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勉強の目的――創造の時代に対応した勉強観を持つ as/2758.html
森川林 2016/12/13 05:34 


 昔は、勉強の目的というものをいちいち問わなくても、誰もがわかっていた時代がありました。
 それは、キャッチアップの時代です。

 欧米という目標があり、そこに追いつくことがそのままま勉強の目的になっていました。これが、途上国型の勉強観です。
 それは、学ぶことが明らかで、誰もが学びたいと思い、学ぶことが自分にも社会にも利益になるという時代でした。
 それが、福沢諭吉が「学問ノススメ」であらわしていた立身出世の学問観でした。

 この時代は、簡単に言えば大学に入学することが勉強のゴールでした。
 今の親の世代とその上の世代は、そういう時代を生きてきました。

 しかし、世の中の現実は、意識よりも先行して変化します。
 日本はやがて欧米に追いつき、いつの間にか追い越すようになっていました。
 「学問ノススメ」が前提としていたキャッチアップの時代が終わりつつあるのに、意識だけはキャッチアップ型の勉強観が続いていたのです。

 かつては、よい大学が、よい会社、よい役職になり、それがそのままよい人生につながっていました。
 それは、旧制高校に代表される少数のエリートが成立していた時代です。
 しかし、今はどの大学を出ても、それでエリートとみなされることはありません。
 それよりも、高学歴で仕事ができないとか人間性に問題があるというような事象も目立っています。

 ゴールに向かって追いつく時代が終わっているのにもかかわらず、ゴールを前提とした勉強だけが肥大化し、その勉強に合わせる教育が行われてきたからです。

 では、キャッチアップがなくなった時代の勉強の目的とは何なのでしょうか。
 それは、創造の時代に対応した勉強をすることです。

 しかし、創造とは、地に足の着いた、生活を成り立たせるものでなければなりません。
 絵画や音楽やスポーツのようなほとんどの人が趣味の域を出ないものが創造なのではなく、独立開業という言葉でイメージ化されるようなものが現実的な創造です。

 しかし、そういう独立して仕事をするような創造を個人が最初から始めるのは困難です。
 そこで、これからの時代には、家業に就くとか、徒弟として修行するというような形で、自分が将来独立して仕事をする中で創造することが、多くの人の求める道になるのです。

 現在の大企業は、大きな生産力を持っていますが、そこで新たに必要とされる創造的な仕事に就く人はごく少数です。
 多くの人は、その企業の手足となって、非創造的な仕事をこなすようになっています。
 もちろんそういう日常的な平凡な仕事が社会を支えているのですが、それらの仕事は今後次々と機械化されていきます。

 昔は、独立して仕事をして失敗したら、ちり紙交換でも何でもすればいいと言われた時代がありました。今、ちり紙交換などという仕事はありません。
 同じように、新聞配達も、タクシーの運転も、スーパーのレジ打ちも、今後は今の形で仕事が残ることはなくなります。
 今、企業の中で行われている必要な仕事も、あるいは企業の仕事自体も、これからは必要なくなることが考えられるのです。

 堅い仕事と言われる分野は、人間の生存に結びついています。誰もが必要とするから堅い仕事になっています。
 しかし、そういう仕事は、実は発展性の少ない仕事です。

 社会が安定し、生産力が上がってくると、堅い仕事ほど競争の激しい、旨味のない仕事になってきます。
 これまでは、それが資格制度などによって守られてきましたが、これからの自由化が進む時代には、堅い仕事はかえって魅力のない仕事になってきます。

 創造の時代に発展する仕事は、逆に堅くない仕事です。
 それは、豊かな生産力と安定した社会の中では、需要そのものが創造的になるので、その創造的な需要に対応して生産も創造的なものが求められるようになるからです。

 そこで求められる創造的な仕事は、企業的なものよりも、家業的、個人的なものになっていきます。
 その仕事に必要な能力は、創造力とともに全人間的な力です。そこには、教科の枠を越えた学力も当然必要になってきます。

 キャッチアップの時代の受験勉強に対応した学力は、英数国などの主要教科に限定されたものでした。
 しかし、独立して生きる時代に必要な学力は、それだけでは足りません。あらゆることを学ばなければ間に合わないのが、創造の時代の学力です。

 今はまだその社会は、明らかな形としては目に見えるようにはなっていません。
 しかし、社会は確実にそういう方向に進んでいます。

 子供たちの勉強の目的を考える場合、親は、当面の入試に合格することだけでなく、その先のその子の仕事に結びつく勉強ということを幅広く考えていく必要があるのです。

この記事に関するコメント
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nane 20161213 1 
 今の勉強観をひとことで言えば、最小のコストで最大の効果を上げるというものです。
 だから、受験に出る教科だけ力を入れて、あとは手を抜くというようなことが当然のように行われているのです。
 しかし、それは時代おくれのキャッチアップの時代の勉強観です。
 創造の時代の勉強観は、自分の好きなものにいちばん力を入れて、あらゆるものを幅広く勉強するというものです。


森川林 20161213 1 
 子供に勉強の目的を聞かれた場合、大人は一応もっともらしいことを言えますが、その言葉にあまり迫力がないのが普通です。
 それは、大人自身が、今の社会の中で生きる目標を今見失いつつあるからです。
 だから、新しい社会観に基づいた勉強観が必要になっているのです。


jun 20161213 2 
 入試に合格することは一つの小さな目標かもしれませんが、合格後の人生の方がずっと長いのですから、その後の大きな目標を見失ってはいけませんね。

namura 20161213 10 
指示待ちではなく、創造し、自ら動ける人材が必要ですね。

touko 20161216 77 
親の私たちは、まだまだキャッチアップの時代に教育を受けていたので、ついついそのままを現代の子どもたちにも押し付けてしまいがちです。自分(親)の社会観・勉強観を変えることが大切だと、思いました。

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森川林 2016/12/12 21:02 


 12月8日以降、記事を更新していませんでしたが、ちょうどいろいろと出かける仕事などが重なってしまったためです。
 明日、12月9日には記事を更新する予定です。

 最近読んだ本で面白かったのは、
「公教育をイチから考えよう」(リヒテルズ直子・苫野一徳)
「老いる東京、甦(よみがえ)る地方」(牧野知弘)
「日本の未来を考える6つの特別講義」(大前研一)
でした。

 こういう本を読むと、世の中は確実に変化していて、その変化が加速していることがわかります。
 インターネットの時代には、情報だけでなく現実の変化も速いのでしょう。

 こういう時代に大事なことは、変化に合わせるのではなく、自分自身が変化を作り出す気持ちでいることだと思います。

この記事に関するコメント
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namura 20161213 10 
「老いる東京、甦(よみがえ)る地方」(牧野知弘)、面白そうですね。東京はもう土地もなく、地方に進出でしょうか。私も読んでみます。

森川林 20161213  
 高齢者の比率は、東京も田舎も代わりませんが、東京は高齢者の絶対数が多いので、やがて医療も介護施設も間に合わなくなるということです。
 しかし、田舎はこれまでミニ東京化することを目指してきました。
 これからの田舎は、東京に上ることを考えるのではなく、東京から下る魅力的な個性を生かしていく必要があるという話です。
 言葉の森も、この路線を参考にしてやっていく予定です。

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