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不況の今こそ言葉の森で作文の勉強を as/546.html
森川林 2009/07/04 12:45 


 現在の不況は、今後さらに深化していくと思われます。しかし、この不況のあとに明るい世界が待っています。なぜかというと、不況の要因がなくなったあとに、経済の飛躍的な発展が予想されるからです。

 その新しい世界は、ひとことで言えば、これまでの巨大な無駄がなくなった世界です。例えば、軍需産業の無駄がなくなるだけでも、世界中で豊かさが実感できるようになります。

 今の社会では、本質的に無駄な仕事ほど、堅い仕事や割のいい仕事と見られる面があります。逆に価値ある仕事ほど、頼りない不安定な仕事に見られる面があります。

 未来の職業選択の基準になるものは、今の社会で何が繁盛しているかということではなく、何が人間にとって本当に価値あるものかということになります。子供たちの人生設計も、そういう戦略で考えていく必要があるでしょう。

 さて、未来の話だけでなく、今の社会に戻ると、今の不況の中でも人間生活にとって欠かすことのできないものは、子供の教育と家族の安全と健康です。

 まず、安全と健康については、できるだけ自然の食品を利用するということが大きな柱になります。加工されたものや調理されたものは、また、自然のものであっても海外から輸入されたものは、O−リングテストなどで安全性を判断しながら利用することが必要になるでしょう。「別冊すてきな奥さん『O−リングテスト超健康レッスン』」(大村恵昭著・主婦と生活社)に、O−リングテストの方法がわかりやすく説明されています。

 安全な食品のほかにもう一つ大事なことは、正しい情報を得ることです。今の社会の仕組みでは、利害関係の錯綜しているところほど正しい情報が流れにくくなっています。すべての情報は、利害関係によって多かれ少なかれ歪められてしまうからです。

 新聞やテレビというマスメディア自体が、そのような利害関係の中で経営されていますから、正しい情報を得るためには、インターネットの情報とアマゾンなどで手に入る書籍を利用するということになると思います。例えば、医療と健康に関しての信頼できる情報は、安保徹さん(医学博士)の本などが参考になると思います。

 子供の教育に関しては、将来の社会で通用する能力と、今の社会で通用する能力の両方を考えていく必要があります。それらの能力の中で、最も大事なものは、読書力と作文力だと思います。

 本当は、最も大事なものは、理解力と思考力と創造力だというふうに言ってもいいのですが、その言い方ではあまりに抽象的になるので、目標とするところがかえってわかりにくくなります。そこで、具体的に評価のできる読書力と作文力ということで話を進めていきます。また、これに関連して、教科の勉強の話と、勉強以外の習い事の話もしていきます。

 第一に、読書力について説明します。

 読書力、すなわち読む力さえあれば、どの勉強もできるようになるというのが学力に対する基本的な考え方です。英語、数学、理科、社会などは、その教科の試験を受けるときにはもちろん独自に勉強する面が強く出てきますが、それらの学力の根底にあるのは、その教科の内容を読み取り、自分のものにする読解力です。つまり、より速くより深く理解する力があれば、あらゆる勉強は半ば以上できているといってもいいのです。

 どのような勉強も、新しい、未知の、難しい内容を理解するという面を持っています。また、ほとんどの勉強は、日本語で書かれた学習内容を理解するという面を持っています。この日本語を読み取る力が、学力の出発点であり、到達点でもあるのです。

 小学校の低中学年のころは特にそうですが、中学生や高校生になっても、読む力をつけることが勉強の最重点の目標です。教科書で学ぶ内容は、学力の枝葉の部分で、学力の幹となる部分は、読書によって作られています。

 なぜ、そういうことを確信をもって言えるかというと、これまで言葉の森で教えていた生徒で読書力のある子は例外なく勉強の成績もよかったからです。しかも、学年が上がるほどよくなる傾向がありました。逆に本をあまり読まない子は、ある時期までは成績がよくても、学年が上がるにつれて伸び悩む傾向がありました。

 この読む力をつける勉強は、図書館を利用すればコストがほとんどかからない形で学習ができます。

 第二に、教科の勉強です。

 英語、数学、理科、社会などの教科の勉強というと、すぐに塾や家庭教師を考える人が多いと思いますが、教科の勉強は、中学3年生までは、親が自分の学生時代の復習を兼ねて見てあげることが可能です。
 これは、実際に私が自分の例で経験しました。また、言葉の森の中学生の保護者のひとりに、どういう塾がいいのかと聞かれたとき、やはり同じやり方を教えると、その保護者はそのとおりに自分の中学校時代の勉強を思い出しながら子供に教えてあげる方法をとりました。

 そのお母さんは、最初は、親が教えられるかどうか不安だったようですが、教え始めるとどんどん上手に教えられるようになり、その子はその学区のトップ校に合格しました。家庭で親が教える方法は、中学3年生までは、塾などに通うよりもずっと能率がいいのです。

 ただし、親が教えるといっても、手取り足取り教えるのではありません。親は、志望校の問題を参考に適当な参考書や問題集を決めてあげ、それを子供がやっていくだけです。子供は、答えを見てもわからないところだけを親に聞き、親が解答を見ながら子供と一緒に考えます。親が解答を見ながら考えてもわからない問題は、できなくてもいい問題と考えておきます。しかし、親も子供に教える中で学力が向上していくので、できない問題というのはほとんどなくなります。

 高校入試までの勉強は親でも教えられますが、大学入試の勉強になると、親が見てあげられない面が出てきます。なぜかというと、たとえ難しい大学に合格した親でも、その合格時の点数は全体で6割以上できていたのだろうということだけが確実な出来具合だからです。しかも、その場だけの付け焼き刃的な知識も含めて6割以上ですから、実力から言えばかなりの問題が解けなかったまま大学生になっていると考えて間違いありません。

 高校入試までは、基本的には満点を取ることも可能な問題です。しかし大学入試は6割から7割を取れれば合格するという難度の高い問題になっています。

 大学入試の勉強は、親が教えるのではなく、本人が、志望校の過去問とその志望校に合格した人の勉強法などを参考にして独自に勉強方法を工夫していく必要があります。

 また、大学入試のような6割から7割を取れればよいという勝負の世界は、勝負のノウハウを知っているプロの力を借りることが有利です。プロの家庭教師や個人塾のようなところでは、実力以外の勝負のノウハウを持っています。このノウハウがあるかないかが合否を分けるという面があります。

 しかし、このプロの力を借りた勝敗は、決して本人の実力でありません。未来の社会は実力の時代になるので、ノウハウで勝ったとしても、それが将来も生かしていけるかどうかはわかりません。

 第三は、習い事についてです。

 ピアノ、バレエ、野球、サッカー、バスケット、英会話、水泳など、音楽やスポーツの技能的な習い事は、技術的にも情操的にも人間の生活を豊かにします。しかし、人間生活の主食は勉強で、その他はおかず又はおやつという位置づけをしっかり確認しておく必要があります。

 特に子供の成長には、主食である完全栄養食品のお米をしっかり食べることが大事です。菓子パンにおかずをたくさんつけて食べるというのは、本と末を取り違えていることになるでしょう。勉強で完全栄養食品のお米にあたるものが、読書力と考えておくとわかりやすいと思います。

 貝原益軒は、「学は本で芸は末である」と言いました。これからの社会は、知識産業社会に向かって進んでいくはずですから、学力をつけること子供の成長にとっての最も重要な課題と考えておくことが大切です。

 第四は、作文力です。

 現在、作文の勉強は、学校ではあまり教えられていません。小学校低学年までは、日本の作文教育は世界的に見ても充実しています。しかし、小学校高学年から中学生や高校生になると、作文の指導が次第に少なくなるかほとんどなくなってきます。

 しかし、学校であまり教わらないから作文力が大事だというのではありません。作文を書く力もちろん大切ですが、作文力そのものよりももっと大事なことは、思考力や理解力を集大成するものとして作文力をつけるということです。

 考える力を育てるとか理解する力を育てるとかいうことは、言葉としては簡単に言えますが、具体的にどういう勉強がそうなのかということをはっきり言える人はいません。それは、思考力や理解力というものがそれ自体では表に出てこない学力だからです。しかし、作文を書くという形を取ると、その思考力や理解力の度合いが作文の中に出てきます。

 このような思考力理解力を集大成するものとして作文力を育てるという作文の位置づけは、言葉の森の作文指導の特徴です。ですから、作文を教えてくれるのであれば、どの作文指導でもよいというのではなく、考える力と読む力を育てるための作文という教え方をしている教室を選ぶ必要があります。

 この作文の指導は、家庭ではなかなかできません。また、子供がドリルなどをもとに自分の力だけで作文の勉強するということもほぼできません。ですから、作文の勉強は、言葉の森のような教室でしていく必要があります。

 しかし、もし、家庭だけで子供に必要な学力をつけるとすれば、(1)毎日読書1時間以上、(2)できれば毎週1回600−1200字の作文を1本、(3)英語の勉強は教科書を暗唱できるぐらいまで反復して読み、(4)数学の勉強は市販の問題集をもとにその問題集が百パーセントできるようになるまで反復する、という形で取り組んでいくとよいと思います。


(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)


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知性も、代謝による動的な平衡で as/545.html
森川林 2009/07/03 10:36 



 「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著・講談社現代新書)の中で、著者は、生命の本質は、単なる自己複製ではなく、代謝による動的な平衡ではないかと述べています。


 自己複製だけであればウイルスも行っています。ここから連想されるのは、スパムメールです。スパムメールも、ウイルスと同じように、自己をコピーして増殖し、しかもより広がりやすいように進化をします。しかし、そこには何か価値ある中身を維持しようとする生命の積極的な意志は感じられません。

 さらに、スパム的な書き込みというのも最近増えています。しかし、ウイルスに対する最も効果的な対策が免疫を作ることであるように、スパムに対しても、たくましい免疫力を作ることが最良の対策であるように思います。


 さて、ネズミの実験で、餌に標識となる物質を組み込んだものを三日間与え、その結果を見たところ、ほとんどの標識が体内のあらゆる部位に見つかったということです。つまり、三日間でほぼすべての餌がアミノ酸となり体内に蓄積され、その分だけ古いタンパク質が分解されて対外に排出されたということです。

 人間の細胞も、毛髪や爪などの固い細胞も含めて、常に内部では物質が入れ替わって動的な平衡を保っています。


 ここから私は、人間の認識についても、同じことが言えるのではないかと思いました。

 「三日書を読まざれば、すなわち面目憎むべく、語言味なし」という言葉があります。この意味は、三日本を読まないと、顔つきに品がなくなり、言うことに味わいなくなる、ということです。

 人間は、身体だけでなく、ものの考え方も、動的な平衡を保っています。日々の学習や読書によって、生き方や考え方という「細胞」も常に新しく入れ替わっているのです。


 塙保己一は、18歳のときに始めた般若心経の暗唱を晩年になっても続けていました。本多静六も、晩年に新たにドイツ語の勉強を始めました。本多静六の勉強法は、何度も反復して暗唱できるようにするというものでしたから、たぶんドイツ語もそのように勉強していたのでしょう。

 食事が健康な身体を維持することに役立つように、読書や暗唱というものも、健康な知性を維持するために必要なのです。


 ところで、動的な平衡を維持するためには、そのもとになる枠組みが必要です。

 生命のもう一つの特徴として、タンパク質の枠組みを作る際の不可逆的な進行というものがあります。

 身体は、ジグソーパズルのピースのように様々な形のピースが組み合わさって作られます。

 ある重要なピースが欠けていても、その穴をカバーするようなほかの組み合わせ方ができて全体が正しく形成されるという柔軟性が生物の身体にあります。

 しかし、ピースがないこと自体は問題ないのですが、なまじ不完全なピースが組み合わされると、それがあとで身体上の障害になってきます。しかも、いったんできた組み合わせは不可逆的なので、あとから修正することはできません。


 このことを人間の認識の形成に当てはめてみると、幼児期にバランスのよい文化の環境の中で育つことが人間の精神の成長にとって重要なのではないかということがわかります。

 それは、ひとことで言えば、伝統的な人間関係、伝統的な子育てということです。


 日本で昔から行われていた伝統的な子育てと、成長してからの日々の読書や暗唱という二つの面が、人間らしい生活をするために必要なのではないかと思いました。



(この文章は、構成図をもとにICレコーダーに録音した原稿を音声入力ソフトでテキスト化し編集したものです)


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