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反復教育と理解教育 as/742.html
森川林 2010/01/18 21:01 


 反復という方法を主とする教育と、理解という方法を主とする教育の対立は、これまでさまざまなところで繰り返されてきました。

 以前、「数学は暗記だ」という刺激的なタイトルで、和田秀樹氏が、解法を暗記して自分のものにしてしまう数学勉強法を提唱したことがあります。この勉強法で、苦手な数学から解放された人は多かったと思います。

 しかし、数学者の森毅氏は、こういう勉強法を否定して、数学は覚えるものではなく考えるものだという議論を展開しました。この議論にも多くの人が納得したと思います。

 では、どちらが正しかったのでしょうか。実は、浅い反復教育と浅い理解教育の先に、更に深い反復と理解の教育があったのです。

 和田氏と森氏のそれぞれの意見は、もちろん深いものでした。しかし、もっと深いところに降りていくと、両者の異なるように見える議論は実は一つにつながっていたのです。

 浅い反復教育とは、単純な知識を覚えて自分のものにするような教育です。「富士山の高さは、3776メートル」という知識を覚えるのは、浅い反復教育です。この知識だけの問題が出れば正解を言えますが、だからといってこの知識が生活のほかの分野に生かされることはあまりありません。つまり、閉ざされた完成品の小さな知識のキットをたくさん持つことを目標にするような教育が浅い反復の教育です。

 この教育の問題点は、反復の勉強の過程で、完成品を集めることが勉強することだと勘違いしてしまうところにあります。

 文章を書くことに関して言えば、名文を覚えるのはいいのですが、それをただ暗記してオウム返しに言うだけの勉強になってしまうのが浅い反復の教育です。


 浅い理解教育とは、手持ちの材料だけを使い、自分で考えて作り出すような教育です。

 自分で考えるという点で、この教育は将来性があります。しかし、問題点は材料を集めることが二の次になってしまうことです。

 完成品のキットを集める方法よりも、限られた材料を工夫して自分で考えるという点は創造的ですが、限られた材料であるためにある程度以上の高さのものは作れないという弱点があります。

 文章を書くことに関して言えば、自分が自然に持っている語彙と実例だけで文章を書くことです。身近な生活体験を書くことはできますが、より広い社会的なテーマを論じる意見文を書くには材料が不足してしまうということになります。


 深い反復と理解の教育とは、反復によって身につけた豊富な材料を生かして、自分で工夫して何かを作り出すような教育です。

 数学で言えば、解法を覚えるだけでもなく、自分で考えるだけでもなく、豊富な解法を組み合わせて自分で考えるということです。

 文章を書くことに関して言えば、豊富な実例や表現を駆使して、自分なりに考えて書く文章ということになります。


 ところで、昔は、浅い反復教育の弊害というものはあまり問題になりませんでした。

 子供たちの勉強する時間がそれほど多くなく、勉強以外の時間のほとんどで自分なりに考える遊びを豊富にしていたからです。

 しかし、現代は違います。反復の学習をしてその結果を出すことだけが自己目的化してしまうぐらい勉強の時間が長くなった子が増えているのです。

 九九を覚えるぐらいの反復学習であれば、その九九は材料として日常生活の中で生かしていくことができるので何の弊害もありません。

 しかし、九九をどれだけ早く言えるかとか、何桁までの九九を言えるかということが、それだけを取り上げて競争するような勉強になると、反復学習の自己目的化が始まります。

 九九のような単純なことだけでそのような競争が行われればだれでもそこに不自然さを感じることができますが、その単純な競争が新しい教材として提供されるようになると、単純な学習が自己目的化しているとは感じにくいのです。

 そして、現代では、小学校低学年の間だけでなく、かなり長期間にわたって、このような反復による学習が有効であるように見える状態が続きます。


 では、深い反復と理解の教育を実現するためには何が必要なのでしょうか。

 一つは逆説的に見えますが、反復の学習をもっと徹底することです。今、小学校では教科書の音読が宿題としてよく出されています。しかし、音読の学習は、数回読んだぐらいではあまり意味がありません。もっと徹底して、暗唱するぐらいに読み続けて初めて学習の土台とすることができます。

 もう一つは、反復によって身につけた材料をただ知識として再現するのではなく、新たな創造の材料として使っていくことです。それが発表の学習です。


 どんぐり倶楽部の理解する教育と、公文式や七田式や百マス計算などの反復する教育は、一見正面から対立しているように見えます。

 しかし、そうではありません。両者はより深いところで結びついていくものです。それを結びつけるのが発表の教育なのです。

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読書ノートに四行詩 as/741.html
森川林 2010/01/17 19:49 


 読書は、自分の好きな本を自由に読むのがいちばんです。
 しかし、そうでない場合もあります。それは第一に、読むのが苦手な子にどう読ませるかという場合です。第二は、読むのが好きな子が更に実のある読み方をしたいという場合です。第三は、少し背伸びをして難しい本を読もうとする場合です。

 そこで、読書の工夫の仕方を四つ挙げたいと思います。

 第一は、付箋を貼りながら読む方法です。
 第二は、読書ノートを利用する方法です。
 第三は、問題集を読書がわりに読む方法です。
 第四は、たくさんの本を並行して読む方法です。
 これらの四つは、いずれも関連があります。

 まず付箋を用意します。これは市販の付箋を買うよりも、仮止め用のスティックのりを使って自分で作った方がふんだんに使えます。A4の紙1枚から200-300の付箋ができます。
 A4ぐらいの紙を用意して四つに切る。
横に二つに折る。上部を外側にそらしておくとあとではがしやすい。
 折ったところに仮止め用のスティックのりを1-2センチの幅でつける。
 のりをつけて折りたたんだ状態で、のりのついていない側から切り込みを入れる(数枚まとめて切ると能率的)
 のりのついている側の折り目を1-2ミリの幅で切り落とす。
 気に入ったところに付箋を貼りながら本を読む。


 1冊の本を読んで途中で中断する場合、この付箋をページの横に貼っておくと栞(しおり)の代わりになります。
 付箋を貼るのは、読んでいて「よくわかったところ」「おもしろいところ」です。おもしろいというのは、いい表現だと思った、いい実例だと思った、いい意見だと思ったというところですが、単純に自分でおもしろいと思ったところと考えておく方がわかりやすいと思います。
 付箋を貼りながら読むと、読みかけの本でもどこまで読んだかが外から一目でわかるので、つい最後まで読もうという気になります。これが付箋読書の一つの利点です。

 付箋読書のもう一つの利点は、再読しやすくなる点です。同じ本を二回目に読むときは、付箋を貼った箇所だけを読んでいきます。そうすると、一冊の本をより深く味わって読むことができます。
 付箋を貼った箇所をもとに、読書ノートに本の内容をまとめることもできますが、それは特に自分で深く把握したいと思った本だけです。本を読むたびに読書ノートをつけていては、かえって読書のペースが落ちます。
 しかし、せっかく読んだ本を何もしないでおくのはもったいないので、読書ノートには四行詩を書くようにします。

 四行詩の基準は三つあります。
 一つは、四行に分かれていることです。
 もう一つは、できれば、内容に創造や発見があることです。
 最後の一つは、これもできれば、たとえや名言や笑いなどの光る表現があることです。

 本を読んで四行詩を書く最も簡単な方法は、付箋を貼ったところの一文を四行に分けて書くことです。
 複数の文を四行に分けて書いてもかまいません。また、自分なりに四行の感想を書いてもかまいません。

 これを200字詰めの作文ノートに書いていく場合、1行目にその本の書名又はページ数と日付を書きます。2~5行目に四行詩を書きます。そうすると、作文ノート1ページを使ってちょうど2つの四行詩が書けます。
 書き方の例は、こういう感じです。(1ページに2日分、2つの四行詩を書いている場合。□はマス。実際には縦書き)

=====================
□□□P207        1月10日□
□ヘレン・ケラーは言った。
□「私は大学でたくさんのことを学んだが、
□そのあとたくさん学んだことを
□忘れなければならなかった」
□□□P310        1月11日□
□「小さな政府」は、。
□大きな無駄があったからこそ
□魅力のある
□メッセージであった。
=====================

 これは堅い内容ですが、小中学生の場合はもっと柔らかい内容か出来事中心の四行詩になると思います。

 読書ノートに四行詩を書く場合大事なことは、読書をしてそのまとめとして読書ノートを書くのではないということです。
 本を読んでそのあとに書くという形だと、書いたから読書は終わりということになってしまいます。
 読書というものは、気に入ったら最後まで読みたくなるものですから、それを読書ノートを書くことによって打ち切ってしまうのはもったいないことです。
 同じ理由で、読書は勉強の最初や途中でするのではなく、最後にするものです。
 読書ノートをつける場合、最初に、前日までに読んだ部分の付箋をもとに四行詩を書きます。そのあと、その日の読書を始めるというふうにします。これなら、おもしろい本は心行くまで読み続けることができます。

 小学校の低中学年の子のお母さんから、どういう本を読ませたらいいですかと聞かれることがあります。
 日本の小学校低中学年向けの図書環境は充実しているので、書店や図書館に並んでいる本でどの本でもいいというのが答えです。
 特に、フォア文庫、青い鳥文庫、偕成社文庫など、シリーズ化されている本は、一度単行本になって評判がよかったものですから、どれを選んでも大きなはずれはありません。しかし、書名や表紙で選ぶのではなく、必ず中身を数ページ目を通してから選ぶことが大事です。

 ところが、小学校高学年から中学生や高校生にかけての良書は、あまり売れないせいか書店ではなかなか見つかりません。図書館を利用するというのが一つの方法ですが、もう一つは入試の問題集を読書がわりに読んでいく方法です。
 過去1年間分の入試問題集はかなり厚いので、背表紙をはがして40ページぐらいにホッチキスでまとめてきれいな表紙をつけます。問題文が途中で途切れてしまってもかまいません。問題文ですから、空欄があってもそのまま読みます。問題は解きません。難しい言葉があったら辞書で調べるよりも身近にいるお父さんやお母さんに聞きます。
 毎日6ページずつ読んでいくと1週間で40ページの小冊子が1冊分読み終わります。毎日10分程度の時間ですから、それほど負担はありません。
 読んだものを形として残したいというときは、読書ノートに前日までに読んだ分の四行詩を書いていきます。

 よく読みたい本がたくさんあって困るとか、易しい本ばかり読んで難しい本を読まないなどという相談があります。
 対処法は簡単です。読みたい本、又は、読む予定の本をずらっと並べて次々に数ページずつ読んでいきます。この場合も付箋を貼りながら読んでいくと、すぐにもとの本の読みかけのところまで戻れます。
 読みたい本を10冊ぐらい横に並べて次々に読んでいくと、そのうちに、自然にずっと読み続ける本が出てきます。その場合はその本をずっと読んでいきます。飽きたら気分転換にまた別の本を読みます。
 たくさんの本を並行して読んで頭が混乱しないかと聞く人がいますが、そういうことはありません。食事をするのに、ごはんを食べて、味噌汁を飲んで、たくあんを食べて、めざしを食べて、それで胃の中が混乱しないのと同じです。

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