前回の「
●解く勉強より読む勉強が国語力をつける」は、問題集読書の意義にあたる部分です。今回は、問題集読書の方法について説明します。
問題集に載っている文章には、悪文のものもありますが、総じてよい文章が多いものです。そのため、問題集は、国語力をつける読書のエッセンスになります。しかし、もちろんそれが読書のかわりになるというわけではありません。
(1)問題集読書は、黙読で読みます。音読だと、読むのに負担が大きくなり長続きしなくなるからです。
(2)面白いところに傍線を引きながら読みます。借りた本の場合は、付箋をつけながら読みます。これは、再読のときにも役に立ちますし、問題を解くときにも役に立ちます。
国語の試験の問題文をきれいに読む子がいますが、文章を読む問題は、必ず問題文に線を引きながら読む習慣をつけていきます。これは、英語の問題文を読む場合も同様です。
(3)言葉の意味でわからないものがあったら、近くにいる人に聞きます。辞書で調べる必要はありません。どうしてかというと、手軽にできて長続きすることが大事だからです。辞書をで引く場合は、読んでいる途中で引くよりも、読んでいるときは印だけをつけておき、全部読み終えてからまとめて調べるようにします。
(4)問題文は読みますが、問題は一切解きません。問題を解く勉強は、実力をつける勉強ではなく、勝負に慣れるための勉強にすぎないからです。これが、国語の問題が、数学などの問題とは根本的に性質の違うところです。
(5)問題文に空欄などがあった場合は、飛ばして読みます。答えを入れて読む必要はありません。空欄があっても、文脈から読んでいけば内容は把握できるようになっています。
(6)1日の所定のページを読み終えたら、傍線や付箋のところを参考にして四行詩を書きます。四行詩は、「
●問題集読書の四行詩の書き方」を参考にしてください。小学校高学年以上の生徒は、「詩を書く」と説明するだけでその雰囲気がわかるので、すぐにリズム感のある四行詩が書けます。複数の文章を読んでいる場合は、その中のひとつにしぼって四行詩を書きます。
(7)1冊の問題集は、4回以上繰り返して読みます。問題集を最後まで読み終えたら、また最初に戻ります。1つの文章を続けて4回読むのではなく、全部の文章を読み終えたあと、また最初に戻って読むということです。
(8)傍線や付箋は、繰り返すたびにだぶるような形になります。1回目に傍線を引いたところを読んだときに、1回目の傍線で十分だと思えば2回目の傍線を引く必要はありません。2回目に読んだときにも更に傍線を引いておきたいと思ったところは、1回目と重ねて傍線を引きます。したがって、2回目の傍線は、1回目の傍線よりもずっと少なくなります。2回も3回も同じところに傍線を引くというのは、そこが自分にとって特に印象に残ったところだということです。
問題集読書に限りませんが、よく、本を無理に読ませて読書嫌いになりませんかと聞く人がいます。そういうことは、ありません。本には、読み手を引きつける力がありますから、読んで実力がついてくれば必ず本を好きになります。ただし、本人の読む実力に比べてあまりに難しい本は、楽しさよりも苦痛の方を大きくしてしまうので、適度な難しさということも大事です。
難しい本を読ませるときに生じる問題は、難しい本はどうしても読む量がはかどらないので、そのために易しく面白い本を読む時間も少なくしてしまうことです。読書は、山頂を高くすることも大事ですが、裾野を広げることもそれ以上に大事です。裾野となる読書で普通の語彙を実感をもって読めるようになるからこそ、難しい語彙のある本も味わいながら読むことができるのです。難しい本を読むためには、易しく面白い本もたっぷり読んでおく必要があります。
子供たちの多くは、ある本を読み終えるまで、ほかの本は読めないと律儀に考えます。そういうことはありません。読書は、何冊も並行して読んでいくことができます。この並行読書に役立つのも、付箋読書です。付箋を見るとどの本をどこまで読んでいるか一目でわかるので、途中からすぐに続きを読むことができます。
小学校低中学年から問題集読書をさせるのは、あまりよくありません。そのころは、楽しく読める本がたくさんあります。小学校高学年までは、勉強のために読むのではなく、読書の楽しさを味わうために読むのが大事な時期です。小学校低中学年で楽しく多読して読書力の裾野を広げておくからこそ、高学年で難しい文章も読むことができるようになるのです。
小学校低中学年で国語の問題集を解かせるのは、更に意味がありません。そのころは、楽しく遊んだり楽しく本を読んだりすることによって、実感の裾野を広げていく時期だからです。
また、小学校高学年や中学生や高校生でも、問題集読書をしているから、普通の読書はしなくてよいというのではありません。受験勉強が多忙になってくると、普通の本を読む時間がなかなかとれなくなるので、そのかわり密度の濃い問題集読書で読む力をつけておくということです。
実力のある子は、受験勉強の最中でも時間を見つけては短時間の読書をしています。読書の原点は、子供がもっと自分を知的にも精神的にも成長させたいと思う内在的な意欲にあります。そういう読書がその子の本当の実力になっていきます。
国語力をつけるには、解く勉強ではなく読む勉強をすることが大切です。だから、国語の勉強は家庭学習に向いているのです。塾に行って本を読むだけでは、授業らしくならないからです。
国語の勉強は、家庭学習で十分です。その家庭学習も、小学生では特に、ドリルよりも読書が勉強の基本になります。よく、問題を解く宿題の時間が多くて読書ができないという子がいます。解く勉強ばかりしていると、頭が悪くなります。
勉強には、実力をつけるための勉強と、勝負に勝つための勉強とがあります。問題を解く勉強は、実力が変わらないことを前提にした、勝負に勝つための勉強です。
勝負のための勉強は、受験勉強の最後にすればよい勉強です。例えば、国語の問題の解き方は、1時間もあれば説明できます。
●センター試験国語の解説に問題の解き方が載っています。
その子が解いた模擬試験や志望校の過去問の問題をもとに、1時間も説明すると、どの子も国語の成績が急に上がります。しかし、それは最後の仕上げにする勝負のための勉強です。普段の勉強でいちばん大事なのは、実力をつけるための勉強です。それが読む勉強です。
さて、では、どういう本を読んだらよいのでしょうか。ひとつは、易しい面白い本で多読をすることです。これは、その子の実感の持てるところで語彙の手足を増やすことにつながります。これが国語力の裾野になります。
例えば、「かいけつゾロリ」という子供たちに人気のある本で、「そのとき、ゾロリはひらめいたのです」「イシシとノシシは、顔を見合わせました」という表現があったとします。子供たちは、面白おかしく笑いながら読んでいるうちに、「ひらめいた」「顔を見合わせた」という語彙を実感をもって味わいます。このことによってこれらの語彙が豊かな手足を持つことになります。語彙の豊かな実感の裾野があるから、難しい本になったときも、文章を味わって読むことができるようになるのです。
多読とは異なるもうひとつの読書は、難読(難しい本を読むという意味で使っています)です。これが、国語力の頂上を高めることになります。また、この難しい文章が、実際の入試問題に出ます。「かいけつゾロリ」は入試問題には出ません(笑)。特に、受験前の1年間は、難読を中心に頂上を引き上げることが中心になります。しかし、低中学年で難読をさせると、易しい面白い本で多読をするという裾野を広げる勉強ができなくなります。
次回は、問題集読書の方法です。