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世界共通語となる可能性を持った日本語 as/954.html
森川林 2010/07/07 03:14 


 日本語という言語には、他の言語には見られない特徴があります。

 第一は、外界を人間化してとらえる母音言語という特徴です。日本語では、自然の音を左脳の言語脳で把握します。「雨がザーザー降っている」「セミがミンミン鳴いている」という表現です。音だけでなく、様子についても、「雲がふんわり浮かんでいる」「太陽がぽかぽか照っている」と様態を母音で表します。

 母音を人間世界の音、子音を非人間世界の音とすると、自然の音も含めてすべて母音の含まれる音で表す日本語は、自然そのものを人間的なものとして受け入れる言語だと言えます。日本文化におけるアニミズムは、この言語における自然の人間化と密接な関係を持っています。

 この外界を人間世界と同じようなものとして受け入れる発想から、自然に対する繊細な観察眼が生まれました。日本人は、自然を、人間が征服すべき単なる外界の素材と考えるのではなく、人間に協力してくれる意志を持つ仲間のように考えます。例えば、針供養は、針を道具としてではなく、仕事の協力者として見る発想から生まれました。

 自然や道具に対するこの人間化した見方が、自然や機械と対話する日本文化を生み出しました。日本の工業製品の品質が優れているのは、人間と製品の間に、人間どうしの間に見られるような対話があるからです。その対話の土台となっているものが、日本語の母音性から来るアニミズム的な発想だと思います。


 第ニは、表意文字と表音文字を組み合わせて視覚的な理解を促す漢字かな混じり文という特徴です。日本語における漢字とかなは、脳の異なる部位で処理されています。漢字は、絵と同じようなものとして認識されているので、日本語の文章を読むと、文字が視覚的な映像を伴って処理されます。このため、漢字かな混じり文は、一目で全体を理解しやすいという特徴を持っています。

 アルファベットのような表音文字の場合でも、文章を読む量が増えてくるにつれて、単語という文字の塊を一種の図形のように認識するようになるようです。しかし、図形化の度合いは、もともと表意文字である漢字の方が優れているので、日本語は西欧のアルファベット言語よりも、物事を理解する手段として有利な言語なのです。

 また、漢字が主に名詞として概念を表すのに対して、ひらがなは主に概念と概念をつなぐ媒介としての役割を果たします。中国語が語順によって概念と概念の間にある関係を表すのに対して、日本語は語順ではなく、漢字と漢字の間にひらがなをはさむことによって概念相互の関係を表します。ひらがなが介在することによって、概念を表す漢字の組み合わせ方が自由になるというところに、日本語の発想の豊かさがあります。

 日本語は、表意文字の部分で理解力を高め、表音文字の部分で創造性を高めるという不思議な特徴を持った言語なのです。


 第三は、助詞や助動詞という語尾のニュアンスで微妙な差異を表現する膠着言語という特徴です。英語や中国語と異なり、日本語は、文の最後まで聞かないと、その文を正しく理解できません。例えば、「私は、明日、学校に行く……」まで聞いても、そのあと、「行くでしょう」か、「行くかもしれません」か、「行く気はありません」か、どのように続くか判断できません。

 そのため、日本語は、話し言葉でなかなか句点をつけずに、いつまでも続くような形をとりがちです。「その件については、前向きに善処したいと、このように考えているわけである、と言いたいところですが、やはり、何と申しましても……」というような言い方になると、聞き手は最後まで気を緩めることができません。

 この膠着語における文末の微妙さが、日本文化における微妙な差異に対する関心を生み出しました。そのため、話し言葉では、文末は、しばしばぼかされる形で微妙な雰囲気を相手の受け取り方にゆだねます。「この間は、どうも……」「はい、おかげさまで……」「ちょっと、そこまで……」などという言い方です。

 話し言葉の特徴は、書き言葉にも表れます。書き言葉では、文末をぼかす形がとれないので、言い切らない表現が多様されます。「そうである。」という断定ではなく、「そうであろう。」「そうだと思われる。」「そうだと言える。」「そうだと言いたい。」などという表現です。また、ニュアンスを表すための顔文字や「(汗)」「(笑)」などが多用されるのも、相手の微妙な受け取り方を前提にして文章を書くという日本語の特徴です。

 膠着語は、微妙な差異を生み出せるために、互いに相手の受け取り方に気をつかうという配慮の文化を生み出したと言えます。


 20世紀の世界言語は英語でした。それは、世界共通の言語としてコミュニケーションのツールに役立つ特徴を備えていたからです。

 しかし、今後は人工知能の発達によって、言語は次第に自動翻訳が可能な表現手段になってきます。

 世界に何千もの言語があることを考えると、個人が学習によってそれらの言語に精通することは不可能です。英語が世界の共通語になったのは、言語の習得に時間がかかることから、言わば消去法として選ばれたという事情があります。

 人工知能が世界中の言語の自動翻訳を可能にする時代に、言語に求められる役割は、もはや世界の人々とのコミュニケーションではありません。新しい時代の言語の役割は、コミュニケーションのツールではなく、理解や認識や思考のツールとしての役割です。

 しかし、言語が認識のツールになるためには、その言語が個人の母語になっている必要があります。コミュニケーションのツールであれば、後天的に習得することが可能でした。しかし、ある言語が認識のツールとなるためには、その言語が母語として血肉化されている必要があります。また、バイリンガルの教育法が開発され整備されれば、母語は複数であることも可能です。

 こう考えると、日本語は、感受性と理解力と創造性を育てる言語として、将来の世界共通語になる可能性があります。しかし、このことは、まだ日本人以外には、ほとんどの国の人が気づいていないと思います。

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オノチャン 20140706  
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頭をよくする勉強、成績をよくする勉強(その1) as/953.html
森川林 2010/07/06 10:50 



 「中学生の自宅学習法」を書いた内藤勝之氏は、少し変わった勉強経歴の持ち主です。普段は自分の好きなことをして遊んでいて成績も平凡なのに、受験の直前になって猛勉強をすると急に成績が上昇し、難関校に合格するという経験を繰り返してきました。

 このような例は、実は、ときどき目にします。受験向けの勉強をする前は、成績も普通なのに、いったん受験に向けた勉強を始めると、どんどん成績が上がるという人がいます。

 このコツのひとつは、勉強の仕方です。成績の上がる勉強法に共通しているのは、1冊の(薄いものであることが多い)参考書や問題集を何度も繰り返して、百パーセント自分のものにするという方法です。

 しかし、それとともに、もうひとつ見落とされがちなのは、実はその子が、成績は普通だったが頭がよかったのではないかということです。

 成績というのは、人工的なものですから、その人工的な枠組みに合わせないと成績は上がりません。逆に、人工的な枠組みに合わせて取り組めば、表面上はすぐに成績が上がるようになっています。

 例えば、国語の問題で、作者名と作品名を結びつけるような問題があります。その作品を実際に読んでいて自然に作者名を知っているという子よりも、作品の内容など知らずに機械的に覚えている子の方が成績はよいのです。

 ところが、そういう成績をよくする勉強は、決して頭をよくしているわけではありません。むしろ、成績をよくするための勉強を早くからしすぎると、かえって頭を悪くすることがあります。

 受験生で、夏休み以降に急に成績の上がる子がいるのは、以上のような事情があるからです。


 江戸時代の日本人の勉強法は、模範となる文章を素読やなぞり書きで反復して身につけるというやり方でした。そして、子供たちは、勉強以外の多くの時間をのびのびと明るく自由に遊んで過ごしていました。

 これと正反対なのが、賞や罰や競争で刺激をしながら、理解の度合いや記憶の定着の結果を評価するヨーロッパ的な勉強の仕方でした。

 西洋の学問を仮に成績と考えると、江戸時代の終わりごろ、成績的には0点だった日本人が、いったん成績向けの勉強を始めると、またたく間に欧米の成績に追いつき、やがて追い越すまでになったのは、当時の日本人が、成績は悪かったが頭がよかったからです。

 この頭のよさを育ててきたものが、少数の精選された教材を反復する勉強法と、明るく楽しく自由な日常生活でした。

 更に、日本には、日本語という特色のある言語をあったことも見落とせません。(つづく)

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