◆暗写
貝原益軒は、「空に読み、空に書く」という指導をしました。(「和俗童子訓」より)
読むことと書くことは、同じではありません。暗唱の練習は作文に生きてきますが、より作文に生かしやすいのは暗写です。
しかし、読むことに比べて書くことは時間がかかります。そこで、中心にする勉強はあくまでも暗唱とし、暗唱した文章の一部を暗写することにしました。
現在、通学教室の中学生以上は、構成図をもとに音声入力をしています。ICレコーダーを使う形の音声入力なので、同じ機器を暗写にも使うことにしました。
まず、授業の前に、一人ずつ暗唱してきた文章を先生が聞きます。その300字から900字の暗唱が合格したあと、100字程度の一部分をICレコーダーに録音します。
その際、一文ずつ切って入れていくのがコツです。一文ずつ切っておけば、書き写すために再生するときに自然に文が終わるので、再生停止の操作をしなくて済むからです。
再生するときは、一文ずつ再生し、作文用紙などに書き写します。長文を見ずに、暗唱した音声だけをもとに書いていき、最後に長文と照合します。
書けない漢字は、ひらがなでかまいません。しかし、読点や段落は、なるべく元の原稿に合わせるようにします。
このように暗写の練習をしていると、暗唱のときも、書く文章として意識しながら読めるようになります。
◆音声入力
この暗写の練習をしていると、音声入力も全く同じようにできます。
音声入力の場合は、構成図を見ながら、自分が書こうと思う文を一文ずつICレコーダーに入れていきます。読むスピードは書くスピードの10倍以上あるので、1200字の文章でも10分もあれば楽に音声で入れられます。
全部音声で入れたあと、最初から一文ずつ聞いてテキスト化していきます。
実は、音声入力も、最初のうちは、なかなかひとまとまりのスムーズな文が出てきません。しかし、慣れてくると、手で書いたりパソコンで入力したりするのと同じように音声で入力することができるようになります。
作文は、考える過程と書く過程に分けることができますが、これまでは、書きながら考え、考えながら書くというふうに両者が渾然一体のものとなっていました。これはこれで楽しいものですが、忙しいときにはなかなか書くことができないということになります。
中学生以上の生徒が作文の勉強を続けるときに、いちばんネックになるのが、この書くことに時間がかかるということです。構成図と音声入力は、この時間的な制約をほとんどなくしてしまいます。
何しろ、わずか15分程度で構成図と音声入力を使って1200字程度の作文ができるのですから、勉強の能率はかなりよくなります。もちろん、その音声をテキスト化する作業を入れると、キーボードを打つ又は手で書くという物理的な時間は必要になります。しかし、忙しいときは音声だけで済ませておき、時間のあるときにテキストに直すということもできるようになります。
音声入力に慣れてしまうと、手で書くときに書けなくなるのではないかと心配する人もいると思いますが、そういうことはありません。逆に、文を音声で言ってから書くスタイルが身につくと、直接手で書くときにも能率がぐんと上がります。
言葉の森では、表記という言葉を、正しい書き方、正しい表記の仕方という意味で使っています。
正しい表記ができない原因は、二つに分けて考えます。
一つは、実力がないために表記ミスがある場合です。
もう一つは、正しい表記知識を知らないために表記ミスがある場合です。
第一の実力がないための間違いの例としては、次のようなものがあります。
(1)単なる書き間違い
「ぼくは」と書くところを「ぼくわ」と書くような例です。
(2)不自然な言い回し
「おもしろかったです」を「おもしろいでした」と書くような例です。
(3)文のねじれ
「ぼくが行ったところは、かまくらに行きました」というような例です。
(4)「それで」の多い文
「……。それで……。それで……。」と続く文です。
直すときは、「『それで』『そしたら』『それから』『そして』は、原稿用紙1枚に1つだけなら書いていい」と指示します。
(5)「たら」や「して」で続く文
「……たら、……たら、……たら……。」と延々と続くです。
直すときは、「早めに『。』をつける」と指示して、実際に文を途中で二つに分けてみせます。
以上の表記ミスは、子供が自分の作文を読み返すと自然にわかります。
しかし、こういう間違いをする子は、文章を読むことにまだ慣れていないので、読み返すということ自体がなかなかできません。
これは、注意して直すというよりも、実力をつけることによって自然に直るのを待つというのが基本です。直すこと自体は問題ありませんが、理屈で注意するだけですぐに直るとは思わないことです。
第二、正しい表記知識を知らないために起こるミスです。
しかし、表記の正しさは歴史的なもので時代によって少しずつ変わっていきます。現在、どういう使われ方が主流になっているかということを基準にして正しさというものを考えていきます。
その際にグーグルなどのヒット件数で多いものが参考になります。ただし、正しくない表記の方が多くヒットするという場合もあるので、ヒット件数はあくまでも参考です。
例えば、今グーグルで検索をすると(2010年2月現在)「話をする」よりも「話しをする」という言葉の方が多くヒットしますが、正しい書き方は、「話をする」の方です。
昔と今とでは正しさの基準が違うというものがいくつかあります。
例えば、「続く」のふりがなは、昔は「つずく」が正しい表記でした。現在は「つづく」が正しいとされています。
「国旗」「読解」は、昔は「こくき」「どくかい」と読むとされていました。現在は、「こっき」「どっかい」という読み方です。
ひらがなで書いた方がよい字として、形式名詞の「こと」「とき」「ところ」「もの」があります。しかし、新聞などではスペースの関係で「時」は漢字で書かれています。
「子供」は昔の常用漢字音訓表では、「子ども」という書き方しか載っていませんでした。現在は「子供」という書き方も載っています。
「縦書きは漢数字」というのが一般的ですが、新聞では算用数字もよく使われます。パソコンで文章を書く時代は、同じ一つの文章が縦書きにも横書きにも使われることがあるので、どちらにも使える算用数字がこれから主流になってくると思われます。
小学校では禁則処理として、小さい「ゃゅょっ」を行頭に打たないと指導しているところがあります。禁則処理には、強い禁則処理と弱い禁則処理があり、通常は弱い禁則処理で「句読点やカッコの閉じは行頭に打たない」という程度が基準です。小さい「ゃゅょっ」は禁則処理としない方が普通ですが、どちらも間違いということではありません。ただし、今後はワープロソフトなどのデフォルト(既定値)となっている弱い禁則処理が主流になると思われます。
会話のカギカッコの中で、文の2行目の行頭を1マス空ける書き方があります。これは手書き時代の名残りです。パソコンで文章を書く時代には、2行目の行頭は1マス空けないのが普通です。
このあと、次のようなことを説明していきます。
○原稿用紙の使い方
○段落のつけ方
○読点の打ち方
○禁則処理
○ひらがなで書く字
○送り仮名のつけ方
○常体と敬体
○尊敬語と謙譲語
ここまで読んで来た人は、「こんなにいろいろ気をつけないといけないのか」とうんざりしてきたと思います。
私も書いていてそう思いました(笑)。
そこで、息抜きにダジャレでも。
「表記って、いろいろ細かいことがあるから気をつけてね」
「ひょー、きびしいなあ」
「表記が正しくないと、文章が病気になっちゃうんだよ」
「わあ、おもしろい表記」
「それ、ひょうきん」