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成長の途上に必要な強制と無駄―読書について as/934.html
森川林 2010/06/18 11:20 



 自由は、人間の本質的な欲求です。強制を喜ぶような人はいません。

 また、無駄のない能率のよさは、社会人にとって必須の能力です。能率の悪いことが評価されるような場所はありません。

 しかし、こういう大人の社会に長いこと属していると、成長期の子供にも同じような物差を適用してしまいがちです。


 その一つが、強制と自由についてです。自由を肯定するあまり、教育における強制の持つ意義を過小評価してしまうのです。

 大人は、自由に九九が言えます。日常生活の中で掛け算を自分の手足のように自由に使って生活しています。しかし、それは小学2年生のころに、九九を覚えさせられるという強制があったからできることです。

 日常のしつけも同様です。あいさつをする、靴をそろえる、イスをしまう、姿勢をよくする、ていねいな言葉をつかう、などは、自然に身につくものではありません。

 日本の文化に属していると、強制という意識はあまりありませんが、やはり文化的な強制によって初めてそのようなしつけが身についたのです。


 この自由と強制の問題が、現在、特徴的に表れているのが読書の分野です。それは、読書については、かつてあったような文化的、社会的な強制の環境が大きく変化しているからです。

 今の大人が子供の時代には、家庭での娯楽は、読書やテレビぐらいしかありませんでした。読書以外の娯楽が乏しいという環境に強制されて、本を読む力を身につけていったのです。

 しかし、大人になったころには、自分が強制的な環境で本を読むようになったことを忘れて自由に好きな本を読むという結果だけを読書と考えてしまうようになります。

 そのため、つい子供にも、読書は自分の好きなものを自由に読むべきだと考えてしまうのです。


 現代の社会は、テレビ、ケータイ、ゲーム、インターネットなど、読書以外の娯楽が豊富です。また、読書のような体裁を伴った、ビジュアルな絵だけで大体の理解ができる学習漫画のようなものも増えています。この豊富な娯楽の環境で、大人のレベルと同じように自由に任せていれば、読書の習慣は決して自然には身につきません。

 また、読書には、年齢による発展段階があります。幼児期に読み聞かせをたっぷりしたからといって、その後、小中高と自動的に本を読むようになるわけではありません。それぞれの学年で少しずつ難しい本もよむように読書の質が発展していくのです。


 こう考えると、読書については、しつけと同じようにある程度の強制が必要なのだということがわかります。しつけは見た目でわかりますが、読書力の有無は見た目ではわからないので、しつけ以上に意識的な強制が必要になってくるのです。

 強制という言葉はあまり印象がよくありませんが、実際にやることは次のようなことです。

 毎日、夕方の勉強が終わったら、最後に必ず本を10ページ以上読むことを生活の習慣にするということです(読む力のある子はページ数を増やしてもかまいません)。そして、夕方の時間があまりとれないときでも、宿題や習い事の時間よりも読書の時間をまず優先して確保するということです。

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肉食獣の果たしてきた役割 as/933.html
森川林 2010/06/17 10:02 


 言葉の森の通学教室のある港南台で、ミニチュア・シュナウザーのユメ(メス1歳)という犬を飼っています。生徒が900字の暗唱ができたとき、その賞状を渡すために、ユメが賞状を運んできます。と言いたいところですが、まだあまりうまくいっていません。賞状の入れ物をそのまま別のところに持っていって、中に入っているお菓子を食べようとするからです。▼・ェ・▼/

 ユメはいたずら好きで、普段も、やんちゃな顔をしてスリッパをくわえて、「あそぼうよ」という雰囲気で人を呼びます。

 このユメを見ていて、ふと、犬のような肉食獣がいたから、生物はここまで進化してきたのではないかと思いました。もし、地球が、草食動物のウサギやシカばかりであったら、争いのない平和な星にはなりますが、生き物は今のようには進化していなかったでしょう。犬のような肉食の動物がいたからこそ、外の世界に働きかけるという生物の積極性が出てきたのです。

 手塚治虫は、「ジャングル大帝レオ」の中で、肉食をやめて平和を志向するライオンを描きました。これは手塚治虫のヒューマニズムでしたが、もしアフリカにいるライオンなどの肉食動物が最初からみんな草食であったら、アフリカの草原は、コアラのような動物ばかりで占められていたでしょう。 ▽(・o・)▽


 日本人の多くは、相手の善意を信じる国民性を持っています。しかし、世界の標準は性悪説です。そういう性悪説の人々によって人間の社会は進化してきました。

 アダム・スミスは、個人の利益が全体の利益に通じるという神の手の世界を発見しました。ドーキンスは、愛や自己犠牲の中にも、実は利己的な遺伝子の意図が働いているという説を提唱しました。これらの西欧的な世界観は、日本人には違和感を感じるものです。

 しかし、現実は、エゴイズムに基づいた性悪説が、現代の社会の根底に流れています。

 人類は、たぶんこれからもっと進化して、今の社会を克服していくでしょう。しかし、ミネルバのフクロウという認識は、現実の世界が夕暮れになってからでなければ飛び立ちません。今、大事なことは、性悪説の理論に対して性善説の理論を対置させようとすることではなく、性善説が成り立つような社会を作っていくことだと思います。


 さて、では、肉食獣や性悪説が果たしてきた役割は、どのように考えられるのでしょうか。

 肉食やエゴイズムを否定するのではなく、もちろんそのまま肯定するのでもなく、それらを歴史的な役割として評価していくことが大切です。

 生物も人間も、肉食や争いを通して進化してきました。しかし、それは、肉食や争いが生き物の本質であったり、それらが生き物の目的であったりするのではありません。より大きな目的を実現するための自分たちが向上する手段として、そのような否定的な契機が必要であったということなのです。


 このことを教育にあてはめてみると、次のようなことが言えます。人間の本質として大事なことはあるが、その本質とは往々にして異なる形で、子供の成長にとって必要なことがある、ということです。

 その代表的なものは、一つは強制であり、もう一つは無駄ではないかと思います。(つづく)

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