「家庭でできる作文指導」ということを考えると、何度考えても出てくる結論は同じです。「家庭では、作文指導はしない方がいい」です。
作文は、他の教科よりも教える側の個性が強く出てきます。算数や数学で子供を教えていて、子供がなかなか理解しないのでつい怒ってしまったというようなことが一度でもある人は、作文の指導はまずしない方がいいと思います。
といっても、作文の指導は、最初の数回だけに限ればだれでも結構うまくできる面があります。
ちょっとしたアドバイス、例えば、「会話を入れる」「書き出しを工夫する」「擬声語や擬態語を使ってみる」「結びを工夫する」などテクニックを教えて、そのとおりに子供が書いてそれなりに上手に書けると、うまく教えられるように思います。
しかし、これが一ヶ月、二ヶ月と続くと、途中で教える側にも教わる側にも限界が出てきます。教える側は、新しいテクニックを教えることがなくなるので、次第に重箱の隅をつつくような「直す」アドバイスを始めるようになります。子供も、最初はものめずらしさで書いていたのが、次第に同じパターンに飽きてだんだんやる気がなくなってきます。その上に、「直す」指導ですから、そのうちに書くこと自体が嫌になってきます。
作文指導に熱心な先生に教わったクラスほど、作文嫌いの子が増えるという例があります。直す方は意気揚々と直すのですが、直される方はなぜ直されるのかわからない、そして、自分とは違う上手な子の作文ばかりが褒められる、となれば、やる気がなくならない方がおかしいのです。
では、家庭では何をしたらいいのでしょうか。
作文については、「教える」「直す」という発想で取り組むと、ほとんどの場合「教えすぎ」「直しすぎ」になり、教える方もくたびれ、教わる方も作文嫌いになります。
作文の力をつけるいちばん大事な方法は、「褒める」「読む力をつける」の二つなのです。
「褒める」はある意味で単純です。どんな文章を書いても、誤字があっても、ひたすらいいところを見て褒めてあげることです。実は、これが自分の子供になるとなかなか難しく、大体の親は、真っ先に間違いを直そうとします。間違いは、そんなに焦って直さなくていいのです。なぜ間違えたかというと、これまでの読む経験が浅いために間違って覚えているのですから、書いた結果を直すのではなく、読む経験を増やす方が先なのです。
作文は、植物で言えば「花」のようなものです。大人はつい「花」という結果だけを見て、その「花」をどうにかしたいと考えがちですが、実はその花が咲く前の葉の茂り方、根の張り方にいちばんの問題があるのです。
では、読む力をつけるためには、どうしたらいいのでしょうか。
一つは、読書です。毎日読書をしている子は、いざ作文を書くというときに、その読書で身につけた語彙や表現を自然に使うことができます。ですから、上達も早いのです。
小学校4年生までは、学校の宿題や塾の勉強などよりも優先して読書に取り組むことが必要です。読書によって読む力をつけた子は、勉強を始めるとその吸収力が違います。小学4年生までの勉強などは、読書力さえあればいつでも簡単に取り戻せます。
と言っても、読書の欠点は、あまりに読書というものの幅が広く、その結果にあてがないように見えることです。
そこで、読書と並行して行う家庭学習として、言葉の森では音読ということをすすめてきました。
ところが、この音読を学校などでも行うようになると、弊害がだんだんと出てきました。音読のいちばんの欠点は、子供が飽きるということです。音読は、同じものを繰り返し読むことに意義がありますが、子供が飽きないように、次々と新しい文章を音読させるようになると、結局ただ声を出して読んでいるだけで音読の効果は何もありません。それぐらいなら、黙読でたくさん読んだ方がずっといいのです。
そこで、言葉の森では音読ではなく暗唱をするようにしました。
暗唱は、音読と比べて達成感があります。しかし、これもやり方を工夫しないと、子供に負担を与えるだけの結果になります。暗唱のいちばんの問題点は、今の親や先生の世代が自分自身で子供時代に何かを暗唱したという経験がないために、子供に暗唱をさせようとすると見当違いの無理強いをしてしまうことがあることです。
(私の父はもう90近い年齢ですが、先日話のついでに、「今教室で子供たちに暗唱をさせているんだ」と言うと、「それはいい」というようなことを言っていました。たぶん、昔の人は、勉強の仕方の一つとして暗唱ということをごく自然に行っていたので、その仕方も無理がなかったのだと思います)
暗唱の方法は、言葉の森が考案した暗唱用紙を使う方法がいちばんやりやすいと思います。この方法ならば、紙1枚だけで簡単に暗唱の回数を数えることができます。1日10分の暗唱で、1ヶ月で1000字近い文章をすらすら暗唱できるようになります。
年齢でいうと、小学校2、3年生ぐらいまでは、文章を数十回音読するだけですぐに暗唱ができるようになります。小学校4、5年生になると、大人と同じように理屈で覚えようとするのでなかなかスムーズに暗唱できなくなります。しかし、それでも回数を繰り返すことでだれでもできるようになるというのが暗唱という勉強法の長所です。
子供に暗唱をさせる場合は、親も自分の好きな文章を選んで一緒に暗唱をしてみるといいと思います。大人が暗唱の勉強をすると、子供の暗唱とはまた違って、発想が豊かになってくる面があります。これは、実際に体験してみると実感できると思います。
さて、小学生までは、読書や暗唱を中心に読むことに力を入れていけばいいのですが、中学生や高校生になると、子供自身が作文を評価してほしくなると思います。
今の教育のいちばんの問題は、文章を書くことがいちばん要求される中学生、高校生のころに文章を書く勉強がなくなることです。その理由は、先生が文章を評価する時間がとれなくなるからです。試みに、高校生が何十人も一生懸命書いた文章を評価する仕事を想像してみるとわかると思います。とても日常的にそういう仕事はできないとわかるはずです。
では、どうしたらいいかというと、一つの鍵は、文章の自動採点ソフトを使う方法です。言葉の森が開発した作文小論文自動採点ソフト「森リン」は、小論文の上手さを数値で評価します。日本ではまだ文章採点ソフトを中学や高校の作文小論文指導に使っているところはないようですが、これからこういう勉強法がもっと取り入れられるようになると思います。
9月から生徒の清書を自動採点ソフト「森リン」で採点して表示しています。
これは、父母アンケートで、「作文力がどのくらい向上しているか知りたい」というご要望があったためです。
11月の清書について、各学年の森リン点が1位の生徒(その生徒がまだ1回しか森リン点を出していない場合はその次の順位の生徒)の点数推移グラフを見てみました。
その結果、10人中9人の生徒の作文力が向上していました。また点数が低下していた生徒についても、9月から11月の成績に限って見てみると、やはり作文力が向上していました。
森リンの点数における作文力の向上は、全生徒を平均すると年間2ポイントぐらいですから、短期間ではなかなか文章力の上達を実感しにくいと思います。しかし、これらのグラフを見ていただくとわかるように、真面目に勉強している子は作文力が確実に向上しています。
特に作文力の向上と相関が高いのが素材語彙の点数です。
これは、作文に書く語彙の種類が増えていることを示しています。
※森リン(もりりん)は、言葉の森が開発した作文小論文の自動採点ソフトで、人間の評価との相関が高いことで知られています。
▽小1の4位の生徒(グラフの赤い折れ線が総合点。以下同じ)
▽小2の1位の生徒
▽小3の1位の生徒
▽小4の1位の生徒
▽小5の1位の生徒
▽小6の1位の生徒
▽中1の1位の生徒
▽中2の1位の生徒
▽中3の1位の生徒
▽高の1位の生徒