自分で工夫する勉強は、高校入試、大学入試、更には社会に出てからの仕事というように、成長するほど重要になってきます。
小学生時代は、他人に教えてもらう勉強の方が能率よく見えることがありますが、そういう時期は人生の中ではほんのわずかです。これからの長い人生の大部分は、自分で考えて自分で工夫する勉強法を身につけた子がよりよく切り開いていけるのです。