受験作文のい直前の対策と言っても、この時期に新しいことをやるのではありません。ときどき、言葉の森で勉強したものを学校やほかの塾の先生に見てもらう人がいますが、よほどその先生が作文指導に慣れている先生でなければそれはやらない方がいいです。(そういう先生はほとんどいません。)
というのは、作文指導に慣れていない先生ほど、この時期に直す指導をしてしまうからです。もちろん、その直す指導が具体的で本人にすぐできるものであればいいのですが、ほとんどの場合その生徒がすぐにはできないことを言います。
すると、子供は混乱して、これまでできていたことまでできなくなってしまうことがあるのです。
もし万一そういうことをもうしてしまった人がいたら、お母さんかお父さんがしっかりした方針として、「これまでのやり方でやっていけばいい」と言ってあげてください。
これは作文の試験以外のすべての試験にあてはまります。
何事も、最初に決めてやってきたやり方が、いちばんいいやり方なのです。
では、どういう直前対策をするかというと、それはこれまで書いてきた作文をファイルにとじておくことです。
その上で、その作文を読んで、自分なりに上手に書けたと思うところに赤か青のペンで線を引いておきます。(赤ペンは既に担当の先生が引いていることが多いので。)
また読み返してみると、表現を直した方がいいと思うところも出てきます。その場合は、小さい字になってもいいので、その部分をよりよい表現に直しておきます。ひらがな書きになっているところや、誤字のところも同じです。
そのようにしてファイルした作文を、ときどき読み返します。全部読む時間がないときは、上手に書けたと思った傍線の引いてある箇所だけでもかまいません。試験の直前まで何度も読んでいると、試験の本番で同じ表現や実例を使える場面が出てくるからです。
作文の勉強の仕上げは、自分がこれまでに書いた作文を読むことなのです。
また、もっと時間があるという人の場合は、同じテーマで元の作文を見ずに、時間制限の中で同じように書けるかどうかを確かめてみてください。(全く同じに書くというのではありません。大体の方向が同じであればいいということです。)
受験で差がつくのは、時間が限られているためです。同じテーマで何度も書いていると、自分が最高のスピードで書けばどのぐらいの時間で何文字書けるかがわかってきます。この自分の最速の字数を知っていると、試験の本番で残り時間が少なくなったときでも、「あと何分あるから、何文字は書ける」という見通しがつくので、焦らずに書いていくことができます。
作文試験や面接試験の当日には、読みかけの小さい本も持っていくようにしてください。作文の場合は、これまでに書いた作文を見直すのが試験前の準備ですが、それでも時間があるとき、又は面接試験で待っている時間があるときは、持ってきた本を読んでおきましょう。
試験前に本を読んでいると、なぜか不思議なことに、作文や面接の試験のときに、その本の内容を生かせる場面が出てくることがあるのです。
作文試験の本番で、書きやすい、易しい課題が出てきたら、それは普段の心がけがよかったからです。
その反対に、難しい、書きにくい課題が出てきたら、それは逆にチャンスです。自分が難しいと思うときは、ほかの人もみんな難しいと思っています。言葉の森での作文の勉強は構成を重視して練習しているので、難しくて書きにくい課題のときほど上手にまとめて書くことができるからです。
さて、生徒の方はこういう準備でやっていけばいいのですが、お父さんやお母さんも心の準備をしておく必要があります。
合格を目指して勉強することは、とても価値あることです。こういう受験勉強の中で、親も子も鍛えられます。
しかし、人生という長い目で見ると、合格した子も、合格しなかった子も、途中の経過は違っても、なぜかその子の本来の目指していたところに行き着くようになっているのです。
合格が有利で不合格が不利に見えるのは、そのときだけです。その後の人生の中では、有利に見えたことが不利になったり、不利に見えたことが有利になったりして、いろいろな紆余曲折を経て、その子の本来の道を進んでいたことに気がつくのです。
だから、お父さんお母さんは、なごやかな表情で子供の受験勉強の最後の仕上げを見守ってあげてください。
これからの入試では、選択式の問題は次第に少なくなり、記述式の問題が増えていきます。更に、記述式以上に文章力の評価を重視した作文、小論文の試験も増えてきます。
記述力というものは、誰でもそれなりにありますが、入試で大事になるのは記述をするスピードです。
これは読解の問題でも同じで、国語の問題は誰でも時間をかければそれなりにできるようになりますが、スピードを上げて読み取るというところが難しくなるのです。
家でゆっくりやればできるのに、実際の試験ではできないというのは、このスピードが不足しているからです。
読解と記述のスピードを上げるためには、難しい語彙を読み取る語彙力と、難しい語彙も的確に使える語彙力とが必要です。読む語彙力と書く語彙力がそれぞれに必要なのです。
語彙力の有無は、森リン点の数値として出てきます。
人間が読み取って、「何か密度が薄い気がする」と思うものは森リン点が低く、その反対に、「密度の濃い文章という気がする」と思うものは、森リン点が高いという関係があります。
つまり、森リン点は、その文章に使われている語彙の質と量をチェックしているのです。
では、どうしたら語彙力が増えるかというと、ひとつは長文音読で、もうひとつは長文暗唱です。
長文の暗唱に慣れていると、英語の勉強も、算数数学の勉強も、わかりにくいといころはとりあえず暗唱で対応という形がとれます。
これは、決して丸暗記というのではありません。丸暗記というものは、テスト前のそのときだけ覚えていてあとは忘れてしまうような暗記です。
そうではなく、わからないながらも暗唱で丸ごと自分のものにしておくと、あとからそのわからないところが時間の経過とともにわかるようになるというのが暗唱なのです。
この暗唱によって、難しい語彙を読み取る力と、その語彙を使う力がついてきます。
小学校高学年から中学生にかけては、理解の語彙力に比べて表現の語彙力が低くなる時期です。そのため、この時期の子供は作文を書くことに負担を感じやすくなります。
つまり、読む力はあるので、それに比べてあまりに低い自分の書く力を見て、作文が苦手だと思うようになるのです。
この苦手な時期をのりこえる勉強が、音読と暗唱です。
音読は、張り合いがない勉強という気がするので、家庭では続けにくい面があります。また、家庭で音読をしていると、よく親から読み方を注意されることがあります。それでますます音読は続けられなくなりがちです。
暗唱の場合は、暗唱をし終えたあとの達成感があるので、音読よりも続けやすい面がありますが、達成感を感じるようになるまでの最初の練習を乗り切るまでが難しいところです。
言葉の森の寺子屋オンエアでは、音読については、skypeのビデオメッセージで先生に音読を送るという形を取っています。これで、音読を続けやすく感じる生徒が増えてきました。
暗唱については、暗唱に慣れるまでの間、やはり寺子屋オンエアで暗唱クラブのようなものを立ち上げ、それを今年からスタートする暗唱検定でチェックするという形を考えています。
作文力や記述力は、文章を書けば上達するわけではありません。書いて上達するのは、作文力記述力の一部です。文章を書く力は、文章を書くよりも、読む力をつけて上達する面があるのです。
その読む勉強を、毎日の自習という自然な形で取り組めるようにしていくのが大事です。
「作文力や記述力は、文章を書けば上達するわけではありません。書いて上達するのは、作文力記述力の一部です。文章を書く力は、文章を書くよりも、読む力をつけて上達する面があるのです。 」
私も高1の娘といっしょに読解力アップに励みたいと思います。