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記事 991番  最新の記事 <前の記事 後の記事> 2024/11/21
未来の学校 as/991.html
森川林 2010/08/14 09:58 


 今の経済の特徴をひとことで言えば、巨大な生産力、貧困化する大衆、不毛な巨大蓄積、カジノ化するペーパーマネーというアンバランスが混在している状態です。つまり豊かな生産力が、大衆の豊かな生活に結びついていないために、生産力自体のそれ以上の発展も停滞しているという状況なのです。(ここまでが前回の話)


 ベランダに植えたシイの木が、日当たりもよく水はけもよいのにあまり葉を茂らせていません。近くに寄ってよく見ると、枝にアリマキがびっしりついて、アリが忙しそうに枝を行ったり来たりしていました。

 ちょっとかわいそうですがアリマキを退治したら、数日してすぐに新しい芽が出てきました。人類が生み出した巨大な生産力を、人類すべての豊かな消費に結びつけるためには、途中にいるアリマキを退治すればいいのです(笑)。

 しかし、アリマキも生態系の中で何かの役割を果たしているわけですから、退治するとは絶滅させることではありません。木の根っこが吸収した水分を葉っぱに行き渡らせるのにさしつかえないぐらいの範囲で、アリマキもアリマキらしい人生を送っていけばいいのです。

 しかし、木の場合は、根っこと葉っぱが連動すればそれで済みますが、人間社会の場合はそう単純ではありません。なぜなら、人間は飽きる生き物だからです。

 最初は豊かな消費生活に満足していても、やがてその豊かさに飽きてきます。パンとサーカスに満足するだけではなく、もっと刺激のあるサーカスを求めるようになってきます。

 そして、やがてそこから新しいアリマキが誕生し、そのアリマキを利用するアリが登場し、アリマキを食べるテントウムシが登場してくるのです。

 もし、人間の生きがいを消費生活の豊かさの中にだけ見出そうとすれば、人間の社会は低いレベルで何度も支配と隷属と腐敗と反乱と革命を繰り返していくだけでしょう。そして、これまでの歴史の大きな流れはそうであったとも言えるのです。

 問題なのは、この支配と隷属と腐敗が、回を重ねるごとに徹底したものになっていき、その結果、そこから生まれる反乱と革命が回を重ねるごとに破壊的なものになっていったことです。

 この不毛なサイクルから抜け出る道は、人間の生きがいを消費生活の喜びの中に見出すだけでなく、生産活動の創造の中に見出すことです。

 大前研一氏は、「民の見えざる手―デフレ時代の新・国富論」の中で、国が豊かになるためには、個人が生活を楽しむグッドライフを目指すことだと述べています。いざというときのために、あの世に行く直前まで貯金を続けるつましい生活を転換して、多くの人が魅力ある豊かな生活を送るようになれば、経済も活性化し税収も増え国も豊かになるというのです。

 豊かなグッドライフを目指すことは、確かに今の日本が進むべき道でしょう。しかし、ウィークエンドのセカンドハウスを持ち、マリンスポーツと楽器演奏と海外旅行を楽しむようなグッドライフも、もしそれが消費的なレベルにとどまるならば、やがて飽きる人が出てきます。

 新しい消費生活が楽しいのは、それが新しい経験だからであって、新しいことを学ぶ楽しさと隣り合わせだからです。つまり、消費生活の楽しさは、その消費が創造的に感じられる間の楽しさなのです。

 では、永続する楽しさは何かと言えば、それは生産する楽しさです。しかし、生産が創造的に楽しいレベルになるまでには、その土台作りのための長い修行期間が必要です。消費を創造的に楽しむためには、定年後からの練習でも間に合いますが、生産の場合はそうではないのです。

 ところが、現代の社会では、若いときに創造的な生産の土台を作るような教育が行われているわけではありません。教育は、生産のための教育ではあっても、工場での性能のいい歯車となるための教育に近いのです。

 若い時期に創造的な生産の教育が十分になされていなければ、豊かな社会が到来しても、人間はその社会の中でより豊かな消費を追求し、より激しく飽きる人生を送ることになるでしょう。生産的な創造のために必要なのは長い時間です。なぜなら、人間は身体を持っているがゆえに、その身体に蓄積された過去の延長で生きているからです。

 生産的な創造の喜びは、キャッシュで手に入れるものではなく、自らの修行で手に入れるものです。この修行の場が、未来の学校の姿なのです。(つづく)

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現在の学校、今後の社会、未来の学校 as/990.html
森川林 2010/08/11 21:32 



 現在の学校は、英数国理社美技音体などという教科に分かれ、それぞれの教科に専任の先生がついて教える形になっています。そして、上の学校に行くための受験があり、その受験は応募者を選抜する必要から、点数の差をつけるために必要以上に間違えやすい問題を出す形になっています。教科がいくつかに分かれているのは、指導のためよりもむしろ評価のためと言っていいでしょう。

 必要以上に間違えやすい問題に接したときの子供の心情は、クイズのようで面白いとは思うものの、そこに本質的な価値を見出せないことから来る一種の空しさのようなものです。この結果、点差をつける競争に勝つ喜びを見出す少数の生徒以外の多くの生徒は、勉強に意欲を見出せない状態になりがちです。

 しかし、学校で受ける勉強には、その子の人生にとって真に必要なことと、受験という目的のために強制された不要なこととが分かちがたく結びついています。

 人間には、もともと向上心があります。真に必要性を感じることであれば、たとえ一時的に苦しくても子供は喜んで学びます。

 今の学校の問題は、子供たちが、受験という目的以外に必要性を感じさせれられない多くのことを学ばせられ、その結果本当に必要なことを学んでいない多くの子供が生まれているというところにあります。


 しかし、それは、これまでの社会において、学校というものが、教育の役割よりも選抜の役割を果たしてきたことから来るものです。

 ところが、その社会がこれから大きく変わろうとしています。

 これまでの社会の性格をひとことで言えば、物不足の社会でした。物不足とは、生産される物が不足しているだけでなく、その物を買うためのお金が不足しているという点で、金不足の社会でもありました。

 そこで、近代になって分業を使った大量生産と大量消費という仕組みが生まれ、やがて分業の究極的な形態であるグローバリズムの中で世界規模での大量生産と大量消費が行われるようになりました。

 この仕組みは、当初飛躍的な豊かさを生み出しましたが、やがて、生産力は桁違いに豊かになっているはずなのに、消費においては相対的な貧困化が進行するという奇妙な事態を生み出しました。

 それは、分業の恩恵が大衆的に還元されず、軍需産業の発展や、限られた小数のスーパーリッチ化という不毛な蓄積に向かっていったからです。

 今の経済の特徴をひとことで言えば、巨大な生産力、貧困化する大衆、不毛な巨大蓄積、カジノ化するペーパーマネーというアンバランスが混在している状態です。つまり豊かな生産力が、大衆の豊かな生活に結びついていないために、生産力自体のそれ以上の発展も停滞しているという状況なのです。

 しかし、この状況に対する解決の展望は、既にはっきりしています。(つづく)

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