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未来の社会と教育(その6) as/452.html
森川林 2009/04/13 02:47 
 社会の大きな流れの中で教育ということを考えてみると、現在の教育は、テスト体制に合わせた成績の向上が勉強の目的になっています。社会における有用な武器として身分制の資格、つまり学歴や仕事や地位を手に入れることが勉強の主要な目的になっています。しかし、この身分制の階段を昇る過程で競争は避けることができません。そしてこの身分制は、多くの人にとってはある意味で外面的なものですから、例えば会社を退職すれば失われてしてしまうようなものです。そういう否定的な面はありながらも、この身分制社会はこれからも存続します。ですから、現在の身分制社会に合わせたテスト体制を否定するのではなく、このテストのための勉強を前提にすることは必要です。しかしそれに加えて、単に成績を上げるためだけの勉強に終わらない勉強をこれからはしていく必要があります。それは、ひとことで言えば、成績の向上ではなく、自己の向上のための勉強です。
 この自己の向上という方向は、将来身分制社会がなくなり新しい社会が登場したときに、ますます必要になってくるでしょう。というのは、今後ある条件が整えば、身分制社会は必要なくなり、その後より人間的な自由な社会が生まれるだろうからです。
 自己の向上というものは、いくつかに分けて考えることができます。第一は幅広い知識です。第二は深い哲学です。第三は挑戦体験に基づく経験と自信です。第四は現場での対話に基づく問題意識です。そして第五は幸福を味わい表現する力です。この表現の中には、音楽や文章や絵画や舞踊などの芸術的なものを表現する力が含まれます。また、これらの芸術的な表現以外に自然に親しむということも幸福を味わう条件になると思います。
 これらの広い知識や、深い哲学や、経験や、問題意識や、表現力を身につける点で、現在の教育はまだ不十分なノウハウしか持っていません。中でも特に教育が関与するところは、幅広い知識を速やかに身につける方法を用意することです。この点で、今後、人間の知的な能力を高めるための画期的な教育上の技術や方法が開発される必要があります。つまり、個人が使える知識や技能をより早くより広く学べるような方法がこれからの教育に求められてくるということです。
 知識を学ぶという点で、成績の向上と自己の向上は外見的には同じようなものに見えます。しかし、自己の向上のために学ぶとき、そこには自己の向上がよりよい社会を作ることにつながっているという自覚があります。この自覚がどこからもたらされるかというと、一つは家庭です。もう一つは読書です。そしてもう一つは社会や仲間からの要望です。
 成績のための勉強では、成績を上げることは他人に勝つことであり、身分制社会の勝者になることでした。自己の向上のための勉強では、自己を向上させることは社会を豊かにすることであり、そのまま他人の向上を支えることにつながっています。
 自己の向上が他人の向上に結びつくという構造は、ちょうどオープンソースプロジェクトの仕組みに似ています。オープンソースプロジェクトにおいて優れた提案をする個人は、その提案によって他人に勝つのではなく、他人により豊かな可能性を提供しているのです。

 次回は、現代の身分制社会の土台にあるものと新しい社会の条件についてです。
(つづく)

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未来の社会と教育(その5) as/451.html
森川林 2009/04/12 05:38 
 選抜テストは、その学校又は社会が求めている人間を選抜するためのテストです。
 この場合の社会とは、広い意味での身分制社会、つまり現在の世の中を再生産する仕組みを作り出す社会です。この現在の社会の目指す学力から、テストの方向が逸脱していくことがあります。テスト—技術—努力の相互の発展が過剰になり、重箱の隅をつつくようなテストになる一方、その重箱の隅をつつけるような優れた技術や努力が生まれて、さらにテストの重箱化に輪をかけるというような発展の仕方も起こりうるのです。その典型的な例が、よく引き合いに出す中国の科挙という官吏登用試験です。大学入試の社会科の問題なども、現在かなりそのような傾向になっています。そういうテストに対応するために記憶術などをマスターするというのは、大きな視野から見るとずいぶんおかしなことですが、当事者はそういう形で対応せざるをえないというのが苦しいところです。
 このテスト—技術—努力の発展が、社会の真の求める人間像から逸脱しないようにするために、これまでの選抜テストとは異なる新しいテストを行う必要が出てくることがあります。これが現在行われているAO入試、面接重視、小論文重視などのテストです。これらのテストは、これまでの教科テストの行き過ぎを是正するために新しく試みられるようになったテストの形式です。しかし、これらの新しい選抜テストは必ずしも成功しているとは言えません。学力以外のものを評価するテストによって、学力不足の人が選抜されるという面を生み出しているのです。そして、学力不足は、学力偏重よりも実は困ることが多いのです。
 しかしAO入試などはある意味で血縁制度を元にした身分制社会を再生させる役割を果たす面があるので、これからも広がっていくと思われます。これはどういうことかというと、AO入試で評価されるのは、学力や人柄や可能性などの個人の資質に属するものだけでなく、その個人を取り巻く人間関係や家族関係や社会関係なども入ってくるからと思われるからです。だから、親の七光りで合格するというケースも当然あると思われます。もちろんこれが一面的に悪いというのではありません。社会にはそういうルートも必要だからです。例えば、家業を継ぐ予定の学生は、入学時の学力は低くても入学後に伸びると言われています。目的意識が高いので、勉強や仕事に身が入るからです。
 このようなことを考えると、AO入試を目指す人は、それなりの対策を立てることができると思います。しかし、推薦入試で合格してしまうと、一般入試のために1年間受験勉強するという貴重な体験ができないという問題があります。

 明日は、成績の向上プラス自己の向上の話です。
(つづく)

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