親子作文とは、親子で話をしながら書く作文のことです。まだ字が書けないような低年齢の子から、ある程度文章が書ける年齢の小学1、2年生の子までが対象です。
親子作文のやり方の大きな流れは、次のようになります。
まず第一に、親子で共通の出来事を体験します。言葉の森では、小学1、2年生向けに「実行課題集」とういものを作成して、季節ごとの行事や遊びを家庭で行う際の参考にしてもらっています。
日本の行事は、海外などで暮らしていると、忘れてしまうことが多いものです。また、日本で暮らしていても、今の核家族化の環境では、日常生活の中にまぎれて季節の行事などは省略してしまうこともよくあります。そして、その代わりに、マスメディアなどで流される、半分コマーシャリズムに基づいた季節のイベントに巻き込まれてしまうこともよくあるのです。
日本人の共通項は、時代は変わっても昔から続いてきた行事ですから、家庭では日本の行事を意識的に行っていく必要があります。そのときに、実行課題集を利用するのです。
実行課題集をもとに、家庭で小さなイベントを行います。行事とは違いますが、先日、「夏休み朝の作文体験」で提案した小学1、2年生向けの課題は、「セミの幼虫を探して羽化の様子を観察しよう」でした。
日本では、セミの幼虫は、夕方になるとかなりの確率で見つけることができます。それを家に持って帰り、カーテンなどに止まらせて羽化の様子を観察するのです。しかし、羽化する直前の蝉の幼虫はとてもデリケートなので、そっと持ち帰る必要があります。
こういう体験を通して、親子で自然にいろいろな対話が生まれます。この対話が、子供の思考力を育てる最も重要な要素になるのです。
世の中では、子供の学力をつけるのに、問題集を解かせるような勉強をさせることが多いと思います。子供が問題を解いている姿を見ると、一見いかにも勉強をしているように見えますが、それは単に、解き方の手続きに慣れているだけです。
計算の練習や漢字の書き取りは、計算をしたり漢字を書いたりする作業に過ぎず、その作業に慣れているだけですから、その作業中は特に何も思考力は使っていません。もちろん、計算や漢字は勉強の基礎ですから、そういう勉強をするのはいいのですが、本当に考える力をつける大事な勉強は、考える過程の中にあります。
この考える過程というのが、読書と作文と対話です。つまり、考えるというのは、言葉を使って考えることなのです。
しかも、その言葉は母語である日本語です。それは、考えるための言葉というのは、自分の身体の一部のように自由に使えるものでなければならないからです。いろいろな国の言語を多数使える人であっても、ほとんどの場合、母語はひとつだけです。それ以外の言語は、ツールとして使えるのであって、自分の身体の一部として使えるわけではありません。だから、母語である日本語を使って考えることが大事なのです。
もちろん、言語以外にも考える方法はあります。そのひとつが図形で考えることです。図形で考えるというと、数学の図形問題を連想する人が多いと思いますが、図形には、構想図やマインドマップのような図も、理科の天体の動きなどの図も含みます。しかし、世の中にあるほとんどの分野の思考は、言葉を使って行われています。だから、言葉の習得が最も大事なのです。
図形に似ていて異なるものに映像があります。図形で考えるというのは、自分が主体となって図形をいろいろ操作して考えることですが、最近の教育でよく行われている映像による授業というのは、これは自分で考えることとは全く異なるものです。
映像は、目で見たり耳で聴いたりことですから、直感的にわかりやすく、それが知識を習得させるのに役立つからという理由で多用されるようになっています。
しかし、視聴覚で直感的に理解したものは、考える過程というものをほとんど必要としません。映像は、わかりにくい知識を分るようにさせるだけであって、それは知識を増やすことには役立ちますが、考える力をつけることにはほとんど役に立ちません。
言葉と通して理解したことは、自分自身もその言葉を使って、ほかの人に伝えることができます。映像を通して理解したことは、ほかの人にも同じ映像を使って伝えることしかできません。しかし、人間には映像を身体の一部として使うような機能はありません。だから、映像はものを理解する手段ではあっても、考える手段とはならないのです。映像が考える手段となるのは、自分でそれを手書きで図示して考えるような場合です。
さて、親子で共通のイベントを企画して、体験するというのは、どのように些細なことでもかまいません。よく、子供に何かを経験させるというと、どこかに出かけるような大きなイベントを考える人もいますが、大事なことはその経験を通して対話をすることですから、経験は身近なことでかまいません。リンゴの皮をむく練習をしたり、卵焼きを作る練習をしたりするような日常的なことであっても、そこで親子の対話を工夫すれば子供にとっては十分に思考力を育てる経験になっているのです。
親子で共通を経験をしたあと、今度は親子作文の実際の練習に入ります。まず、子供がそのときの様子を絵でかきます。子供が絵をかき終えたら、お母さん又はお父さんが、その絵をもとにしながら、そのときの経験をいろいろ思い出して話をするのです。
絵をかくというのは、子供も親子作文に参加しているという感覚を持つためですから、絵そのものは、下手でも、意味不明でもかまいません。
親子で話すときに、親が子供と話しながら、そのときどきの言葉を構想図として書いていきます。構想図に書くのは、子供の言ったことが中心になりますが、親が言ったことを入れてもかまいません。大事なことは、親子で自然に話をしながら、構想図を書き進めていくことです。親子でおしゃべりを楽しむjという雰囲気でやっていくのです。
構想図を書く時間は、10分から15分です。長く時間を書けたり、じっくり書いたり、子供に次々と質問するような形で書くのではなく、親子で話を楽しみながら書くということが大事です。
その構想図を書きおえたあと、親はその構想図をもとに、子供のかわりに作文を書きます。その作文には、大人が書くのと同じような漢字を使ってかまいません。そのかわり、子供がその作文を読めるようにふりがなを振っておきます。
ここで大事なことは、作文を書くときにも、親があまり力を入れすぎないということです。親が熱心にやりすぎると、子供はそれを負担に感じるようになります。また、親も自分ががんばったことは、その見返りを求める気持ちになりやすいですから、子供に必要以上のものを期待するようになるのです。
親の姿勢の基本は、楽しみながらやるということです。それは、なぜかというと、親子の関わりの中で、子供に最も影響を与えるものは、親が意識的に話すようなことよりも、親が無意識のうちに見せる後ろ姿だからです。子供は、親の後ろ姿を見て、それを模倣する形で成長していきます。
だから、親が読書好きで、いつも本を楽しそうに読んでいれば、子供は自然に本が好きになります。親が楽しそうに文章を書いていれば、子供もいつか自分もああいうふうに文章を書いてみたいと思うようになります。これが後ろ姿の教育です。
これは、逆に言葉にしないことが大事ですから、親が、「本を読むことって楽しいんだよ」とか、「作文を書くというのは面白いんだよ」などと言うと、子供はその言葉の意味を理解するだけで、自分の模倣の対象とするようなこととは逆に一歩離れた概念として理解してしまうのです。
親子の対話で作文を書いたあと、その作文の活用の仕方はいろいろありますが、基本jは、親がその作文を子供に読み聞かせしてあげることです。ちょうど、本の読み聞かせをするような感じで、親子で行ったイベントの作文を読んで聞かせてあげるのです。
本と同じように読むのですから、作文はノートなどを使って書き、そこに子供の絵もかいてあり、そのイベントを行ったときの写真なども貼ってあり、更に関連した資料などもつけてあるというふうになれば、作品としての完成度が高まります。
この親子作文には、ふりがなが振ってありますから、子供は本を読むかわりにその作文を読むことがあるかもしれません。すると、自分の言ったことやしたことがどういう形で文章になるかということが自然にわかります。こうして、作文の表記の基本を身につけていくのです。
小学校低学年で作文が苦手になる子がいるのは、まだ文章を書くという表記の仕方を知らないうちに、つまり文字だけが書ける状態で作文を書かせて、句読点や会話の改行や「わとはの区別」というような自分が習っていないルールで書いたものを直されることがあるからです。
読書量のある子の場合は、そういう表記のルールも教えられればすぐに身につきますが、読書量がまだ伴っていない幼児や低学年の子の場合は、作文を書くたびに何度も同じことを注意されることになります。
そして、多くの場合、教える側は、上手な子の作文を見せることによって、うまく書けない子に書き方を教えようとしますから、苦手な子はますます作文が苦手になっていくのです。
これに対して、親子作文で、親が書いた作文は、子供には全く負担になりません。その作文を楽しく読んでいるうちに、自然に正しい表記の仕方や文章の書き方を身につけます。
そして、子供が自分でも書きたいというようになった場合は、親だけでなく親子の合作で作文を書いていくこともできます。また、子供が先に書いたあと、親が追加の話を書くということになる場合もあります。ここでまた、文章を通して親子の対話が生まれるのです。
親子作文の活用の仕方として、もうひとつ大事なことは、作文を書いた人以外の家族も、その作文にコメントを書けるようにすることです。そのコメントは、もちろん文章に対する批評のようなものではありません。基本的には、その作文に書かれている内容と似た経験をしたことがあるというような話が中心になります。あとは、明るく励ますような内容のコメントです。
こうして、親子作文は、家族作文のようなものになっていくのです。
さて、幼児期の教育というと、幼児にも取り組みやすいドリルのようなものを考えがちです。もちろん、それも指先の練習や基本的な知識や技能を身につけるにはいいのです。しかし、本当に大事なことは、親子の人間どうしの関わりの中で生まれる愛情と対話の教育です。
この愛情と対話を意識的に行う場が親子作文です。ドリルをこなす勉強は単なる作業ですが、親子作文を通して交わす対話は、もっと文化的なものです。そのときの親の接し方や話し方という親の姿勢が、子供の生き方に結びつきます。知的な学習だけでなく、より文化的な学習が親子の作文を通した交流の中で生まれてくるのです。
子供の勉強の習慣がつくのは、小学1年生という時期が最もきりのよい時期です。このときについた習慣は、その子のその後の学習習慣の土台となります。
しかし、1年生で学習できる範囲といものは限られています。国語は文字を読み書きするところから、算数は数字を読み書きするところから始まりますから、小学1年生の子が作文を書く練習をするというのは、多くの子にとってはまだ無理です。まして、幼児年長あたりでは、作文を書くということ以前に文字を書くこともまだできない子の方が多いはずです。
しかし、思考力を育てる基本は、読書と対話と作文ですから、本当は子供の学習習慣がつき始める幼児期から、読み聞かせだけでなく、作文の前段階の練習もしていけるといいのです。
その作文の前段階の練習というのが親子作文で、この親子作文には、単に作文だけでなく、親子で協力して行うイベントや、親子で交わす知的な対話というものが伴います。更に、親子作文は、親子の枠を超えて、他の家族との言葉と通しての関わりも生み出します。
言葉の森が、この9月から日曜日朝の体験学習として行う親子作文は、この親子作文に取り組む機会を提供するものです。この日曜日朝の親子作文体験は、Zoomというウェブ会議システムを使い、保護者と先生とが質問や相談のやりとりもできるようになっています。
また、子供たちが慣れてくれば、子供どうしの本の紹介や作文の紹介などもできるようになります。少人数で勉強の交流をする楽しさを身につけた子供たちは、学年が上がっても同じように読書や作文の交流を続けていけるようになります。
これからの学習は、受け身で知識を身につけるようなものでなく、自分から進んで発表し創造するものが重視されるようになります。親子作文の交流は、そういう新しい学習観の土台ともなっていくののです。
日曜日朝の「親子作文」体験学習参加フォーム(2018年9月分)
言葉の森は、ウェブ会議システムを利用した、寺子屋オンラインの作文講師を育成する実践的な講習会を開催します。
今回の講習会を受けられた方は、希望の時間帯に寺子屋オンラインクラスの担当枠が持てます。
担当枠の生徒募集はその後になりますが、自分が担当する生徒はその後もずっと定年なしで自分の担当生徒として指導できます。
寺子屋オンラインクラスは、臨時の休講にも講師相互の協力で対応できるので、急な用事が入ったときも安心して担当できます。
これからの時代に最も重要になるのは、子供の創造力を育てる教育です。
寺子屋オンライン作文講師は、その価値ある仕事に携わり、同じ志を持った仲間と交流し、自分自身も日々成長していける意義ある仕事です。
■寺子屋オンラインの授業
寺子屋オンラインでは、子供たちの自主的な発表を中心とした勉強をしています。
参加生徒は1クラス5~6名で、生徒どうしが発表、質問、感想を述べ合う機会を大切にしています。
■実践的な講習
2日間の実践的な講習で、講師としてすぐに独り立ちできる技能を身につけます。
■希望する曜日時間に担当枠
講師育成講習会を修了した方は、希望する曜日時間に寺子屋オンラインクラスの担当枠が持てます。
■定年なしの仕事
寺子屋オンラインの作文講師ができるようになれば、その仕事は自宅で定年なしで続けられます。
現在既に仕事をしている方の日曜日などの仕事に、また定年後にも続けられる仕事として生かすことができます。
また、寺子屋オンラインのシステムを生かして、自分で新しい教育内容を企画することもできます。
■創造的な教育
単なる知識の詰め込み教育ではない、子供の真の成長につながる創造的な教育です。
受験勉強のような点数を上げるための勉強ではなく、真の実力をつけ創造力を伸ばす勉強です。
■講師の交流
日本をよりよい国にする教育という共通の理念で交流できる仲間ができます。
講師どうしの研修と交流で、よりより教育を目指し、講師自身が日々成長していくことができます。
■未来の仕事
AI時代の新しい産業は、創造性を育てる教育で、その教育の中心は母語を育てる読書と作文です。
時代がどれだけ変化しても、最後に残る最も本質的な勉強が読書と作文です。
■会場
自宅でZoom会議室に参加していただきます。
https://zoom.us/j/104606743
ウェブカメラ付きパソコンが必要です。タブレットでもできますが、パソコンの方がおすすめです。
特別の設定や操作は必要ないので、初めての方でも安心して参加できます。(事前練習もできます。)
■講習内容
子供の作文指導を寺子屋オンラインクラスで担当できるようにするための実践的な研修です。
▽作文指導研修1
小1~3の項目解説
〃講評解説
〃講評実習
▽作文研修2
小4~6の項目解説、講評解説、講評実習
▽寺子屋オンライン指導研修
Zoomの操作の仕方、寺子屋オンラインの運営の仕方を説明します。
▽懇親会
自由に交流をします。
▽読書暗唱指導研修
読書や暗唱などの関連する指導の研修をします。
そのほか、森リン・漢字集・構造図・音声入力などの解説も行います。
■寺子屋オンライン作文講師としてできること
現在、言葉の森では、寺子屋オンライン作文クラスという、Zoomを使った少人数のオンライン作文指導を行っています。
講座終了後、希望の曜日時間で寺子屋オンライン作文クラスを担当していただけます。
既にいる生徒を担当することも、新たに空きクラスを作ってそこに生徒募集をすることもできます。
■寺子屋オンライン作文クラスの利点
寺子屋オンライン作文の利点は次のとおりです。
(1)作文を書く前の準備の発表など、子供どうしの交流があるので、生徒の参加率、継続率が高まる。
(2)自宅でできるので、距離に関係なく生徒募集ができる。
(3)同じく自宅でできるので、保護者とのコミュニケーションがとりやすい。また、保護者どうしのコミュニケーションもとれる。
(4)担当講師と生徒の関係が固定しているので、生徒や保護者が口コミで他の生徒にすすめやすい。
(5)講師が、授業の一部を動画で紹介するなど、講師自身の手による生徒募集ができるので、希望と意欲に応じて生徒を増やせる。
(6)定年はないので、自分の希望するだけ講師を続けられる。
(7)寺オン講師で身につけたノウハウを生かして、自分の森プロ教室で独自に生徒募集をすることができる。
(8)同じく寺オン講師で身につけたノウハウを生かして、作文以外の自分の得意分野を指導する講座を開くことができる。
(9)寺オン作文講師どうしの連携により、急な休講などにも対応できる。
(10)寺オン作文講師の研修会や交流会に参加できる。
(11)講師は指導が終わったあとすぐに退出できる。生徒はZoom会場でそのまま勉強が続けられる。
(12)これまで、寺子屋オンライン作文クラスは学年混在だったが、今後学年別進度別にクラス編成をするので、指導が容易になる。
■詳細は
寺子屋オンライン作文講師育成講座の詳細は、下記のページをごらんください。
▽
https://www.mori7.com/sikaku/
(ページの上部は、「作文講師資格講座」の説明です。ページの下部に、「寺子屋オンライン作文講師育成講座」の説明があります。)