日大アメフト部の事件が問題になっていますが、ここで親が考えなければならないことは、こういう場面は長い人生の中では誰にでもあり得るということです。
そのときの子供の選択を決めるのは、幼少期の子育ての中で親が伝えたものしかありません。
今の世の中は、学校も社会も文化も、こういう肝心の教育については何も関与しません。
だから、親だけが子供に、「損の道か、得の道か迷ったら、損の道を行け」と教えることができるのです。
いつか日本の社会全体が、そういう本来の日本の文化を取り戻すと思います。
しかし、今は、家庭だけが日本文化を継承する場所になっています。
「葉隠」の中にある一節も同じことと伝えています。
それは、生きるか死ぬか迷ったら死を選べということです。
ここにあるのは、損得や生死を超えたもっと大きなものがあるという人生に対する信頼感です。
そういうものを子供時代に伝えるのが、親の役割なのだと思います。
日本のロケットの父と言われる糸川英夫氏が、高校3年生のとき、音楽にするか理科にするか進路の選択に迷い母親に相談したところ、母の言ったひとことは、「自分の好きな方を選べ。しかし、入試の難易度で決めるな」という言葉だけでした。
親が言うのは、損か得かということではないのです。
先日、中学生の生徒の保護者から、子供が学校の勉強が忙しく作文を書く時間がなかなか取れないという相談を受けました。
そこで、音声入力の講座を開くことにしました。
音声入力というと、多くの人は、口で話すようなやり方で、作文と同じようなことを書くのは難しいのではないかと言います。
確かに、話すのと同じようなスピードで作文を書くというのは、よほどその内容をよく知っているのでなければ難しいと思います。
文章というものは、書きながら考えるという面があるので、どうしてもスピードが遅くなります。それは、話すスピードとはかなり違うのです。
だから、音声入力で作文を書くコツの第一は、考えるスピードで話すということです。
たとえて言うと、日本の政治家の中に、「えー、……、あー、……、うー」というようなきわめてゆっくり話をする人がいます。それは、考えて言葉を選びながら話しているからだと思います。
ちょうどそのような話し方で、文と文の間に間を置きながら、次の言葉を選んで話していくのです。「あー」「うー」は入れません。
そのように考えながら話すやり方だと、スピードは1分間で100字程度になります。
普通の朗読は1分間で400字ですから、朗読の4分の1の速さでゆっくり話すというのが音声入力のコツになります。
もちろん、書く内容が既にすっかり頭に入っている場合は、1分間400字でも書けます。
1分100字(10分1000字)のスピードは、パソコン入力をかなり速く打つのと同じぐらいの速さです。
パソコン入力スピード認定試験というものがあり、4級が10分200字、初段が1000字、5段が2000字だそうですから、音声入力のゆっくり読みが初段と同じぐらいで、やや速く読むのが5段ぐらいになるのだと思います。
音声入力の第二のコツは、簡単な構想図を書いて話をするということです。
手で書く文章の場合は、自分が書いたものを読みながら書き進めることができるので、文章全体の構成と、自分がこれから書こうとうする文の関係がわかります。
しかし、音声入力の場合は、それまで自分が読んだ文章の全体が見えないので、文章全体の構造がわかりにくくなります。
ただし、1200字程度の文章であれば、書こうとする内容の全体像が頭に入るので、特に構想図のようなものがなくても書くことはできます。
しかし、将来、より長い文章を音声入力で書くことを考え、音声入力の準備として簡単な構想図を書いておくといいのです。
ところで、この自分が音声入力したものの全体が見えないというのは、後戻りをしないという点で音声入力の長所と考えてもよいと思います。
作文を書くのが遅い人は、少し書いては読み返し、消しゴムで消してまた書いて、というような書き方をしていることが多いからです。
さて、音声入力をしていると、作文試験など手で書くときに困るのではないかと言う人もいると思います。
これは、作文試験の3か月ほど前から手書きに戻して練習していくということで対応できます。
音声入力の意外な利点は、どこでも作文が書けるということにあります。
例えば、家から駅まで徒歩10分だとしたら、その道を歩きながら1000字の作文が書けます。
ただし、これは書く内容があることが前提になりますから、大事なことは作文以前に、読書、対話、思考の時間を十分に取っておくことです。
そして、その準備の上に、これまで1時間かけて書いていた作文を、10分で仕上げていくようにすればいいのです。
しかし、歩き作文は、そのうち問題になりそうですから(笑)、あまり勧めません。